第47話 暴走、逃走

 そうして、時間は現在に。

 ここまでは<龍皇>がよくわからないアーティファクトというもので送ってくれた。

 飛び出したシュザベル・ウィンディガムに続いてジェウセニュー・サンダリアンは見覚えのない少年――彼が<龍皇>たちの話していたシンラク・フォートだろう――に対峙する。


『よいか、ジェウセニュー。恐らくじゃが、おぬしたちの故郷を襲うのはシンラク・フォートという神族(ディエイティスト)の子じゃ』

『シンラク……』

『何者でしょうか、それは』

『うむ。あやつはかつての神族の長、三代目アドウェルサ・フォートの親類に当たる者じゃ。ジェウセニューからすると父が討った先代の……なんじゃったかの、子ではなかったかと思うが……まあよい、唯一残った血縁じゃ』

『もしや、セニューを狙うのは……』

『その先代ってやつの仇、とか?』

『いいや、あの子にそんな感傷はない。理由はわしらにもわからん。あやつはすこーし前までこの里に身を寄せていた。じゃが突然、わしらの管理する古アーティファクトを持ち出し出奔したのじゃよ』

『……』

『持ち出した古アーティファクトの中に、おぬしの両親を封じているものがあるはずじゃ』

『じゃあ、そのシンラクってやつを捕まえれば……!』

『そこに居る可能性は高いじゃろうの』


 ジェウセニューは拳を握りしめる。

 少年――シンラクはあまり強そうには見えない。

 外見はジェウセニューとそう変わらない年齢に見える。だが神族らしい赤い両目を持っていることから、見た目通りの年齢ではないだろう。そもそも父ヴァーンの前の代の族長とやらの親族だ。ジェウセニューからすると途方もない年月を生きているに違いない。

 彼の琥珀色の髪が風に揺れる。

 詰襟のシャツに前合わせの変わった上着。下はヒダのついた変わったスカートのようなズボンを穿いている。

 細い切れ長の目を更に細めて、シンラクはジェウセニューを見て笑った。


「あア、会いたかったですヨ、ジェウセニュー・サンダリアン……!」


 ぞわりと全身の毛が粟立つような錯覚。まるで鎌首をもたげた蛇と対峙したネズミのような心地だった。

 シンラク自身に強者の風格はない。普通に正面からぶつかれば、きっとジェウセニューの方が強いだろう。そう思える程度の少年だ。

 なのに、どうしてこんなにも嫌な空気を纏っているのだろうか。

 シンラクの前には立ち塞がるようにして、見覚えはないがどこか見覚えのある二人の少女。見覚えはないが見覚えのある青年――恐らくニトーレ・サンダリアンの守護精霊(ガーディアン)クロアだろう――と対峙するのは猫のような耳と尻尾を持つ少女。

 ミシア・ウォルタと対峙するのは羊のような角を持つ少女。

 シュザベルが大事に抱えているフォヌメ・ファイニーズの姉ティユ・ファイニーズは全身を火傷していて、いつも綺麗に整えている赤茶の髪も一部焼けてしまっている。

 後ろには気を失った水精霊神官ラキア・ウォルタとなにやら苦しそうな炎精霊神官レフィス・ファイニーズをなんとか安全な場所まで移動させようとしているミズナギ・ウォルタがいる。

 そして――シンラクの足元。

 彼にすがろうとしているのか、足止めしようとしたのか、ジェウセニューの幼馴染たるモミュア・サンダリアンとその友人リーク・サンダリアンが蹲っている。擦りむいたのか、膝や腕から血が滲んでいるのが見えた。


「――ッ!」


 バチンッ、

 目の前が赤く弾ける。

 まずい。

 この感覚はまずい。

 そう思うのに、ジェウセニューは感情を抑えられない。

 誰かが耳元で、


――全部、壊してしまえ……!


