第6話 ドッグスター

 神界に来て二日目。

 今日はシリウスという神族(ディエイティスト)と獣人族(ビァニスト)の間に生まれた者に会いに行くことをヴァーンに朝食の席で提案された。

 ジェウセニュー・サンダリアンは一二もなく頷く。


「時間があったら、そのあとに少し魔術制御訓練をするか」

「ホントか! やった」


 そう言って喜ぶジェウセニューを横でルネローム・サンダリアンがにこにこと眺めている。ヴァーンは眩しそうに目を細めた。

 朝食は城内にある食堂で食べた。松という女性とナールという魔族(ディフリクト)の少年が作ってくれたオムレツとサラダはとても美味しかった。

 食べ終わって空いた食器を返却口に戻してジェウセニューとルネロームはヴァーンに連れられて廊下を歩く。

 目的地は四天王の一人、シアリスカ・アトリの執務室だ。シリウスはいつもシアリスカと一緒にいるらしい。

 シアリスカの執務室に辿り着くと、部屋から出てくる金色の目をした少女の姿があった。


「ああ、イヅツ。シアはいるか?」


 イヅツと呼ばれた少女はヴァーンを見るときっちり九十度のお辞儀をした。ヴァーンが頭を上げろというまでその姿勢を保っていたのだから、随分と生真面目な性格であることが伺える。

 頭を上げたイヅツは分厚い丸眼鏡を上げながらちらりとジェウセニューたちを伺った。


「シアリスカさまでしたら、ラクム図書館に遊びに行かれました。シリウスさまもご一緒です」

「……あいつ、仕事は終わったのか」

「昨日までの分は。本日のものはあとでやるとのことでした」


 急ぎのものもないのでイヅツは見送ったのだという。

 ヴァーンは「図書館かぁ……」と少々困った顔をした。困ったというか、嫌そうというか、なんとなく抵抗があるような表情だ。顔上半分は布で覆われているが。

 イヅツはその横で微動だにせず書類を抱えたまま直立している。


「図書館に行くか」


 ヴァーンが言い、イヅツに礼を言って廊下を歩きだす。イヅツは再び頭を下げた。

 ジェウセニューも両親のあとに続いて歩き出す。ちらりと伺うと、イヅツはまだ頭を下げていた。



 ラクム図書館というのは城内ではなく、敷地内の隣にある建物がそれなのだという。

 真四角の大きな建物だ。外から見ると窓らしいものもないし、正面の大きな二枚扉以外に隙間らしいものもない。ただの大きな正方形が突然、目の前に現れたようなものだ。

 ジェウセニューがぽかんと口を開けて見上げている間にヴァーンはさっさと扉に手をかける。


「いいか、中には【悪魔】しかいない……。それを心しておけ」

「あ、あくま……?」


 魔族が時折そのような呼ばれ方をするが、それとは違うような気がした。

 ヴァーンは真剣な面持ちで扉を押す。音もなく扉は開き、薄暗い室内が姿を現した。

 そう、薄暗い。

 そして入り口付近には床に積み上げられた分厚い難しそうな本の山。気を付けないと躓いて倒してしまいそうだ。

 ヴァーンの白い外套を見失わないように速足でついていく。壁だと思っていたものは全部本棚で、やっぱりこちらにも分厚くて難しそうな本がびっしりと収まっていた。

 背後でルネロームが「地震があったら大変ねぇ」とのんびりとした声を出す。

 しばらく歩いて、開けた場所に出た。開けたと言ってもやはりあちこちに積み上げられた本の山があるのだが。


「陽炎、いるか」


 ヴァーンがカウンターのような場所に向かって声をかけた。

 先ほどより明るいことに気付いて、ジェウセニューは天井を見上げた。二階もあるらしく、上にも本棚があるのが見えた。光源は宙に浮くランプ。それがいくつも天井付近を漂っていて、本を焼かないように辺りを照らしていた。

