第64話 姫さま、語りを拝聴する(フリをしながら違うことを考えている)
異形のボスは、さっき倒した異形とは一線を画す雰囲気、大きさだった。【鴻鵠之志】のメンバーは見た途端に危険を察知し、後ろ暗そうな連中は放置して戦った。
だが、今まで倒してきたのは雑魚だったと思い知らされる。
「魔術、無効、だったんだ」
「……なんだって?」
俺も姫さまも驚いた。
その三面六臂の魔物は魔術無効。アニキを欠いたメンバーには相性がかなり悪かった。
今話しているパスカルは斥候で、近接も出来る。俺とは真逆の、剣は軽いが圧倒的スピードで相手を翻弄し急所を突く戦い方をするのだが、この異形にはパワーアタッカーの方が合っていた。
残りはすべて魔術師。攻撃系が二人と支援系だ。
ちなみに、この攻撃魔術師二人はヤバい。コイツら、互いの魔術を混ぜ合わせるんだよ。すると、威力が倍どころじゃないくらいに跳ね上がる。……で、あの惨状が出来上がったというわけだ。
威力を上げれば効くと思ったのか……いや違うな。二次災害で倒すつもりだったんだろうな。大木を切り裂けば当然倒れる。木々を燃やせば山火事になる。
山もろとも消し去ろうとしてたってか。怖!
それでも勝負は五分五分。
熾烈な戦いの末、攻撃魔術師二人が怪我を負い、魔力切れでダウン。だが、かなり追いつめたそうだ。
パスカルは支援魔術師の魔術でありったけパワーアップして、異形に深傷を負わせた。
異形は、戦況が不利だと分かり、なぜか魔術師二人を担ぐと逃げ出したそうだ。
「二人を……?」
なんでだ?
「わかんね。喰う、の、かも、って」
パスカルの暗い予想に俺も暗くなった。
…………あり得る。
というか、魔物ってそういうものだな……。
とはいえ、魔王の眷属も人間を喰うのかって考えてゲンナリした。
案外、魔王と魔物は同じ物なのかもしれない。
そう考えて姫さまをチラリと見たが、姫さまは無反応。
「……姫さまはどうお考えですか?」
念のため、意見を聞いてみたが、
「わからん!」
との答えだった。その辺りは初代勇者でもわかんなかったみたいだな。知ってたら伝承を丸覚えしてるんじゃないかってくらい物知りの姫さまが教えてくれるだろう。
気を取り直して。
今の話だと、行方不明の二人は異形に連れ去られたのがわかったが、二人生き残っているはずだ。パスカルと支援魔術師。
支援魔術師の彼女はティファニーといって、アニキに惚れていた気がする。ちなみに俺のことは嫌っていて、いつも悪口を言われていた。
一時期、アニキが俺をパーティに勧誘してくれたことがあったのだが、真っ赤になって怒鳴りながら猛反対してきたんだよな。ま、俺は妹の薬代のため稼がなきゃなんなくて『ソロでいく』と断ったんだけど。
「ティファニーはなぜ死んだんだ? 今の話だと、お前が命を懸けて撃退した、というふうにしか聞こえないんだが……」
パスカルの顔が引きつった。と、思ったら涙を流した。
俺は慌ててなだめる。
「悪かった、性急だったな。その後何があったんだ?」
「失敗、した。殺せば、良かった」
それは、【鴻鵠之志】を案内した連中のことだった。
――激しい戦闘だったし他に気を配る余裕もなく、おおかた巻き込まれて死んだんだろうと高をくくっていた。
ところがしぶとく生き残っていた連中が、ボロボロになったパスカルとティファニーに襲いかかった。
まずパスカルを不意打ちし、パスカルは昏倒。致命傷を負わせたと勘違いした連中はティファニーに襲いかかった。
仲間を連れ去られ、パスカルを倒されたティファニーは動揺した。
魔術をかけたくとも、パスカルにありったけの魔力をつぎ込んで今は魔力がすっからかん。もちろん、普通に戦っても雑魚に後れを取るような実力じゃない。だがそれは、死闘を繰り広げた後じゃなければの話だった。
ティファニーは連中の何人かは道連れにしたようだが、それまでだった。
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