 囁いた気がした。


***


 バリバリバリバリバリバリバリバリッ、

 凄まじい雷鳴が辺りに鳴り響く。

 先ほどまで晴れていたというのに空は曇天。

 空気が湿っていて重たい。

 抱えているティユが青ざめて震えている。その震えを直に感じながらシュザベルはごくりと息を飲んだ。

 全身の毛が逆立って、嫌な汗が背中を伝う。

 肌の上をピリピリとした静電気が這っている。

 轟音の発信源は――ジェウセニュー。


「……セ、ニュー?」


 小さく呟いた声はティユにすら聞こえず雷音にかき消された。

 後からやってきた他の友人たちも突然のことに動けず、迂闊に近付くと感電しそうでジェウセニューから距離を取る。

 ふと、龍族の里を出る直前にスハイルアルムリフに言われたことを思い出した。


『ジェウセニューは再び魔法を使えるようになった。だが、安定したとは言い難い。もしまた魔力が暴走するようなことがあれば……覚醒に近付きかねない』

『覚醒?』

『やつは<雷帝>の息子であり、神族の子。前例のない存在。そんなジェウセニューが真に目覚めるときが来るようなことがあれば……神界に封ぜられ、きさまらは二度と会うことはできなくなるだろう。それほどまでに危険な力を秘めている、ということを忘れるな』


 二度と、会うことができなくなる。

 そんなのは嫌だ。

 シュザベルはあとからきたメルベッタ・ダーキーに抱きかかえていたティユを託して立ち上がる。

 見れば、ミンティス・ウォルタとフォヌメも覚悟を決めた顔で前に足を踏み出していた。


「シュザ、ベル……?」


 ティユの不安そうな声が背中に落ちる。

 シュザベルは安心させるように微笑んで振り向く。


「大丈夫です。あのバカな友人を正気に返すだけですから」

「ついでに今度こそこの僕が如何に優れていて美しいかを叩き込んでやろう!」


 下の弟の発言にティユは力が抜けたのか、くすりと笑う。


「危ないことはしないで……」

「それはセニューに聞いてみないとなんとも。ですが、元凶を叩く必要があるんです。その前哨戦で大怪我をするようなことはしませんよ」


 薄く笑みを浮かべている少年を睨む。

 気付いたシンラクは唇で弧を描き、目を細めた。


「あの<雷帝>の息子の暴走……簡単に止められますカ?」

「止めてみせる――!」


 真っ先に動いたのはジェウセニュー。

 地を蹴り握りしめた拳に紫電が宿る。それを振り上げてシンラクへの必殺の一撃。

 にまりと笑ったままのシンラクは動くことなく、足元で少女たちが小さく悲鳴を上げた。


「――アーティファクト・剣の護り」


 シンラクの指に嵌められていたリングの一つが輝き、白い光を展開する。それは剣のような形となってジェウセニューを雷撃ごと斬り裂いた。

 そのままシンラクを護るように周囲を浮遊する剣たち。


「セニュー!」


 獣のように唸るジェウセニューに声をかけるが振り向きもしない。身体を紫電が這っているので触ることもできない。

 さて、どうするか。

 シュザベルは背後のティユたちが多少安全な範囲まで下がるのを肩越しに見やりながら考える。

 下手な攻撃では当たらない。当たっても雷撃にかき消されてしまう。

 かといって本気の攻撃もできない。もし当たり所が悪かったらと考えるだけでゾッとする。

 それにシンラクの足元にはジェウセニューの幼馴染たちがいる。彼女たちに間違って当たりでもしたら大事だ。

 それならば、とシュザベルは詠唱する。


「優しき風よ――シフィユ・トロワ!」


 風が巻き起こり、シンラクの横をすり抜けて少女たちを囲む。

 二人の少女の身体がふわりと浮き上がり、ゆっくりとティユの横に着地した。

 怪我をさせなかったことに安堵して再びジェウセニューに向き直る。

 ジェウセニューはシンラクから目を逸らさない。


「もー、セニュー!」

「唸り声まで上げて……まるで真・野獣だな」


 とにかく気を引こうとミンティスとフォヌメの魔法がジェウセニューを掠める。


「やい、セニュー。とうとう人語を忘れたのかい。なんならこの僕が教えてあげようか」


 そんなフォヌメの言葉が届いたのか、ジェウセニューはくるりとシンラクに背を向けた。ようやく正面から顔を合わせたジェウセニューの目は濁った金と赤の混じった不思議な色に見えた。

