第4話 術が使えない男。

ペリドットは善戦していた。

元々真式の流れではないライブの血筋がスティエットを名乗ると言うのは並大抵のことではない。


よくライブは無限術人間模式としてイブやアクィ、メロなんかとの能力差を嘆いていた。

それは妻の序列にも反映されると思っていたライブは、ムキになり、それを肌で感じたジェード・スティエットは、自分の進む道を見つけるまでは常に焦燥感に襲われていて、ミチトに直結術をしてもらい、好きに動いていいと言われた時は、力に溺れて対戦相手のコルゴ・メイランを殺しかけた程だった。


その後で目の覚めたジェードの、「できないことをやろうとするよりもできることで目指す場所へ向かう」という言葉は沢山の人間の力になった。


その言葉はライブの子孫達の中で薄れてしまったが、プレナイト・ロスがアゲート・トウテの支配権を奪う為に修行に明け暮れた事で蘇り、プレナイトとアゲートの子孫であるペリドットはある種の努力という名の才能に恵まれていた。


自分はライブの血脈だから、弱いスティエットだという謙虚さが訓練を怠らせない。その教えを受けて訓練をしたペリドットはユーナに善戦をする。



辛そうに「くっ!?何が胸を借りるだ」というユーナに、「へっ!ジェードの教えだよ!」と言いながら攻め込むペリドット。


ペリドットは善戦していたが、ここでユーナが引き離しに入る。

腰のダガーナイフに持ち変えると、ペリドットと同じタイミングで滑走十連斬を放った。


弾き合う十連斬に「なっ!?」と驚くペリドット。

ユーナはニヤリと笑うと、「コード・スティエットがジェード・スティエットと仲良く訓練していた事を知らないのか?」と言って、再度滑走十連斬の体性に入ってペリドットもそれにあわせた。


三度目の滑走十連斬の際に身体強化をしていないペリドットはユーナに競り負けたが、シャヘルより善戦した事は明らかだった。



ユーナは「いい訓練になった。ありがとう」と言いながらペリドットを起こすと、「くそっ、滑走十連斬が使えるなら勝ち目なしだ」と言ってペリドットは素直に負けを認める。


ヴァンが「そんな事ないって!ペリドットも格好良かったしさ!ユーナはどう思った?」と言いながら前に出ると、ユーナは「俺には親父が居たからな。これはミチトが子供達とやった同じ威力でひたすらに撃ち合う訓練。その場数の問題だな。同じ訓練をやられていたら本物には敵わんさ」と悲しげに答えた。



次の相手はコーラルになる。

実のところ、ヘマタイトが出たがっていたが、アクィの指示でコーラルが出る話になる。


そしてヴァンはアクィの指示もないのに最適解を選び、ユーナに「ねえ、ユーナは愛の証って知ってる?」と声をかける。


「アクィの宝剣だな。トウテに置かれていてスティエットを名乗るアクィの血筋が借り受ける事が…」


ここまで答えた所でコーラルを見て「まさか…ここにあるのか!?」と慌てた面持ちでコーラルとヴァンに話しかけた。


「あるよー」

「ええ、あるわ」


ユーナの「頼む!シア・スティエットが教わった剣技を使ってみたいんだ!俺にもレイピアを握らせてくれ!」という必死な口振りに、コーラルは返事に困るとヴァンが「盗まない?盗まないならいいんじゃない?」と言う。


コーラルは困惑しながらもアクィに確認をし、4人のスティエットが本気を出せば奪還可能として渡す事にした。



震える手で「感謝する」と愛の証を受け取ったユーナは、コーラル程ではないが手足のように愛の証を振り回す。


「俺の声に答えてくれ…」

そう呟いたユーナは片手で二刀剣術の動きをすると、シアがアクィに教わっていた八連斬、本来なら十六連斬を披露した後で剣を見て、「俺ではダメなのか!?」と言いながらコーラルに剣を返すと、絶望の顔で「ひと勝負、頼めるか?」と言った。


アクィは「コーラル、本気の剣で向かいなさい」と指示を出し、コーラルはユーナが愛の証に語りかけながら絶望した顔を気にして「はい。ですがあの顔…」と言う。


「それは後、今は向き合いなさい」

「はい」


コーラルはユーナを見ながら「ヴァン、降りて」と言い、コロシアムから降ろさせると「我が名はコーラル・スティエット!ユーナ・スティエットに正々堂々の勝負を申し込みます!」と言った。



