第21話 (セ)心の淀みを吐き出すこと

 龍族(ノ・ガード)の里にジェウセニュー・サンダリアンがやってきて数日が経った。まだ魔法を上手く扱えるようにもなっていないし、アルゴストロフォスも変化が上手くいく気配もない。

 徐々に焦りがやってきている今日この頃で、その日の眠りも少々浅いものだった。

 その日、ジェウセニューが目を覚ましたとき、もう日が昇り始める時間だった。

 まだ眠たいという瞼をこすりながらリビングへ向かう。いつもだったらマースティルダスカロスが既に「底」で採った果物を抱えて「朝ごはん持ってきたよ~ん」と笑っているはずだった。

 が、マースティルダスカロスの姿も、それに連れられてきた眠たそうなアルゴストロフォスの姿もない。

 あったのは――


「おや、起きたか。早起きで感心、感心」


 知らない男女不明の人物の姿だった。

 腰より長い、白く光る銀髪。白い肌は人形のようで、瞳はサファイアのような碧眼。すらりとした体躯は凹凸がなく、男か女かの判断がつかない。

 真っ白なローブのような服を着ていて、足元はこの里でよくみる形の簡単なサンダルだった。

 龍族の誰か、なのだろう。

 しかしこの顔は初めて見る。誰だろう。

 ジェウセニューがぽかんと口を開けているのを見て、その人物はきょとんと首を傾げた。


「うん? どうした、神族(ディエイティスト)の小僧の子よ」

「え……え? えっと、どちらさま……?」


 うん? と彼だか彼女だかは更に首を傾げる。

 そうしてようやくなにか思い至ったのか、ぽんと手を叩いた。


「おお、この姿で会うのは初めてじゃったか? わしじゃ、<龍皇>じゃよ」

「えっ、<龍皇>……サマ……!?」


 先日会ったときはジェウセニューの半分くらいしか背丈のない小柄で髭もじゃの老人だったはずだ。それが今はどうだろう、すらりとした長身はもしかしたら父よりも高いかもしれないほどにある。白く光る銀髪はきらきらと輝いていて若々しいし、横髪を耳にかける仕草は艶めかしい。

 ジェウセニューはますます目を丸くして目の前の人物――<龍皇>を見た。

 それを<龍皇>はくすぐったそうにくすくすと笑う。


「ふふ、どうじゃ、驚いたか」


 驚いて言葉も出ないとはこのことだろう。

 はくはくと口を開閉するジェウセニューはまるで金魚のようだ。

 こくりと唾を飲み込み、ようやくジェウセニューは言葉を発する気になった。


「……あの小さな老人姿は……」

「うむ、小さくてくしゃくしゃで、なんぞぷるぷるしておって可愛かろう? そもそもこの姿でヒトに会うとどうもいめぇじが違うとかでな……」


 しょんぼりと<龍皇>は肩を落とし眉を下げる。

 族長としての威厳が足りないのかもしれないとぶつぶつ言っているが、そんなことはないだろう。その整い過ぎた容姿とこの世のものとは思えないほどに美しい瞳は見るものを圧倒させ、言葉を失わせるものだ。

 とにかく、あの老人姿は威厳のため七割、<龍皇>個人(龍)の趣味三割くらいのものらしい。後者はよくわからないが、族長という立場でありなおかつこの地上で最も古い種族としてなにかしら思うところがあるのだろう。

 ジェウセニューとしてはどちらの姿も意外性があるのだが。


「さて、スハイルアルムリフとマースティルダスカロスが朝食を用意してくれておる。食べながら少し話をせぬか?」


 言いながら<龍皇>はリビングの真ん中にあるテーブルを指した。さっさと座ってしまった<龍皇>に促されてジェウセニューも椅子に座る。

 テーブルの上には二人分のコップと水差し、それから今日の朝食としてマースティルダスカロスが採ってきてくれたらしい果物が皿に乗せられていた。

 拳大の大きさのレモンのような見た目をしたリマオの実だ。味や食感は何故か白身魚に似ている。焼いて食べると美味い。

 このリマオの実も既に焼いてあるようで、一緒にフォークとスプーンが添えてある。火が使えないジェウセニューにはありがたいことだ。


「わしに気にせず、よく食べるとよいぞ」

「は、はい……えっと、いただきます!」


 既に半分に切られているリマオの実をスプーンで掬って食べる。ちょっと塩を利かせてもいいかもしれないなと思いながら、ジェウセニューはあっという間に二つ分を食べ切った。