 少女たち、そして精霊神官たちがある程度安全な範囲に離れていることを再度確認してシュザベルは短い詠唱のみで魔法を放つ。

 ジェウセニューは鬱陶しそうに首を振るだけでそれを霧散させてしまった。

 思わず舌打ちしそうになり、背後にティユがいることを思い出し慌ててやめる。


「下手な魔法ではかき消される、かといって上位魔法では怪我をさせる恐れがある。……面倒ですね」

「まったく。暴走に覚醒だと? まるで物語の主人公の秘められた力編じゃないか! まったく! まったく! どこまで主人公属性をつけたら気が済むんだい! 野獣のくせに主人公ヅラして……!」

(作者注:主人公はジェウセニューです。主人公なんです……)

「主人公云々は置いといて。とにかく頭を冷やさせないとね」


 シュザベルはフォヌメも少し頭を冷やした方がいいのではと思ったが賢明なので黙っていた。

 なにかいい案はないか。

 ミンティスの言うように物理的に頭を冷やさせるのはありかもしれないが、そう簡単に当たってくれるジェウセニューではない。

 先ほどから軽口を言いながらもちょっとした魔法を投げているが一向に当たる気配がない。

 そのうちフォヌメが「ええい、面倒くさい!」と言って詠唱を始めた。

 ジェウセニューの雷撃を避けながらそれを止める手段はない。

 あっという間に教本で読んだ詠唱とはどこか違うものを唱え終わったフォヌメは炎をまとってジェウセニューに特攻した。


「愛くるしき僕に力を貸すがいい――フィラ・サンク!」

「ちょ……っ」

「うっわ、ほぼただの物理じゃん」


 ただのフォヌメの体当たりならジェウセニューはさっさと避けるだろうし、避けられなかったところで体幹のいい彼のことだ、よろめきもしないだろう。

 だが炎に包まれたフォヌメは周囲に炎弾を展開させており、それがフォヌメ本体より早くジェウセニューを襲う。

 それを弾いている間にフォヌメはジェウセニューに体当たりをした。

 本人には別の意図がありそうだが、それはどう見てもただの体当たりだった。ちょっと熱そうではあるが。

 二人の青年がぶつかった瞬間、小さくはない炎柱が上がる。


「う、うわぁー……」

「え、ちょ、大丈夫ですよね? これセニュー大丈夫ですよね?」


 炎柱が収まり、傷ひとつないフォヌメは一仕事終えた職人のように晴れやかな顔でシュザベルたちを振り返った。

 いやに爽やかな笑顔に腹が立つ。


「よし、仕留めた!」

「仕留めちゃダメなんだってば! バカフォヌメ! バカ! バカセニューは無事!?」


 ミンティスは慌てて消火用の詠唱を始める。

 だが、ゆらりと陽炎の中から現れた影は――


「……ほぼ無傷ですね」

「なんかもう全員でキャトル撃ったらいい気がしてきた。心配するのバカバカしくなるよ」


 しかしティユほどではないがあちこちが焦げている。主に髪とか服とかが。

 龍族の里で修行するうちに龍族(ノ・ガード)並みの装甲でも手に入れたのだろうか、彼は。

 ため息を吐いてシュザベルは頭を振る。

 ミンティスではないが、本当に加減を誤ったらと心配していた自分が馬鹿のようだ。

 それならこちらもそれなりのつもりで詠唱し、強い魔法を使った方がいい。


「……ミンティス、セニューの頭を物理的に冷やしてあげましょう」

「おっけー。特大の水弾落としてあげるよ」

「ならば僕は……」

「フォヌメはちょっと向こうで舞っててください。貴方の舞いでセニューの気を逸らせます」

「よし、わかった! この僕の華麗なる舞いで野獣を魅了してやろうとも!」

「うわ、しれっと戦力外って言った」

「気のせいです」


 というかフォヌメ、ジェウセニューを魅了してどうする。

