第70話 姫さま、代理ネクロマンサーを教育する決意をする
姫さまは腕組みしたまま、考え込んでいる。
俺はキトリーさんに話した。
「その孫息子さんじゃダメなんですか? 代理とはいえ、現在ネクロマンサーとしてやっているのですよね? どの程度かわかりませんが、姫さまの護衛と魔物を狩るときの盾役として死霊を操れる力量があるなら、彼にお願いしたいのですが……」
キトリーさんは、困った顔だ。
「……それがねぇ……。実際、それも危ういかもしれないのよねぇ……。それに、あの子の性格上、誰かと旅をするのはけっこう無理難題なのよねぇ」
それを聞いた俺は絶句した。
え。
まさかのイディオ様的性格!?
のんびりムードの父娘なので、当然孫息子ものんびりムードかと思ったんだけど。
強気の性格だと姫さまと衝突するし、ネクロマンサーと衝突して死霊をけしかけられたらとんでもない事態になる。
俺はサクッと諦めた。
「……では、諦めます。仕方ないですね、姫さま」
と、俺が言ったとき。
「あー、やっぱダメだったわ! リノールじゃ無理だ!」
大声がしたと思ったら、誰かが入ってきた。
現れたのは、見るからに『冒険者』って感じの大男だ。
筋骨隆々としているから、近距離アタッカーだな。
噂の孫息子……ってワケはないか。
キトリーさんより年上に見えるからな。
「あらジロー、ちょうどいいところに来た。――紹介するわ、うちの旦那」
「ん? 客か? それとも助っ人か? よろしくな、俺はジロー、ここの婿殿だ!」
キトリーさんと会話した大男が、朗らかに俺に向かって挨拶してきた。
助っ人って……。あ、俺が冒険者だって踏んだんだな?
「でもって、旦那が背負ってる子が弱虫バカ息子の、リノールよ」
と、キトリーさんが紹介した。
ジローがくるりと背中を見せたら、小さい男の子が白目をむいて寝ていた。
安らかに……とは言えないな。涎と涙の跡が見える。阿鼻叫喚で失神したかのようだ。
……俺は悟った。
代理ネクロマンサーの孫息子は、性格に難があるというより何かが苦手か、あるいは魔物に恐怖したかで泣き叫び気絶してしまい、使い物にならないということを。
姫さまも悟ったようだ。
――うん、悟ったようなのだが、なぜに目をキラリーン☆と光らせ、どことなく楽しそうに孫息子くんを見ているのかな?
嫌な予感しかしないのだが?
姫さまは気合いを入れたようにフンス、と鼻息を荒くして言った。
「うむ! なんとなく事情は察したぞ! では、勇者である私が直々にその代理とやらを鍛えてやろう!」
あああああ……。
嫌な予感が的中した。
ネクロマンサー一族も、嫌な予感がしているのだろう。顔を見合わせている。
「……いや、ありがたい申し出だけどな? 俺はコイツの親父で冒険者をやってるが、俺が鍛えても無理なんだよ」
と、やはり冒険者だったか、のジローが言った。
「大丈夫だ! 私は慣れているぞ! 離宮にいたときも。二人ばかり鍛えていたからな!」
マジか……。アレをやる気かぁ……。
俺は心の中で次代のネクロマンサーであるリノールにそっと手を合わせた。
「……んぁ?」
目を覚ましたリノールの前に仁王立ちしている姫さま。
リノールは、しばらくボーッと姫さまを見ていた。
「目を覚ましたようだな、少年よ!」
と、同い年くらいの幼女に言われるリノール。
完全に戸惑っている。だよね。
「お前は次代のネクロマンサーなのだろう!? ならば、勇者であるこの私の供にならねばならぬのだ! そこまではいかなくとも、魔王の眷属をひとひねりしてもらわねば困る! ゆえに、この私が直々に鍛えてやろう!」
と、めっちゃうれしそうに語る姫さま。
寝起きでついていけてないリノール。
大丈夫かなぁ……。
大丈夫じゃないだろうなぁ……。
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