 <龍皇>はにこにこしながらその様子を眺めている。

 少し、食べにくい。

 水差しからコップに水を注いで一気に飲み干す。寝ている間に火照った身体が急速に冷えていくのを感じた。

 もう一つ食べてもいいだろうかと目の前に座る<龍皇>を伺えば、笑顔で薦めてくれたので遠慮なく食べる。

 腹がくちくなったところでほうと息を吐くと、<龍皇>もさてと両手を組んだ。


「魔力の制御は上手くいっておるかの?」

「……いや、まだ……です」

「ふむ。まあ、焦ることはない。急いては事を仕損じる、と言うものじゃ」

「……」


 焦るなと言われても、もうこの里に来て数日が経っている。神界は、両親はどうなっただろう。

 一昨日、マースティルダスカロスに無理を言って龍体に乗せてもらい、里を出ようとしたが、ある程度飛んだところでジェウセニューだけなにか壁のようなものに阻まれてしまいマースティルダスカロスの背から落ちた。

 慌ててマースティルダスカロスが戻ってきて空中で捕まえてくれたから地上に激突することはなかったものの、肝が冷えた。

 やっぱり最初の約束通り、スハイルアルムリフに一撃食らわせないと里からは出られないらしい。

 ジェウセニューが黙って俯いてしまったのを見て、<龍皇>は小さく息を吐く。


「小さき人属よ、小僧の子よ。そう落ち込むでない。おぬしの両の親はそう簡単にくたばるものではないじゃろう」

「……」


 母は一度死んでいるのだが、それは今は考えないことにした。また、心の中で蓋をする。


「こりゃ」


 突然、ぽこんと軽く頭を叩かれた。

 ジェウセニューは顔を上げて目を瞬かせる。

 手を伸ばした<龍皇>が困ったような顔で微笑んでいた。


「こりゃ、こりゃ。おぬし、今なにかを我慢したであろう? それじゃ、それがいかんのじゃよ」

「……それ?」


 <龍皇>は腕を組んでううむと考え込む。その宝石のような瞳がこちらに向けられると、なにを考えているのかすら見透かされているような気分になった。


「おぬしはどうも、内に抱え込み過ぎじゃの。……ふふ、神族の小僧そっくりじゃ」

「……父、さん……?」

「うむ。あの子も昔からなんでも抱え込んではどうにもいかなくなることがある」

「…………そんなとき、父さんはどうしてる、んですか?」


 うふふと<龍皇>は目を細めて笑った。


「なに、ちょいと用事を申し付けて手土産片手にこちらへ来るように言うのよ。手土産は大体、酒じゃな。神界のとある鉱物を漬けて醸した酒のなんと旨いことよ。あれは時々飲むにはいいものじゃ」

「はぁ……」

「こほん、まあ、それはよいか。それでだな、二人で飲みながら話すのじゃ」

「それ……だけ?」

「まあ、それだけじゃな。飲んでいると心のタガが外れ、口も軽くなるものよ。あやつはわしより酒に弱くてな、すぐに酔うて内に溜めていたものを吐き出すように喋る。わしはそれを聞く。それだけじゃ」