 おバカな友人は素直にテンポの悪い舞いを始めた。それを横目に見ないふりをしてシュザベルはミンティスより前に出る。

 幸か不幸かジェウセニューはあまり積極的にこちらへ攻撃してくる様子はない。

 だがそれもいつまで待ってくれるのか。

 早急に詠唱を終わらせるとシュザベルは風の刃でジェウセニューの動きを封じる。

 すぐ後ろでミンティスが詠唱を終えた。

 視界の端でなにやら呪われた男の踊りが見えるが気のせいだ。


「頭冷やせ、バカセニュー! 大いなる水よ――ウォタ・キャトル!」


 風が巻き上がるほどの勢いで複数の水弾がジェウセニューを襲う。

 水流が激しく、ジェウセニューの体幹を持ってしても立っていることはできない。

 吹き飛んだジェウセニューは鉄砲水のような勢いに巻き上げられ、そしてべしゃりと地面と抱擁した。


「……」


 誰もが息を飲んで見守る。

 ミンティスだけはストレス発散になったのか満足げだ。

 シュザベルははらはらとしながらそっとジェウセニューに近付く。

 ぴくりと地に伏したジェウセニューの肩が跳ねる。


「あ、生きてますね」

「……勝手に殺すな……」


 いつものジェウセニューの声が返ってきてシュザベルはほっと胸を撫で下ろす。


「頭、冷えました?」

「……おう。乱暴だったけどな……」


 ずぶ濡れの頭を振りながらジェウセニューが起き上がる。

 見上げられた目はいつも通り、少し赤みのある綺麗な蜂蜜色だったことに安心してシュザベルは軽く風を吹かせて水気を飛ばしてやった。

 ミンティスとフォヌメも近寄ってくる。


「ほんっと、感謝してよね」

「悪い」

「この僕の麗しき舞いに見とれる許可を与えたんだ、戻らなかったら許さないぞ」

「おまえはちょっとなに言ってるのかわっかんねーんだわ」


 ジェウセニューは安心してほしい。それはシュザベルにもミンティスにもわからない。

 離れたところで魔法族(セブンス・ジェム)随一の舞い手たるリークが頭を抱えながら「あんなもの舞いとは認めなーいっ!」と呻いているのが見えた。

 もう大丈夫、と言うジェウセニューを立たせて――違和感。


「……あれ、」


 ジェウセニューに続いてミンティスたちも違和感に気付いたようで、きょろきょろと辺りを見渡す。

 それにつられてティユやモミュアたちも不安そうに周囲を確認した。

 ――シンラクがいない。


「しまった!」


 さっと顔を青くする一同。

 よくよく見れば静かにニトーレが地面に倒れていた。

 守護精霊の三人の姿も見当たらない。

 ミズナギは足を抱えて蹲るミシアのもとへ、モミュアとリークはニトーレのもとへ駆けよった。


「ニトーレさん!」


 リークが泣き出しそうな声を上げる。その声にジェウセニューも走ってそちらへ向かった。

 視界の端でイユがティユとミシアの怪我を見ているのを確認して、後ろ髪引かれながらもシュザベルもニトーレの方へ走った。

 リークに抱え起こされたニトーレの顔色は他の二人の精霊神官と同じように悪い。

 もしやと思えばニトーレは小さく「悪い」と呟いた。


「油断した……あのガキに雷精霊(ヴォルク)連れてかれた」


 一応、繋がりは切れていないので命に別状はないとのことだ。一同はほっと胸を撫で下ろす。

 それにしても、シンラクの手元には既に三体の精霊がいることになる。

 ジェウセニューが我に返ったので空はもとのように晴れているが、シュザベルたちの心境は曇天のままだ。

 あの<龍皇>でさえ、あの少年の真意を計ることはできなかった。

 一体なにを考えているのだろうか。


「ニトーレ、あいつがどこに向かったかわからないか?」

