第4話 初めてのお仕事、なのだ!
「いろんな依頼があるな」
ギルドの掲示板にいろんな仕事が貼ってある。討伐依頼から店の手伝いまで、幅広い仕事が並んでいる。俺たちにできそうで報酬のいいものは…
「これがいいのだ!」
手に取っていたのは…
『暗黒竜の討伐』
「できるかっ!万が一お前がいいとして俺は普通の人間って言ったよな」
「じゃあ、何をするのだ?」
「うーん…お、これがちょうどいいだろ」
目を付けたのは薬草を入手して納品するものだ。どうやら近くの山の川沿いに生えているらしい。
「えー…こんなのつまらないのだ」
「つまる、つまらないの問題じゃないだろ。俺たちには一刻も早く金を稼げるようにならないといけないんだから。文句言ってないで早くいくぞ」
他と比べて報酬は低いけど店の手伝いよりかは高いし、街に居続けるよりもマルの正体がばれるリスクは低いだろう。
山は街から見て俺たちの住んでいる森と同じくらいの距離にある。この感じだとすぐに戻ってこれそうだ。
道中には農場があった。広大な土地にいろんな作物が育っている畑があったり、地面に生えている草をのんきに食べてる家畜がいたりした。
「すごいのだ!こうやって育ててるのか!」
「知らなかったのか?」
「あんまりそとに出されなかったからな。本でしか見たことないのだ」
「前から思ってたけど、お前貴族か何かなのか?」
「多分そうなるんじゃないのだ?」
「じゃあ何で家出してきたんだ?」
「お前が気にすることじゃないのだ。そもそもお前に話す義理もないのだ」
なんか少し怒っているような、悲しんでいるような…
まあ、確かに他人の家庭の事情に深入りするのはよくなかったな。俺にだって話したくないことはたくさんあるし。
「話したくなければ話さなくていい。早く行くぞ」
気を取り直して山に向かって歩き出す。気づいたらマルとは少し間を開けて歩いていた。
「よし、この辺りだな」
ギルドでもらった薬草の絵を頼りに探し始める。
よく見ると、この薬草は川沿いの日陰にまとまって生えているようだ。これを持ってきたバッグいっぱいにすればいいみたいだ。
マルはいうと、早々に飽きて川で遊んでいた。
「疲れたのだ~」
薬草はいい感じに集まった。今日はずっと歩いていたし、さすがに疲れたから休むことにした。
「お前はほとんど何もやってないだろ。少し休んだら帰るぞ」
川のせせらぎとほどよく冷たい風が疲れを癒していく。いろいろありすぎたせいで気づかないうちにかなり疲弊していた。
ちょっとだけ寝るのも気持ちよさそうだ。
眠りから引き戻すように葉っぱが不自然に音を立てているのが聞こえる。とっさに体を起こし、身構えた。
油断していた。ここは異世界、どんなモンスターがいるのか分からない。異世界のモンスターといえばゴブリンとかスライムとか…
草むらをかき分けて毛むくじゃらで大きな体が身の毛もよだつほどの叫び声を轟かせながら飛び出してきた。
いや、普通に熊!だけどそれはそれでやばい!
「なんだやる気なのか?やってやるのだ」
「何言ってんだ、早く逃げるぞ!」
俺は急いでマルを脇に抱え、かごをもって全速力で山を下りた。
「何やってるのだ、降ろすのだ!」
小柄な体型に似つかないパワーで暴れる。
「最悪の事態を考えると逃げるのが一番だろ」
「吾輩は強いから負けないのだ」
「お前が大丈夫でも俺がダメだろ!俺はあいつのパンチ一撃でやられる自信がある。お前もお前でケガじゃ済まない可能性だってあるんだぞ」
必死に走っているうちに山を下りていた。ここまでくれば大丈夫だろう。その場に座り込み息を整える。
こんなに危険だったとはな。ギルドに仕事を依頼するわけだ。もっと情報収集する必要があったか。
「あんな奴絶対勝てたのだ」
マルはまだ拗ねているようだ。
「そう怒るなよ。俺は戦い方を知らないから逃げるしかなかったんだよ。とりあえず仕事は終わったし、届けに行くぞ」
もう後は帰るだけだ。早く帰ろう…
「だれか!助けてくれ~!」
遠くから助けを求める声が聞こえる。あの方向は確か畑があったところだ。
「事件なのだ!行ってみるのだ!」
「おい!一人で行くなって!」
マルは声のするほうに走っていった。もう走る元気はないぞ…
ヘロヘロになりながら追いつくと、畑がこの世のものとは思えない姿をしているモンスターに荒らされていた。
「もうやめてくれ~!」
「ここは吾輩に任せるのだ!」
止める間もなくマルは戦闘を始めた。モンスターがこっちに気づき、襲い掛かってきた。
「吾輩の力を思い知るがいい!シャドウボール!」
そう言うと手から黒い球が作られ、モンスターに向かって打ち出された。
見事に命中し、モンスターはうめき声をあげながら倒れ、動かなくなった。
すごい、これがマルの実力か。どれくらいすごいのかはわからないけど。
「はーーーっはっはっ!どうだ!弱すぎて話にならないのだ」
「ありがとう、助かったよ」
さっき助けを呼んでいたであろうおじいさんがお礼を言いながら近づいてきた。
「この辺にいる奴らじゃないのだなんでこんなところにいるのだ?」
「最近よくこいつらが畑を荒らしに来るんだよ。ギルドに退治するようにお願いしてるんだがなかなか来なくてね。困ったもんだよ」
「だったら吾輩が退治しに行くのだ!」
「おい、勘弁してくれよ。俺はもう疲れてるんだ。ギルドにも依頼してるんだったら誰かやってくれるよ。早く帰るぞ」
おじいさんには申し訳ないけど、そんな危険な仕事はまだやろうとは思えない。
「そんなこと言わんでくれ…もう一か月も好き勝手やられてるんだ。このままじゃ生活ができんくなる…」
おじいさんは帰ろうとする俺の腕をつかんで泣きついてきた。
「わ、わかったからそんなに泣くな!それで、どうすればいい?」
「こいつらは農場の裏にある洞窟から来ておるらしい。そこに行って原因を探ってくれ」
面倒なことになってしまった。そんな俺の気も知れず、マルはすごくやる気のようだ。
日は傾き、空が少しオレンジ色になっていた。
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