第61話 護衛騎士、触手が生え、姫さま、羽が生える

 ……と、姫さまが何やら俺の腕を引っ張り、手首に巻き付けた。

「姫さま?」

 なんだこれ?

「騎士としてはかっこ良くないが、それよりお前が死なないことが大事だ! これは、勇者の武器の一つ、〝考える鞭〟だ! これがあれば、魔術弾とか弾くし、慣れてくれば攻撃もできるぞ!」

「えええ……」

 巻き付けられたものを見たら……うわ! 気持ち悪!

「ひひひ姫さま? これ、大丈夫なんですか!?」

 臓物みたいな見た目なんだけど!?

 ぬめりがあるのかてらてら光ってるし!

「大丈夫、だと思うぞ? かつて勇者の供が使ってた武器の一つだ」

 こんなん使ってた奴がいるのかよ! 嘘だろ!?

 つかこれ、ホントに武器なの!? 寄生型魔物じゃないの!?

 不安しかない武器をつけさせられて、じっと見たら……!?!

「姫さま!? コイツ、口があるんですけど!? しかも今、笑った!」

 先端に裂け目があるなと思ったら、それがパックリ割れてギザギザした歯が見えたよ!

「だからどうした。武器に口があってもいいだろう。強いのは間違いないんだ」

 確かにそうだよ! 俺が使うんじゃなければな!

「あぁ〜……。なんでこんな目に……」

 お供を増やしてもらえれば、普通の剣士としていられたのに……。

 俺が嘆いていたら、姫さまと触手が憤った。

「こんな目とはなんだ! 勇者の武器は強いんだぞ! そんなに強くない奴がたくさん集まるより、勇者の武器でお前がやっつけたほうが倒せるんだー!」

「シャーッ!」

 うわ、鳴いた。絶対鳴いたよ今!

「姫さま? ホントにコレ武器なんですか!? 寄生型魔物ですよね!?」

「往生際が悪いぞ! 武器だ!!」

 姫さまに叱られた。


 さて。

 いろいろ諦めた俺は開き直った。

「殺ってやるぞオラァ!」

「うむ! その意気だ!」

 姫さまが嬉しそう。

 俺は目が据わったまま、姫さまを振り返った。

 ビビる姫さま。

「な、なんだ?」

「姫さまの守りに不安があります。私にはどうやら守備と中距離攻撃の手段が出来たようですが、姫さまはまだ弱いですよね? 前回は鼻血程度で済みましたが、今回もそれで済むとは思えません。姫さまも、勇者の防具で身を固めてください!!」

 俺が勢い込んで言ったら、姫さまはさらに引いた。

「う、うむ……。……なんかあったかな……」

「なかったら、こちらの触手をお返しいたします」

「ちょっと待て。探している最中だ!」

 姫さまが急にゴソゴソと探し出した。

「うーん、これかな……。衝撃緩和の羽だ。何かにぶつかる前に衝撃を緩和する。ぶつかる攻撃が出来なくなるが、その代わりあらゆる衝撃から守ってくれるな。あと、ちょっとだけ飛べる」

 ちっちゃな虹色の羽を取り出した。

 見た目は妖精の羽だな。

「……姫さまには蝙蝠型の羽のほうが似合いそうですけどね」

 悪魔の羽だな。

「どうせ私からは見えないんだからなんでもいい! ホラ、つけろ!」

「はいはい」

 年頃になったらおしゃれに目覚めてくれるのかなぁと願いつつ、姫さまの背中に小さな羽をつけた。

 お、けっこうかわいいな。

 つけたのがわかったのか、姫さまが羽をパタパタ動かし……浮いた!

「おぉ! 浮きましたね」

 姫さまは得意そうにパタパタ羽を動かし……うん、移動はしているが、歩いたほうが早いな。

「アルジャン! 引っ張れ!」

「はいはい」

 自力だと遅いので、人力に頼りだしたよ。

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