第5話 勝者と敗者。

コーラルとユーナの戦いは佳境に突入していた。

いくらユーナが強くてもコーラルには敵わなかった。

だがそれには理由がある。


一つ目は自身を無限術人間真式と自覚しているかどうか、ユーナは自覚しておらずに勝手に人間の限界を意識して力をセーブしている事。


二つ目はコーラルはヒールを適宜使って肉体の消耗を最低限にしている事。


三つ目はコーラルは負けられない戦いとしてアクィの言葉に耳を傾けている事。


「イブ式の二刀剣術よ!あの剛腕からの剣はまだ打ち返してはダメ!私の二刀剣術、シアに対ミチト、タシアやロゼ用に教えた二式を見せるから使いなさい!」

「はい!」


コーラルは1秒よりも短い時間に目の前でユーナの剣を撃たせない二刀剣術を見せるアクィの背中を見て新たに覚える。


それは斬る二刀剣術の基本すらやめた突きの二刀剣術。


「撃たせないわ!収納術からレイピアを回収!二刀剣術!六連突!」

「ちっ!?六連突を知っている!?流石はアクィの血筋!」


二刀剣術は決して強い無敵の剣術ではない。

弱点もある為に連発するものではないし、ミチト達と訓練を共にしたサルバン騎士団は二刀剣術の耐え凌ぎ方を身につけている。


アクィはシアからタシアの放つ二刀剣術の打ち破り方を相談された時に、サルバン騎士団とは違うこの突き技を編み出した。


それは徹底して起点を潰して剣を撃たせない事。

アクィから教わったシアは「ありがとう!アクィお母さん!これでタシアと訓練してみるね!」と言ってタシアの無限斬をただの連続攻撃にしてしまっていた。


全く同じ図。

コーラルの起点潰しによって意地で剣を振ったユーナだったが、それは二刀剣術には遠く及ばないものだった。


「よくやったわコーラル!手首、肘、肩を適宜狙って二刀剣術を封殺するのよ。後はバリエーションを増やして相手を慣れさせてはダメよ」

「はい!ありがとうございますアクィさん!」


コーラルはレイピアをしまうと構え直してユーナを見る。

ユーナは劣勢を強いられていて肩で息をしている。

ここまで追い詰められたのはいつぶりだろうか…。

父に勝った後はそんな日は来なかった。


目の前のコーラルが「そろそろ終わらせましょう?」と言って鋭い眼光を向けると、ユーナは睨み返しながら「そうだな」と言った。


「素晴らしい経験だったわ。ありがとうユーナ・スティエット」

「何度も言わせるな…。俺はミントだ」


「よく言うわ。とりあえず次の一手で決着よ」

「ああ…。俺から行くぞ!」


ユーナは右手を上に、左手を下に構えると「二刀剣術!」と言って前に出た。

それはミチトがタシアに授けた二刀剣術無限斬専用の構えだった。


「コーラル!無限斬が来るわ!」

「…はい!ロゼお爺様は無限斬の知識を残してくれたから打ち破れます!」


コーラルは再度収納術からレイピアを出すと軽身術と身体強化を使う。


ユーナは「速さでくるか!対応済みだ!俺の無限斬は全てを斬り崩す!」と言って、もう一歩前に出た。


コーラルは前に出ずに力を溜めると「…我慢比べよ…超重術!!」と言った。


超重術でコロシアム全体を重くしたコーラルは、自分が普段の速さで動けるように軽心術と身体強化を使っていた。


ユーナといえばいくら本気で動こうが超重術の中では動きは鈍る。

コーラルはそれを見逃すわけもなく、アクィ式の二刀剣術を放ってユーナを沈めた。



剣を下ろして「ありがとうございました」と礼を言うコーラルにユーナは「俺こそ礼を言う。また頼めるか?」と言った。


場外でヘマタイトが「あれ?僕の順番は?」と言い、シャヘルが「やめとけ、折角の終わりだ」と肩に手を置いていた。


ヴァンはコロシアムに上がると「スッゲェ!コーラルお疲れ!ユーナもお疲れ!」と言いながらコーラルとヴァンの元に向かった。

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