 何度目かのヴァーンの呼びかけで、カウンターの奥からのそりと一人の男が顔を出した。

 真っ白なシャツに灰色のベスト、同色のズボン。楕円のフレームの眼鏡の奥に見えるのは眠たそうな糸目。ぼさぼさの黄みがかった白い髪をガリガリと掻いて面倒くさそうにカウンター越しにヴァーンの正面に立った。


「おや、族長。君が直接ここに来るなんて珍しいねぇ。今日はいつもの秘書君はお休みなのかい」

「別件……個人的な用事だからな。ラセツに任せるつもりはない」

「個人的……それはアレかい、そこにいるご婦人と少年に関することかい」

「ああ」


 ヴァーンと男の目がルネロームとジェウセニューを見た。なんとなく、背筋を正す。


「シアはどこにいる? ここに来ていると聞いたんだが」

「アリスなら奥にいるよ。呼ぼうか」

「頼む」


 男はカウンターに置いてあった本を数冊腕に抱えてカウンターの奥へと消えていった。ぼそぼそとなにか話をする声がする。

 ヴァーンは息を吐いて、男が消えた方を指す。


「あれは陽炎。このラクム図書館を管理する館長だ。このラクム図書館という空間はあいつの結界の中のようなもの。本を害したり、粗雑な扱いはしないこと。……痛い目に遭いたくなかったらな」