「ニトーレさん、だバカセニュー。……南の方角へ走っていったのは見た。ここからなら港の方だ」

「港……?」


 てっきり残りの光、闇、地、風のどこかの集落へ向かうと思ったのだが。

 まさかこのまま船に乗って逃げるとは思えない。

 治療を終えたらしいイユと一緒にメルベッタとネフネ・ノールドもシュザベルのそばにやってくる。

 七人は顔を合わせて頷いた。


「行くぞ、港へ!」

「真意はわかりませんが、追うしかありませんね」


 イユが治療したとはいえ怪我をしたティユたち、そして倒れた精霊神官たちを放っておくのは気が引けるが、遠くからティユの妹シュマ・ファイニーズが人を伴ってやってくる声が聞こえてきた。

 あとは彼女たちに任せるとしよう。

 シュザベルは一旦ティユのそばに膝をつき、安心させるように髪を撫でた。


「ちょっと行ってくるので、状況説明などをお願いします。……火傷痕が残らないようで安心しました」

「……どうして、シュザベルたちが行かなきゃいけないの……」

「すみません、どうしても自分の手で懲らしめないと気が済まないバカな友人がいるんです。それに、わたしも大切な人が傷付けられたことを怒っています」

「……絶対に、ちゃんと、無事で、帰ってきて。みんなで」


 ティユの言葉に微笑んで「もちろん」と答え、軽く頬を撫でる。ティユはくすぐったそうに小さく笑みを零した。

 それを見てシュザベルは友人たちのもとへ戻った。

 もとより怒りの隠しきれていないジェウセニューだけではなく、他の五人もどうやら頭に来ているらしい。


「ぜってぇぶん殴る!」

「まったく……この僕の兄さんだけでなく姉さんにも手を出すだなんて……」

「イユクン、暴力嫌いだけどこういうのはもっと許せないなー」

「許さんぞですよ」


 余計な荷物は投げるようにしてその辺に放り、肩を回したり屈伸をしたりしてそれぞれやる気は十分だ。約一名、相変わらず言葉遣いがおかしいが。

 さあ、いざ決戦だ。

 精霊たちを、そしてジェウセニューの両親を取り戻す。

 全員が駆けようとしたとき、その背中にモミュアの声がかかった。


「セニュー……!」

「モミュア。止めてくれんなよ」

「と、止めない! でも……その、」


 彼女もなにか言い知れないものを感じているのだろう、なにをどう声をかけるべきかと迷っていた。

 だがふと思いついたように意を決した様子でモミュアは顔を上げてジェウセニューを真っ直ぐに見つめる。


「今日の晩ご飯、カレーだから!」

「!」


 ジェウセニューの目の色が変わった。

 元々真剣な様子だったが、更に覚悟を決めたように。


「すぐ戻る!」


 そう言い残すとジェウセニューは六人を置いていく勢いで港へ走り出した。

 ちょっと、とミンティスが声をかける暇もない。慌てて全員で駆け出す。


「なに今の会話!? 必要だった!?」

「……駄目ですね、聞こえてませんよ」


 先頭を走るジェウセニューの頭の中を覗けるのならばきっと今頃(カレーカレーカレーカレーカレーカレーカレーカレー……!)とエンドレスなことだろう。

 どうにも締まらないが、これが自分たちなのだろうとシュザベルは走りながら嘆息する。少しばかり複雑な気分だが。

 ネフネなど既に目的を忘れたかのように、ただの港への駆けっこと言わんばかりにジェウセニューに肉薄する勢いで走っている。

 せめて自分だけは目的を忘れないように、冷静でいられるように、とシュザベルは気を引き締める。

 木々の間から、港が見えてきた。

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