第3話 ミントを名乗る男。

戦闘訓練、戦闘指南には200人もの冒険者達がやってきた。

もうこの200人がもたらす経済効果だけでガットゥーは潤ってしまった。

そうでなくとも、スカロ・サルバンのもたらしたパンケーキのレシピだけでもガットゥーは変わり、更に双子の当主、イイテーロ・ガットゥーとロワ・ガットゥーは父母の教えを守って麦や金策でガットゥーを栄えさせていた。


だがコレばかりはロリー・ガットゥーの血なのか、赤字でなくても儲けが前年比で落ち込むとなんとかしたくなる。

かつてはジェード・スティエットやロゼ・スティエットが、母や夫人を連れて大会に来てくれて、コレでもかと盛り上げてくれて居たが、国が荒れるとそれも無くなっていた。


そこにきて4人のスティエットの来訪には感謝しかなかった。


ラージポットの無限術人間が前もって何人かのスティエットを寄越すと言ってくれていたので口コミで宣伝をしておいた。


しかも条件は「急に手配した」という話に口裏を合わせるだけだった。



「さあ、スティエット様!戦闘指南をよろしくお願いします!」


この掛け声で戦闘訓練は始まった。

マネージャー代わりのヴァンが、折角4人居るのだからと来た剣士達に話を聞き、「あ、ダガー使いがご所望ならこっちに並んでね。女帝ライブの子孫だよ。あの女性剣士はアクィの子孫、あっちはイブの子孫だけどイブと違って大振り肉厚の剣ね。あの黒いのはメロの子孫だから二刀流だよ」と振り分けていく。


中には4人全員に戦ってもらいたいと言った者もいたが、「ごめんね〜。それやるとかなり高いんだよね〜」と言って話を片付けてしまう。


ヴァンの恐ろしさを改めて知ったヘマタイトは、「…ヴァン君は本当に恐ろしい」と言いながらも、「最近は対人訓練もなかったので楽しいですね!あなたは自分の防衛圏に簡単に入られることを意識すべきです!」と言って、盾を持ったショートソード使いの懐に入って首元に剣を当てて参ったと言わせる。


ペリドットも「ったく!なんでこうなる!」と言いながらも、ジェードが残した滑走十連斬を相手に合わせてデチューンした滑走四連斬を披露したり、ライブさながらにウォーターボールで相手を鍛える。


ここでロクでもなかったのがコーラルとシャヘルだった。


愛の証のアクィはホクホクだったが、スティエットよりサルバンが出てしまい、「甘いわ!剣を持った時から狙われる覚悟を持ちなさい!」と言いながら訓練用のレイピアで持ち手や肩を責め立ててしまうし、シャヘルも「一度絶望を知れ。そして立ち上がれ!それがお前の強さになる!」と言いながら圧倒的な力の差を見せた後で、コーラルとアイコンタクトを取ると「怪我を恐れるな!」「逃げる心を恐れなさい!」とサルバンの教えを言いながら相手を戦闘不能にしてしまう。


まだ許せるのはキチンと治療をしてから終わらせる所だったが、コレはもはや力比べになっていた。



「これで200人かな?」と言ってヴァンが数を数えながら話していると、1人の男が現れた。


「俺が最後だ。金なら払う。4人と戦わせてくれ」

巨躯の男はそう言うと、「誰から戦う?」と言ってマントを脱ぐと中には5本の刃物が装着されていた。


「ダガーナイフにショートソードが二振りずつ、それとロングソード?」

ヴァンがマジマジと見ていると、「珍しいか?」と巨躯の男は聞いてくる。


「うん。ロングソードなんて子供くらいでかいから見ちゃったよ。ごめんね」


謝ったヴァンがコーラル達を見て、「誰から行く?」と聞いた時、愕然として言葉を失っているシャヘルが居た。


「シャヘル?どしたの?」

ヴァンの言葉にシャヘルが反応をする前に、愛の証のアクィが巨躯の男が持つ剣を見て、「リトルチャイルド…ナハト君の剣」と言い、コーラル達が「え!?」と驚く中、シャヘルが「ユーナ・ミント…」と言った。


聞き捨てならないコーラルが「ミント!?」と言った時、ユーナ・ミントはシャヘルを見て、「いつも遠くから見られていたがお前か?」と言いながらリトルチャイルドを抜くと、「お前から来い」と言った。



シャヘルは決して弱くない。

だが術を使わなければユーナには敵わなかった。


「くうっ!?二刀剣術!」

今も手加減は感じ取れたが、それはユーナも同じで、シャヘルがうわ被せようとしたら、その時には更にうわ被せるつもりなのが見て取れた。


「まあまあだが、術に頼り切る奴に俺は負けない!」

シャヘルはかつてナハトがミチトからリトルチャイルドを授かった……。正確には調子の良さを発揮して、リトルチャイルドを作ってもらった日に、メロ達の二刀剣術を防いだように、二刀剣術を防ぐと、そのままシャヘルを弾き飛ばす。