「い、痛い目って……」

「本にされる」


 へ、と気の抜けた声が口からこぼれた。横を見れば、ルネロームもよくわからなかったらしく、きょとんと目を瞬かせている。


「言葉の通りだ。本にされてやつの気が済むまで棚に収納される。たまに読まれる。聞いた話だが、内容は本にされた人物の歩んできた道が一人称で記されているとか」

「うわぁ……」

「この空間の中では常にやつが最上位。族長のおれですら、ここではやつに敵わない。いいか、絶対に本に傷を付けるなよ。やつは本狂いだ」


 本にされて自分の人生を読まれるなんて想像しただけでなんだか恐ろしい。ジェウセニューは力強く首を縦に振った。ルネロームも真剣にこくりと頷く。

 そのとき、カウンターの向こう側からくすくすと笑う声が聞こえた。

 ぎょっとしてそちらを見る。

 眼鏡のフレームを押さえる陽炎の姿がそこにはあった。


「おやおや、随分と警戒されているねぇ。そんなに怖がらなくても、簡単に本にはしないよ。……族長の半生には興味があるけれど、ね」

「……こいつは時々こうしておれを本にして読もうとしてくるから嫌なんだ」


 おやおや、と陽炎は口角を上げる。三日月のようなそれはいっそ悪意があると断定した方がすっきりするものだ。


「それより、アリスを探していたのだろう?」

「ああ」

「ほら、アリス。族長が用事だそうだよ」


 そう言って自分の足元に話しかけた。よく見れば陽炎の後ろから小さな影がひょこりと覗いている。

 橙色に近い明るい色の髪が耳まで隠す髪型をした赤目の少年だ。赤いシャツに、ヴァーンに似た白い外套。半ズボンは汚れ知らずの白。膝までのブーツ。

 丸くて赤いリンゴのような目は手元で開いている分厚い本に向けられていて、こちらを見ようともしない。

 ちらりと見えた本の表紙に「たのしい!一から始める拷問術」という物騒なタイトルが見えたような気がしたが、ジェウセニューは見なかったことにした。

 少年の見た目は十二、三歳ほど。可愛らしいふっくらとした頬にはなにやら焼け付いたような刺青が刻まれていた。少々痛々しい。


「おーい、シア」

「アリス、族長のお呼びだよ」

「ん……ちょっと待って、今面白いところだからー」


 少年――シアリスカは視線も上げずに話半分といった様子だ。

 陽炎はやれやれと肩を竦め、ヴァーンは小さく息を吐いた。こちらを見て「少し待て」と手で示す。

 ルネロームは気になったタイトルを見つけたのか、本棚の間をふらりと歩いていた。

 ジェウセニューは少年向けの冒険譚は好きだが、こうも難しそうな本は苦手だ。シュザベル・ウィンディガムならば喜んでここに根を張るだろうか。

 しばらく待つと、シアリスカがぱたんと音を立てて本を閉じた。満足そうな顔を上げて、きょとんと首を傾げながらヴァーンを見る。


「あれ、ヴァーン? なんでここにいるの?」

「ずっと呼んでたろうが」


 そっか、とシアリスカはくすくすと笑った。なにが面白いのかはよくわからない。

 シアリスカは不意にそのくりくりと大きな瞳をジェウセニューに向けた。ドキ、というよりはギクリという方が適している音を立てて心臓が跳ねる。

 きゅうと丸い赤目が月のように細められた。


「あ~、ジェウセニューだぁ!」


 うふふと笑うシアリスカは嬉しそうにジェウセニューの顔を下から覗き込んだ。


「!」

「あはは、ビビった? ただの縮地だよぉ」


 ただのってなんだ。

 いきなり目の前に現れたシアリスカに、流石のジェウセニューの野生も反応出来なかった。こくりと唾を飲み込む。

 後ろからヴァーンが手を伸ばし、シアリスカの首根っこを掴んでジェウセニューから引き剥がす。


「こいつはシアリスカ・アトリ。おれの一番付き合いの長い幼馴染だ」

「四天王の一角、シアリスカだよ☆ ねぇねぇ、ジェウセニューってヴァーンの息子だよね? いつもご飯食べに行ってるときってどんなヴァーン? 父親してんの? ふふ、ヴァーンが父親出来るのぉ?」

「うるっさい、ほっとけ!」

「ヴァーンには訊いてないよー。ボクはジェウセニューに訊いてるの! それともちゃんと夫の役割果たせてるか、ルネロームに訊いた方がいい?」


 あ、これオレを介して父さんを揶揄ってるんだ、とすぐに気付いた。子猫のように持ち上げられたまま、シアリスカはきゃっきゃと笑っている。

 呆れたヴァーンはパッとシアリスカの襟首から手を離した。重力に従ってシアリスカは床に足をつけた。無様に転がることもない。


「それより、シリウスに会いたいんだが、どこにいる?」

「シリウス? ……ああ、息子案件か」

「どこで誰が聞いているかわからないんだから、息子連呼すな」


 はいはーい、とシアリスカは了解したとは思えない声色で答えていた。大丈夫だろうか。

 シアリスカは静かにするように言って、ついてくるように手振りで示す。

 陽炎はカウンターで手を振っていた。ついてくる気はないらしい。

 シアリスカ、ヴァーン、ジェウセニューの順で本棚と本の山の間をすり抜けていく。

 本の迷路を抜けると、読書用の椅子とテーブルがいくつかある空間に出た。

 並んで本を読んでいる大小の影。


「じゃあ次っス。リンゴが三つ、ミカンが一つ、全部でいくつ?」

「んっと……ふたつ……みっつ……よっつ! よっつ!」

「せいかーい。じゃあシリウスがリンゴを五つ持ってるっス。それをシアリスカさまにあげるっスよ。いくつあげたら残り二つになるでしょう?」

「えっと、ええっと……ぜんぶあげる! いつつ!」

「いや、問題が……」

「リウのものはぜーんぶ、シアのもの!」

「……はい」


 大きい影はジェウセニューと同じくらいに見える青年。不思議な色の目と髪をしている。

 近寄ってきた宙を浮かぶランプに照らされて、髪の内側が夕焼けのような橙とピンクと紫と、グラデーションがきらきらと輝いている。その不思議な色をした髪をひっつめた彼の服装は陽炎と同じもの。違いは袖をまくっていることとベストを着ていないことくらい。

 小さな影は十か十一くらいの年のころの少女。薄灰色の髪から覗くのはイヌ科の獣耳。こちらに背を向けているので、お尻から生える同じ色の尻尾が嬉しそうにふりふりと揺れているのがよく見える。

