第63話 姫さま、怪我人を見舞う
翌日、ギルドに行って状況を確認した。
Bランクパーティが複数集まり偵察したらしいが、異形は出なかったそうだ。
「安全になったと思っていいかな?」
「魔王種は浄化したし、大丈夫だろう。どのみちあの弱さじゃお前じゃなくても倒せると思う」
俺が独り言のように尋ねたら、姫さまが返してくれた。
俺は、念のため異形の死体をバジルに送ることにした。
一体を残し、残りはバジル宛てに輸送を頼む。
一体残したのは、注意喚起のためだ。サンプルがあったほうがいいかなと思ってね。
俺と姫さまはギルドを後にすると、そのまま治療院へ向かった。【鴻鵠之志】の生き残りが入院していると教えられたからだ。
死亡したと思われた者のうち一名が、『命の危険に迫る怪我を負うと仮死状態に移行し出血やショックを停止、じわじわと自然治癒を行う』という極めて稀なスキルを持つ奴がいて、そいつが息を吹き返したらしい。
ただ、そのスキルはかなり負担がかかるので生き返っても元通りにはなりづらいらしいが……。
「いや、生きていただけ良かっただろ」
見舞いに行って俺は開口一番そう言った。
なんとなく後悔してそうだから。
「確、かに、そ、だ」
引きつったような笑顔でたどたどしく返してきた。
「つらいと思うが、これも討伐のためだ。教えてほしい」
俺は、詳しい経緯を尋ねた。
――アニキが捕まったことはわりと早く知れたそうだ。
この手のトラブルは初めてでもなかったので、メンバーの皆が「ヤレヤレ」と思いながらも迎えに行った。
……ところが、途中の町でいつもと違うことに気付く。
アニキの装備品の一つである爆竜の籠手が売りに出されていたからだ。
いくらお人よしのアニキでも、やっていいことと悪いことはわかっている。
商売道具である装備品を売るなんて真似は絶対にしない。
異常事態が起きたことを知り、ギルドに問い合わせ、そしてアニキが不当に捕まったことが判明。アニキだけではなく、かなりの数の冒険者がその町で捕まっていた。
ギルドもその町が不当に捕縛していることを掴んでいたが、とうとうAランクまで被害者が出たため本格的に動き出したことを聞いた。
調査の一環も兼ね、【鴻鵠之志】のメンバーが町に向かうが、途中、騎士団が先にそいつらを捕縛していて、アニキはその領の収容所に入れられているとの情報が入り、進路を変えて直接収容所に向かった。
収容所に着く手前の道で、ボロボロの連中が命からがらといった感じで現れたそうだ。
ソイツらは「収容所から逃げてきた」と訴えた。
捕まり、装備品のほとんどは没収され売りに出され、そして収容所に騎士団の手入れが入ると分かり、看守たちが最後に口封じのため囚人全員を殺そうとしていて、その中で一際強い囚人が大暴れし、他の囚人を逃がしてくれた、と……。
どこかの町まで行けば助かるかもしれないと山林を彷徨ったが、迷うわ魔物に襲われるわで人数を減らし、そしてここで冒険者らしき自分たちに会って助けを求めた、と説明したそうだ。
いかにもアニキのやりそうなことだし話に矛盾はなく、また手ぶらで服もボロボロだったため、信じたわけではないがいったん訴えに対してうなずいた。
ただし、保護することは出来ない、このまま自分たちの来た道を行けば町に着く、もしくはアニキの救出についてくるかを選択させた。
その連中は、迷った末についていくことに決めたそうだ。
アニキをおいて逃げ出してきたのを後悔している、と殊勝なことを言い、同行した。
そして、「看守に見つからない抜け道を知っている」と言い出した。
この時点で【鴻鵠之志】のメンバーは連中を黒だと踏んだが、あえて連中の手に乗りボロを出させ話を聞き出そうと考えた。
ところが、連中がボロボロだったのはアニキやイディオにやられたせいではなかった。
魔物に襲われたからだった。
連中は、魔物のいる場所に誘き出した。
「騙されやがって、バカが!」
と吐き捨てるように言われたので、とりあえず言った奴を叩きのめし、他の連中も捕まえた。
見たこともない魔物だったが、大して強くないなとメンバーは考えたし、実際難なく倒せた。
実力を目の当たりにした連中は青くなり弁解を始めたが聞く耳を持たず、そのままアニキのことを聞き出そうと尋問を開始したら……。
異形のボスが現れた。
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