第68話 護衛騎士、冒険者の実情を語る
「……なんなんだ?」
俺が逃げるように去っていったギルドマスターを見ながらぼやくと、姫さまは俺を見て首をかしげた。
「……冒険者って、そんなに儲からないのか? Aランクなのに、騎士団の給料より低いのか?」
俺は思いきり肯定した。
「低いですね。俺はソロだったからまだ稼いでいた方だと思いますよ。他の連中は数人パーティだから、儲けを頭数で割ることになりますし、人数が増えれば装備品や消耗品も人数分増えます。ランクが上がれば倒す魔物も高ランクになりますから、用意する物も必然的に高ランク対策用の高級品になります。それらも賄うので、けっこうキツいんじゃないかと」
アニキたちは狩った魔物で装備品を作ってた。というか、装備品を作るために目当ての魔物を狩ったりしていたとか聞いた。俺は使えればそれで良かったから街売りの量販装備で賄っていたけどね。
オーダーメイドはものすごく高くつくと聞いたけど、アニキはその顔の広さから割り引いてもらってたんだろうなぁ……。
たまに合同で討伐依頼をこなすことがあったけど、他のAランクパーティも高い装備や備品を揃えてて、内心無理しているなぁと思ってた。
俺は仕送りがあったからそんなん揃えようとも思わなかったけど、仕送りがなかったとしても貯金するね。身体が資本の商売で、いつ何時怪我で引退するかわかんないっつーのに、そんなんで無駄遣いする気にはなれない。……他の連中からもアニキからも「事情は知っているが、それでも少しは装備にこだわれよ、Aランクだろ?」って、よく説教されたけど。いや、見栄のために買わないから。
俺の今の装備は騎士団支給だし!
馬車や野営グッズは王家からの支給品だし!
旅の快適グッズは姫さまが宝物庫から盗んできたものだし!
勇者の剣は姫さまから賜った物だし!
……寄生型魔物のヒュドラはいらんけど「シャーッ!」うわ、また鳴いたし。これを武器と思えと言われてもさ……。
それはともかく、俺の懐はまったく痛んでいないのが素敵だよね。
姫さまは、「聞いた話と違う……」とブツブツ言っていた。
冒険者は儲かるとでも思っていたのだろうか。ぜんっぜんそんなことないですからね。
*
俺と姫さまはネクロマンサーがいるという町へやってきた。
聞き込みによると、ネクロマンサーは町には住んでおらず、山の中腹に住居を構えているらしい。
術が術だし嫌われ者なのかと思っていたらとんでもない、聞き込みをした町では英雄扱いだった。
死んだら自分も使役してもらいたいと願うくらいにだ。すごいな。
「だってよ、英雄とともに町を守ることが出来るんだぜ? 死んで墓に入ってお終いよか有意義だと思わないか?」
という考えらしい。
姫さまは感心していた。俺もな。
「働き者の町だな!」
「まったくですよね」
死んでまで働かせるのか、という考えではないらしいのがわかった。
そして、勇者の供の子孫であるネクロマンサーは英雄らしいこともね。
「俺は、死んだらスケルトンになって町を守るって契約をしたぜ!」
「私はレイスよ! 小さいから、レイスの方が役立つかと思って!」
と、積極的にネクロマンサーと契約をしている。
どうやら、ネクロマンサーとは召喚魔術師の一種らしい。
死んだら死体が動くんじゃなくて、契約してアンデッドという魔物になる、あるいは従属させて魔物化し、召喚して戦わせる。
壊れるか消滅するかで契約解除となる。
ということのようだ。
どうりで……
ダンジョンや敷地内から出られないアンデッドは、土地に縛られている魔物なのだろう。なるほどね!
「ここの勇者の供は大丈夫そうですね」
「……そうだな」
俺が言うと姫さまがなぜかしぶしぶといった感じで同意する。なんで嫌そうなの?
「事情を話したらきっと、不死の軍団を率いて魔王の眷属の討伐および魔王封印の旅に随従してくれますよ!」
「…………うむ」
謎に渋る姫さまを抱きあげて、ネクロマンサーの住居を目指して山道を上った。
しばらく上ると、開けた場所に出た。
「これは……」
なかなかの景観だ。
草原のようだが、薬草の納品をやったことのある冒険者ならわかるであろう、全面にさまざまな薬草が生えている野原……いやたぶん薬草園が広がっている。
姫さまも、草むしりの依頼を何度もこなしているので、目の前に広がるのは薬草畑なのがわかったのだろう。指がわきわきと動いている。ダメですから。アレ、たぶん自然発生したんじゃなくて育ててるんだと思いますから。
抱き上げていて良かった。下手をしたらまっしぐらに向かっていってブチブチ抜きそうだもんな。
「あれは、勇者の供の子孫が育てているんだと思いますよ」
釘を刺したら姫さまはプクッと膨れた。やはりむしろうとしていたか……。
姫さまを下ろし、(主に薬草園の)安全のため手をつないで歩くと、何かがやってきた。
それは……うん、わかってた。スケルトンだ。
これ、知らない奴が紛れ込んだら驚いて悲鳴を上げるんじゃないか?
そう思いながらスケルトンを見つめた。
スケルトンもこちらを見つめ、「?」というように首をかしげた。
俺は通じるかなと思いつつ頭をかいて用件を言う。
「あー……っと、ここに、かつて勇者の供だった方の子孫であるネクロマンサーがいるって聞いたんだが、合っているか?」
スケルトンは首をかしげていたが、『こちらに来い』というジェスチャーをして歩きだした。
「……理解したんですかね?」
「目も耳もないが、見えるし聞こえるんだろう」
俺が声を潜めて尋ねると、姫さまが答えてくれた。
スケルトンについていくと……なかなか趣のある……ぶっちゃけちょっと怖い雰囲気の石造りの建物があった。
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