 ――彼女が例の神族と獣人族の間に生まれた者だろうか。

 ちらりとヴァーンを見ると、意図を理解してくれたのか、こくりと頷く。

 こんな小さな子どもだったとは。

 その子どもはぴくりと耳を動かし、こちらを――いや、シアリスカを見た。

 赤く光る灰色のまんまるな目が嬉しそうに輝く。


「シア!」

「シリウス、勉強中にごめんね」

「もう一区切りだったんで大丈夫っスよ」


 夕焼け色の青年がちらりとジェウセニューたちを見た。


「ひぇっ、族長さま!」

「ああ、いい、いい。そのまま楽にしていろ。シリウスに用があって来たんだ。借りてもいいか?」


 はい、と青年は素直に頷く。

 椅子から下りたシリウスはシアリスカに嬉しそうに抱き着いている。薄い桃色のワンピースで、胸元に施された赤っぽい色の花の刺繍が可愛らしい。


「ヴァーン、リウによぉじ?」

「ああ。おれ……というか、この子と少し話をしてあげてほしいんだ」


 おはなし、と少女はジェウセニューを見上げた。

 ヴァーンはジェウセニューを指してシリウスに紹介する。息子とは言わなかった。


「これは秘密なんだが、彼は神族と魔法族(セブンス・ジェム)の間に生まれたんだ」

「……はんぶんだけ、リウといっしょだ!」

「そう。それで、最近上手く魔術制御が出来なかったり、熱が出たりするんだ。シリウスにもあっただろう」

「うん」

「どうしたらいいか、教えてやってほしいんだ」


 シリウスの頭を撫でて、ヴァーンはよろしく頼めるか、と首を傾げた。

 シリウスはぱっと嬉しそうに破顔し、ぴょこんと跳ねる。


「じぇうせ、にゃ?」

「ジェウセニュー……セニューでいいよ」

「セニュー! セニューは、リウとおんなじはんぶんこのヒト?」


 多分、ハーフだと言いたいのだろう。ジェウセニューはこくりと頷く。

 幼い言動だが、これでもジェウセニューよりも年上だという。神族の血が混じっているから成長が遅いのだ。

 ジェウセニューはその場に片膝をついて、シリウスに視線を合わせる。


「オレ、最近、時々だけど熱が出るんだ。今までそんなことはなかったんだけど……そういうことって混血だとあるもんなのかな」

「リウも、よくおねつでてた。シアがいつもしんぱいしてたくらい。でもね、いまはへーきだよ。シアがなおしてくれたの」

「ボクはただ、ボクの身の内にシリウスを封じてただけだよ。やったのはヴァーンだし」


 どういうことかと聞けば、数百年前――ヴァーンが先代を打ち倒すよりも更に昔、神族の魔力と獣人族の身体を持つシリウスは身体が魔力の大きさに耐えられず崩壊、暴走しかけていたらしい。

 そこでヴァーンはシアリスカを依り代に、シリウスの存在を解体して少年の身体に封じたのだという。無茶苦茶なことをすると思ったが、当時はそれしか方法がなかったのだという。

 ここで重要なのは、神族の魔力を他の種族の身体は受け止めきれないということだ。余りにも魔力差があれば、かつてのシリウスのように暴走しかねないという。

 ジェウセニューはぞっと背筋になにか冷たいものが落ちたような心地を感じた。

 ヴァーン曰く、ジェウセニューは神族に近い魔力と雷魔法族(サンダリアン)の身体を持っているという。つまり、いつ、かつてのシリウスのように暴走や崩壊してもおかしくないということだ。