その後もメロを彷彿させるような地を這う動きからの接近にしても、シャヘルは平然とリトルチャイルドをコロシアムに突き立てて、ショートソードに持ち替えて剣を弾き返す。


あの圧倒的な攻撃力に、コーラルが「アクィさん」と話しかけると、アクィが「…コーラル、私とヴァンを話ができるようにしなさい」と指示を出した。


ヴァンはアクィからシャヘルを止めて一度話がしたいと言ってくれと頼まれ、アクィが聞きたい内容を伝えると、ヴァンは「りょうかーい」と言って、「そこまでー」と言って止めると、シャヘルは「まだだ!」と言ったが、「ダメだよー、次はペリドットだもん」と言いながらユーナを見て、「一個聞いてもいい?」と話しかける。


ユーナは露骨に迷惑そうな顔で、「…時間が惜しい。次を出してくれ」と言ったが、「そういわないでさ!お願い!」というヴァンの距離感に、「仕方ないな。なんだ?」と聞き返すと、「そのリトルチャイルドって軽神鉄製?」と聞いた。


「…なに?お前も親戚なのか?」

「俺は違うよ。でも伝説ならリトルチャイルドは軽神鉄だよね?でも軽神鉄特有の脆さがないと言うか、すこし粘り気があるって感じだから気になったんだよね」


勿論ヴァンの言葉ではなく、アクィの言葉だがヴァンが話す事で、ユーナは「よく見ているな、これは隕鉄剣だ」と言った。


「隕鉄剣!?あの大きさで軽神鉄のリトルチャイルドと同じように振るえるなんて、ありえない!?」

アクィが慌てて、それを術で共に見てたヴァンが、「重くないの!?すげぇ!」と言うと「訓練の賜物だ」とユーナは言った。


ここからはアクィの言葉はない。

ヴァンがアドリブで、「でもさ、その剣は誰が作ったの?自作?昨日コーラル達も作ってたよ」と聞くと、ユーナは顔を顰めて「…俺に術はない」と返す。


「え?そうなの?」

「そうだ。コレを作ったのはタシア・スティエット。こっちの剣はシア・スティエット。そしてダガーナイフはコード・スティエットだ。後は代々のミントがメンテナンスをした。だが俺は出来損ないだから術が使えない。メンテナンスはもう無理だ」


ヴァンの力なのか、誰かに聞いてもらいたかったのかユーナは話を続けた。


「そうなんだ。まあシャヘルも真式じゃないけど剣を作れたし、練習したら出来るみたいだよね。俺も覚えられるかな?」

「剣が欲しいのか?」


「ううん。コーラルって雑そうだから、壊したら直してあげたいんだよね」

この話に笑ったユーナは「お前は面白いな」と言うと、「俺はヴァン。お前でもいいけどヴァンで呼んでよ」と言うと、ユーナは「わかった。ヴァンは面白いな」と言い直した。


そしてそのままヴァンを見て、「家族間の秘密だったがもう関係ない。俺が最後のミントになるだろう。他にもミントは居たが、皆この力は放棄せざるを得ない」と言うと、「実はな、タシアもシアもコードも超後天性の無限術人間真式だったんだ」と言った。


「え?そうなの?でも本には載ってなかったよ?」

「ああ、ミチトの葬儀後に、どうしてもラミィ・スティエットやトゥモ・スティエットの力を借りずにマ・イードを救いたいと、ミチトのように人々を救いたいと願った時、無限術人間真式に体を変貌させた。だが最終的に3人で話して力を隠した」


誰も知らなかった事実にコーラル達が驚き、愛の証に宿るアクィすら「タシアやシア、コードが!?」と感情を乱していた。


「それでリトルチャイルドを作ったの?」

「…ああ、この剣はファットチャイルド。重いからそう名付けられた。タシアは叔父であるナハト・レイカーの動きを思い出してファットチャイルドを生み出し、シアはミチトのシャゼットを真似た剣を生んだ。このダガーナイフはコードがジェードを思い出して生み出したと言われている」


「へぇ!凄いや!ねぇ!ユーナはこの後忙しい?」

「…まあ用事はある」


「じゃあ付き合うからもっと教えてよ。次はペリドットでいいよね?ライブの子孫だよ」

「…なんかヴァンみたいな奴は初めてだから、ついもっと居たくなるな。終わったら用事のことについても聞いてもらえるか?」


「うん!任せてよ!」と言ったヴァンが、「ペリドットー!出番だよ」と声をかけると、ペリドットは「…お前、俺にアレとどう戦えって言うんだ?」と言いながら近づいてきた。


「逆に指南してもらいなよ」

「マジかよ」

ペリドットはもう一度ユーナを見て「マジかよ」と肩を落とした。

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