「……」


 話をするだけだという。それでどうにかなるのだろうか。

 ジェウセニューが訝し気にしているのを見て、<龍皇>はくくと笑った。


「話をするだけじゃと思うておるな」

「……違うのか……ですか」

「ふふ。ヒトというものはな、内に溜め込んだものを少し外に話すだけで軽くなるものよ。……おぬし、誰にも話せぬものを抱えておろう」

「……」

「まあ、無理にとは言わぬが……話してみぬか」

「……」


 ジェウセニューは再び俯いた。膝の上に置いた手をじっと見る。

 長年の狩りで傷ついたり、ナイフのタコが出来たりして、あまり綺麗とは言い難い手だ。

 魔法族(セブンス・ジェム)の集落でも、友人たちや同年代の者たちと比べても、なんだかごつごつと、ぼこぼことした大きな手だ。爪もよく割れるのであまり長くない。

 ……母がいなくなってから三年前までの九年間、一人で生き抜いた手だ。


(九年……ずっと、一人だった)


 吐き出してもいいのだろうか。

 <龍皇>は龍族の長だ。神族とは同盟関係にあり、神族の長であるヴァーンとは友好的な関係にあるという。

 彼(彼女?)になら、話してもいいだろうか。神族の者たちに緘口令だと言われたことを。

 父のことを。母のことを。

 話しても、いいだろうか。


「ゆっくりでよい、聞かせてくれぬか、おぬしの心を」


 ジェウセニューはそっと視線を上げて<龍皇>を伺った。優しく細められた宝石の瞳がこちらを見ている。

 この人(龍)なら、喋ってはいけないことを喋っても、他には黙っていてくれるだろう。そんな信用があった。


「……オレ、五歳のときにたった一人の家族だった母さんを亡くした、んです」

「わしのことなぞ気にせず、喋りやすいように喋るといい」


 ジェウセニューはこくりと頷く。


「母さんがいなくなって、ずっと一人だった。ニトーレ……さん、にはあれこれ教えてもらったりして世話になったけど、あの人も成人してない子どもだったからオレのこと引き取るとかそういうの、出来なかったらしくて」


 当時、次期雷精霊神官として神殿に入っていたニトーレはジェウセニューに知っている限りのことを教えてくれた。食べられる草、食べられない草の知識からお金の使い方や家の掃除、洗濯の仕方を教えてくれたのは彼だった。

 彼がいなければきっと、ジェウセニューは今ここにはいないだろう。

 でも――


「でも、オレは一人だった。集落の仲間の輪には入れず、友達もいなくて、みんな持ってるものを持ってなかった。……ずっと、寂しかった」


 数年前、別魔法族の友人が出来たときは自分でも驚いた。一気に自分を見てくれる人が増えた。嬉しかった。

 けれど、やっぱりみんなが持っている家族への憧れはあった。寂しかった。


「なのに、三年前いきなり……母さんが帰ってきた。この人が父さんだよって、いきなり言われた。オレ、意味わからなくて……頷くことしか出来なかった。……いや、嬉しかったのは嬉しかったんだ。母さんがいる、父さんも生きてた。でも……でも、なんでかわからなくて……どうしたらいいかわからなかった」

「それはちと困惑するのう」

「うん。……そしたら……実は母さんを殺したのが父さんで、母さんは<雷帝>で、魔法族の封印がとか、父さんが母さんを殺した理由はとか、そのあともあれこれあって意味わかんなくって……!」


 理由があったのだ、と母は言った。でも父は難しいことだから、知る必要もないことだからと教えてくれない。

 父は神族の長だという。神界という世界を統べ、地上を管理するたった一人の族長。

 神界に行って、神界にも歴史や生活があるのだと知った。


「父さんと一緒にいると、母さんがすごく嬉しそうに笑うんだ。幸せそうで、見てて呆れるくらいに。父さんだって、ちょっとわかりづらいけど、嬉しそうにしてるんだ。でもオレと一緒にいるともっと楽しそうにする。だから、オレも嬉しいんだ、と、思う」


 けれど、過去の九年間がどうしても邪魔をする。父に対する遠慮や猜疑心がないわけではない。


「最初は母さんを殺したやつだなんてって思ってたんだ。でもこっちが警戒するのがバカみてぇになんかパッとしないし、でも神族の長だとか言うし、リチギ?に毎回手土産持って晩飯食いにくるし、オレが狩ってきた肉が世界一美味いとか言い出すし、そのくせこっちにエンリョしてんのか、名前呼ぶときとか口ごもるし……あと変な寝言うるっせぇし」