「もしかして、熱が出たときとかに胸の辺りでぞわぞわするような熱っぽいものが広がっていく感覚って……」


 こくりとシリウスが頷く。


「リウもあったよ。ねつにたべられちゃうっておもったの」

「やっぱり……オレたちみたいな混血特有のものなのか……?」


 横でヴァーンがそんな話は聞いていないぞと見下ろしてくるが、あえて気付いていないふりをした。


「……あのね、セニュー」


 シリウスは眉を下げる。


「そのねつね、だめだよ。そのままにしてたら、むかしのリウみたいに、ぼーそうしちゃう」

「!」


 はっとヴァーンが息を飲んだのが聞こえた。

 白い布越しでも青い顔をしているのがわかった。

 ジェウセニューはぎゅっと手を握り締める。少しだけ、震えているのが情けないと思った。


「どうすればいい? シリウスは、それをどうやって克服したんだ?」


 えっとね、とシリウスはちらりとシアリスカを見た。シアリスカは首を傾げる。


「あのねぇ、まりょくでねつをぎゅーってとじこめるの。ぎゅってして、こねこねしたら、いっしょになるから、それをそとにどーんってだすんだよ」

「……うん」


 まずい、この子、ルネローム系だ。

 横でヴァーンが頭を抱えている。

 いや、でもルネロームよりは少しわかりやすい気がする。気がするだけで、理解出来ていないかもしれないが。


(つまり……魔力で熱を覆うようにして、捏ねたら一緒? になるから、それを魔法として外に出してしまう……ってこと、かな?)


 ずっと湧き出てくるようなものを自身の魔力でどうにか出来るだろうか。よくわからない。

 でも、やってみないよりはずっといいかもしれない。

 なにもしなければこのまま熱に身体を奪われて暴走するかもしれないのだから。

 ジェウセニューは頷いて、シリウスの頭を撫でた。ふわふわで洗い立ての犬のような手触りだ。シリウスは嬉しそうに目を細めている。


「ありがとう、やるべきことがわかった気がする」

「わぁい、どういたまして!」


 多分、どういたしましてと言いたいのだろう。

 やるべきことは簡単だ。内から溢れるような熱をどうにかすること。そして魔力操作を上手く出来るようになること。

 そうすれば、最悪の場合である暴走という状態を防げるはずだ。

 よし、と拳を握り直す。言うは易しだが、難しいことは考えなくて済むのはありがたい。

 立ち上がろうとしたところで、あのね、とシリウスはジェウセニューにそっと近付いた。

 どうしたのかと首を傾げると、耳を貸してほしいという。内緒話かとジェウセニューは左耳をシリウスに向けた。


「あのね、ばにらちゃんがおしえてくれたの。うまくいかなかったらね、すきなひとのことをかんがえるの。あいするひとのことをかんがえるの」

「ん愛……っ!?」

「あいするひとのことをかんがえると、ちからがでてくるんだよ」

「……はい」


 にこにこと微笑むシリウスはジェウセニューの耳から口を離すと、シアリスカと並んで手を繋いだ。

 シアリスカはいきなりの行動に目を瞬かせるが、やっぱり嬉しそうにはにかんだ。


(す、すきな……愛する、人……って)


 ドクドクと心臓が存在を主張する。頭に思わず浮かんだのは、方向音痴で料理上手な幼馴染の――


「あ、あああぁあぁぁぁぁぁああああっ」


 ジェウセニューは顔を真っ赤にして走り出した。背後で驚いたヴァーンが呼んでいるのが聞こえたが構う余裕はない。

 途中の本棚の間からルネロームも声をかけてきたが、やっぱり反応する余裕はなかった。

 辛うじて残っていた理性が本の山を避ける。

 走って、走って、走って――ジェウセニューは外に出た。薄暗かった室内からいきなり外に出たので太陽が眩しい。


(す、す、す、好き……って、その、オレは……)


 いや、本当はわかっているのだ。だって、お揃いの指輪の注文だってしてしまったのだし。

 真っ赤な顔を押さえて蹲る。

 きっと全身が赤い。

 心臓が早鐘を打っている。


「……………………帰ったら……」


 帰ったら、絶対にあの指輪を渡すんだ。その気持ちに偽りはない。偽りはないが……少々気恥ずかしいものがある。

 ジェウセニューはヴァーンたちが迎えに来るまで、図書館の扉の外に蹲っていた。


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