第67話 姫さま、次の行き先を伝える

 さて、お次はというと……。

「…………マジですか?」

「マジだぞ」

 お次の勇者の供は、ネクロマンサー死霊術師らしい。

 いるとは聞いたことがあるが、それが勇者の供だったとは……。

 いや考えてみればそうか。そんな伝説のような術者が勇者の供じゃないわけがなかった。

 ただ、噂でしか聞いたことがない、ということは、恐らく魔物の駆除に関してはやってないだろう、というのがわかる。

 そういうのをやってたら、もう少し噂になっているもんな。


 全く知識がないので姫さまに尋ねた。

「それって、どんな感じなんですかね?」

 聖職者はレイスと会話出来たりするらしいが、ネクロマンサーもそうなんだろうか。

「バジルの魔人形、アレの死体バージョンだ」

「最悪じゃないですか」


 なら魔人形でよくない?

 なんで死体でやっちゃうの?


 俺が理解不能、って顔をしていたら姫さまが教えてくれた。

「強い魔物の死体を使役したら、生前の強さのまま戦わせることが出来るんだぞ? すごくないか?」

 えっ。そりゃすごいな!

「確かにすごいですね。そんなことが出来るんですか」

 それは勇者の供になったら心強い。死体を揃えれば、それこそ不死の騎士団が出来上がるじゃん!

 俺は浮かれた。


「もうこの際、死体だろうとなんだろうと数が揃えば文句は言いません。軍団を率いて魔王の眷属を殲滅し、魔王を倒しましょう」

 俺はキリッと顔を引き締め姫さまに伝えた。

 姫さまは、ちょっと嫌そう。いや、確かに幼女が死体を率いて戦うのは嫌だろうが、諦めてください。生きた騎士団を配下にしてくれなかった王家の責任です。

 俺だって、寄生魔物みたいな勇者の武器を使わなきゃいけないのはホンットに嫌なんだよ!

 確かに便利だよ? なんか意思疎通も出来ちゃうみたいだし。冒険者だった時なら、まだ諦めもしたよ? でも俺、普通の騎士になりたかったんだよ!

 この寄生魔物もとい勇者の武器に『ヒュドラ』と名付けた。ナーガと悩んだけど、相手の攻撃によって触手が増えるので、ヒュドラの方を採用した。ちなみに、名前をつけたら「シャーッ!」って吠えられた。


「…………うむ。いいけど、勇者がアンデッドの軍団を率いるのってどうなんだ? 私が魔王みたいじゃないか」

 姫さまが尋ねてきたので、顔を近づけてニッコリと笑った。

「そんな些末なことは気にしないようにしてください。異形を倒し、魔王を封印することがまず肝心。率いる軍団が生きてようが死んでようがどうでもいいことですよ、姫さま」

 姫さまの顔が引きつってるぞ。

「……アルジャンが壊れた」

 とか呟かれました。壊れてませんよ。開き直っただけです。


 姫さまと目的地に向かう。

 途中にあるギルドに立ち寄ると、ギルドマスターが出てきて異形討伐の報告をしてきた。

 チラホラ出ているようだがさほど強くない個体ばかりでBランクの冒険者でもなんとか倒せたそうだ。

 ギルドマスターにAランクにするから依頼を受けてくれと言われたが断り、むしろAランクの冒険者を貸してくれと返した。


 雑魚ばかりが出るとは限らず、物理無効や魔術無効の敵が出ることを伝えると、ギルドマスターが叫んだ。

「ならよけい復帰してほしいじゃねーか!」

「何言ってんだよ。俺は魔術使えないんだから物理無効が出たら瞬殺されるに決まってんだろ。バランス良く組んでるBランクの方がまだ勝てる確率が高いわ」

 即言い返したらしぶしぶ同意する。

「いや、他の魔物も倒してほしいのがあんだよ。お前にぜひ頼みたくてな」


 そう言われた俺は、眉間にしわを寄せた。

 ……前からおかしいなと感じていたんだが、ここでハッキリと感じた。

「なぜ俺だ?」

「!?」

 俺が尋ねるとギルドマスターが挙動不審になる。

 俺はさらに尋ねた。

「俺は事情があって稼がなきゃならなかったからソロでやっていたけどな、騎士としてスカウトされ、今はこちらの御方の護衛任務に就いている。冒険者としては便宜上の復帰だ。そのことは話を通してあるだろ? なのに、なんで騎士の俺を冒険者として活動させようとするんだ。特に俺は護衛騎士だ。討伐依頼はやってないって、あちこちで言っている。なのに、どのギルドマスターも俺に依頼を持ってくるのはなんでなんだよ?」


 一歩詰め寄ると、ギルドマスターはたじろいだように一歩下がった。

 そして、しどろもどろになりつつ、弁解のように答えた。

「……だから、お前の強さを見込んでだよ。それに……そうだ! 騎士団もやりつつ冒険者もやりゃ、儲かるだろ!? ダブル収入だよ!」

 俺はため息をついた。

「……討伐した魔物を売りさばくのでじゅうぶんだよ。何せ、騎士団の給料はAランク冒険者の稼ぎとは比べようもなくいいんでね。あと、何度も言っているが、護衛任務中だ。……お前だけじゃないが、なんでそんなに俺を復帰させたがる? ギルドマスターが護衛任務中の者に『護衛を放り出して別の依頼を受けろ』なんて言い出すの、おかしくないか? そんなことをやったら信用問題もあるがそもそもペナルティだろ。そそのかしたギルドマスター本人はギルドマスター権限で無罪とでもいうのか?」


 姫さまは俺とギルドマスターを見比べている。

 ギルドマスターは大量に汗をかきだした。

「そ、そういえばそうだな。ハハハ、忘れてくれ! なかなか依頼がこなせなくて焦ってたんだ。他のギルマスにも言っておくから、気にするなよ!」

 そう言うと奥に引っ込んだ。

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