「俺はミントだ」

「いえ、スティエットよ。あなた、術はないなんて言いながら、ジェードの滑走十連斬を使ったわ。滑走十連斬よ。滑走術が使えたのよ」


これに目を見開いたユーナは「俺はヒールひとつ使えない!術を使えない!ミントだ!」と言いながらファットチャイルドを抜いてコーラルに切り掛かってきた。


コーラルはやはりスティエットでありサルバンなのだろう。強敵との戦いを喜び「これが最恐の豪剣!」と喜びながら、ファットチャイルドの一撃をいなすとユーナの背後を取ろうとする。


「ちっ!アクィの剣!ミチトに認めさせた剣!更に噂のイブを混ぜた血筋だな!?かつてミチトが特訓の必要のない才能と認めた剣!」

「ふふふ。楽しいわ!もっと!もっとよ!」


この後も本気の斬り合いが続く。

真剣勝負で当たればタダでは済まないのに2人とも止まらない。


「はぇ〜、コーラルって術無しでも強いんだね」

「大叔母様は記録の通りならサルバンの訓練に10歳でついていかれた猛者です」


「それって凄いの?」

「一言で言えば異常です。一般的な成人男性では付いていけません」

ヘマタイトのコメントに「ふぁ〜、凄いや」と言ったヴァンがここで、「ヘマタイト、ユーナのあの顔は何だったのかな?」と言い始める。


「あの顔…術の話をした時のミントの話ですね?」

「うん。なんかさ、オルドス様はユーナに俺達を会わせたくて、ガットゥーに呼んだ気がするんだよね」


「確かに…。ですがただ会わせて終わりとは思えませんね」

「だよねー。好きにしてみていいかな?」


ヴァンの提案に普通なら異論を唱えるが、ヘマタイトはヴァンを認めているので「お任せします」と言った。


「コーラル!本気出してよ!」


ヴァンの声にペリドットとシャヘルが驚くが、ヴァンは止まらずに「攻撃の術もユーナなら防げる気がするしさ!ユーナも良いよね!?」と声をかけると、「ふふふ。私は貴い者として殺傷力のある術はやめてあげるわ」と言いながらユーナを見た。


ユーナはコーラルを見て「舐める必要はない。放てるのに術を嫌いながら、きょうだいのトップを譲らなかったタシアの血脈をバカにするな」と言うと、コーラルは「楽しみだわ」と言いながらウインドブラストを放つ。


ユーナはニヤリと笑うとファットチャイルドをコロシアムに突き立て、ウインドブラストの直撃を耐え凌ぐと「流石はアクィとイブの血筋だな!」と言って切り掛かってくる。


コーラルは身体強化や軽身術を使いユーナを引き離し、氷結結界やサンダーデストラクションを放つ。


身体強化や軽身術は持ち前の反射神経でかろうじて防ぎ、氷結結界は起点をファットチャイルドで防ぎ、サンダーデストラクションはダガーに持ち替えた二刀剣術無限斬で、直撃コースにあるものを全て受け止めてしまっていた。


「ひ…非常識です」

「手がしびれないのか!?」

「何かが変だ…」


「どうしたのシャヘル?」

「あんな防ぎ方、普通の人間にはできない。氷結結界の起点を潰す事はメロとの訓練でミチトもやっていたと聞くが、サンダーデストラクションを剣で防ぐなんて変だ」


「変って言っても今もやってるよ?」

「だからだ…。ペリドットの滑走術も使った。とても術無しのやる事じゃない」


そうなると答えは簡単だった。


「もしかして…ユーナって術が使えるのに使えないとか勘違いしてるのかな?」

「…だがなぜそうなる?」


「んー…わからないけどヘマタイトってそこら辺を術で見破れたりしない?」

「僕ですか?……心眼術。ユーナに術が有れば赤…」


「どう?」

「…あります。彼は術使い…です」


「なら…心眼術、ユーナが真式なら緑」

「俺は…心眼術、ユーナの手にサンダーインパクトがあれば青」


ペリドットとシャヘルも心眼術で見極めた結果、更に変な事がわかった。


「…何だあいつ?真式なら緑にしたら点滅しやがる」

「だが俺の方はサンダーインパクトが発動していたぞ?」

「それは真式でなくても術使いなら可能です。ベリル・スティエットはジェードの力で真式に近い能力を発揮していました」


この事から得た結論は、大の大人が3人とヴァンが集まっても「よくわからないから本人から聞こう」になり、代表でヴァンが聞くこととなった。

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