 言い出したら止まらなくなってきた。

 そもそも、母も母だ。


「っつーか母さんも母さんだよ。なんで死んだのに普通に戻ってきたんだよ。嬉しいけどフクザツすぎるんだよ。そもそもなんで殺されるようなことになったんだよ。……父さんも、母さんも、理由教えてくれねーし! オレが……オレはもう、なにもわからない小さな子どもじゃないんだ!!」


 思わずテーブルに拳を落とした。ガチャンと食器が跳ねて音を立てる。

 ふうふうと肩で息をするジェウセニューを、<龍皇>は変わらず笑顔で眺めている。


「それを、小僧たちに伝えたことは?」

「……ない、です。今、初めて言った……」


 吐き出して気付いた。

 ジェウセニューはずっと寂しかったのだ。まだ親離れも出来ないうちにたった一人の家族に旅立たれた。それだけでも拗れてもいいのに、三年前にふらっと戻ってきた母という存在がある。

 よくもまあ今まで真っ直ぐ育ってきたもんだと思うほどだ。自分のことだが。

 大きく深呼吸して、椅子に座り直す。少しだけ叩き付けた拳が痛い。

 そうだ。

 誰にも言ったことがないのだ。自分で気付いていなかったことを誰かに悟ってもらうことなど出来ない。

 当たり前のことだ。

 両親がなにを考えているのかも、ジェウセニューはわからない。

 だって、聞いたことがないのだから。


「……オレ、言ってもいいのかな……」


 多分、冷静ではいられないだろう。二人を怒らせるかもしれない。

 <龍皇>はくくと笑った。


「おぬしはよい子じゃのう」

「……え?」

「あやつらが傷付くのではないかと思って、自分の中にある淀みを見せぬように振舞うか。おぬしはちと、よい子過ぎるのではないか」

「……別に、オレは……」

「よい、よい。子は親に反抗してこそよ。そうさな、あの小僧のことじゃ、一発殴ってみるのもよいかもしれぬのう」

「殴っ……」


 ちょっといいかもしれないと思ってしまった。

 ふふふと<龍皇>は楽しそうに笑う。


「先ほどの言葉、全て小僧たちにぶつけてみるといい。おぬしの家族のことじゃ。だんまりを決め込むことはあるまい」


 子どもは親に反抗してもいい。<龍皇>はそう言った。

 ジェウセニューにとっては目から鱗の発言だった。

 両親はきっと、ジェウセニューがなにをしても嫌うことはないだろう。ただ、間違ったことをすれば叱ってくれる、手伝いなどをしたら当たり前のように褒めてくれる、そんな存在だ。

 だから、ただジェウセニューの気持ちがもやもやしているからという理由だけで反抗してもいいのかと驚いた。


「少なくとも、おぬしたち家族は、おぬしがちぃと反抗した程度で壊れるものではあるまい」


 すとん、となにかが治まった気がした。

 なにもまだ解決していないのに、すっきりした気持ちになっている。


「そっか……」


 そうか、とジェウセニューは繰り返す。

 俯いた視線の先、手の甲にぽたりと雫が落ちる。


「そっか、オレ……もっとワガママ言ってもいいんだ……」


 <龍皇>は頷く。


「おぬしのそれは、我が儘と言うにはちぃとばかり可愛らしすぎるがの」

「……ふふ」


 ぽたり、雫が手の甲を伝う。

 しばらく、顔を上げられそうにはなかった。


+++


 顔を洗い直して、ジェウセニューは深呼吸をした。目尻が赤い。でも見ないふりをした。

 すっきりとした顔をするジェウセニューを見た<龍皇>は満足そうに頷く。


「おぬしの疑問、わしならば全て答えられよう。……聞かなくてもよいのか」


 ジェウセニューはこくりと首肯する。


「はい。それはやっぱり、父さんと母さんの口から聞きたいから」

「そうか。無粋じゃったの。許せ」


 <龍皇>はくすくすと笑った。

 手を伸ばして、ジェウセニューの黒髪を撫でる。それがなんだかくすぐったくて、でも相手が相手だから振り払うことも出来なくて、ジェウセニューは少しだけ俯く。


「そうじゃ、代わりと言ってはなんじゃが、なにかしてほしいことや困っておることはないか? わしが叶えてやろう」

「えっ……いや、別に……」

「ふふ、遠慮することはない。あの小僧の子ならば、わしにとって孫も同然。おじいちゃんと呼んでもよいのじゃぞ?」

「おじ……っ、いや、流石にそれは……」


 そうか、と<龍皇>はしょんぼりと眉を下げた。

 どこまでが冗談かはわからない。いや、全部本気なのかもしれないが。

 しかし流石にかの<龍皇>陛下をおじいちゃん呼ばわりするのは憚られた。いや、そもそも祖父じゃないし。

 きっと獣耳と尻尾があったらぺこんと下がっているだろうなという表情で<龍皇>は「そうかー、駄目かー」と呟いている。

 きっとそういうポーズなのだろう、とジェウセニューでもわかった。

 わかった。が、そのままにしておくことは出来なかった。


「……あの、一つだけ……言ってみてもいい、ですか」

「おお、なんじゃ。なんじゃ?」


 嬉しそうに<龍皇>は顔を上げた。宝石のような瞳が一層キラキラと光っている。


「えっと……最近、果物とかなんかの種みたいなのばっか食べてるから……肉とか、ちゃんと調理したものが食べたい、な……なんて……」

「うん? おお、おお、そうか。そうじゃな、わしら龍族は年を経るごとに経口摂取で栄養を取る必要もなくなるのでな……どうも食事というものへの関心が薄くての……。いや、若い者は外に遊びに行って人属の食事を楽しんだりしておるようじゃがの」


 そうか、そうか、と<龍皇>は顎に手を添えて頷いた。意識の外だったらしい。

 それでもジェウセニューの言い分を跳ね除けたりせずに真剣に考えてくれている。優しい人(龍)だ。


「そうじゃ」


 <龍皇>はぽんと手を叩く。嬉しそうにジェウセニューを見下ろした。


「チューシーポーヴァルというまだ若いが勉強熱心な若者がおる。あやつは確か最近は人属の料理にハマっておっての。あやつをここに派遣しよう。さすればおぬしは温かい料理が食べられる、あやつは料理が出来る上に食べてもらうことも出来る。うむ、うぃん・うぃんというやつじゃの」


 龍族の中でもとびきりの変わり者で、料理するのが好きな者がいるらしい。その人を派遣してくれると聞いて、ジェウセニューはほうと胸を撫で下ろした。

 果物だけの生活はしたことがあるが、やっぱり肉が食べたい欲は抑えられない。成長期なので。

 <龍皇>が「なにかりくえすとなるものはあるか?」と聞いてきたので遠慮なく「肉!」と答えておいた。

 元気な返答に<龍皇>も満足そうに頷く。


(本当に、話しをしただけなのになんだか気持ちが軽い)


 心に溜まったものをさらけ出すのが如何に大事なことか、ジェウセニューは学んだ。

 きっと、父も<龍皇>には頭が上がらないのだろう。そんな気がした。


――あいするひとのことをかんがえると、ちからがでてくるんだよ。


 神界へ行ったときにシリウスから聞いた言葉が思い出される。

 ジェウセニューの愛する人。

 父と母、家族はもちろん、友達だって幼馴染だって大事だ。他には従姉妹のアーティアやその相棒のヴァーレンハイト、もちろん集落の人たちだって。

 ぎゅうと拳を握り締める。

 ぱちんと胸の中で雷が弾けた。

 今なら、上手くいくような気がした。

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