第60話 姫さま、現場検証する
黙々と山林を歩いた。
姫さまはそうとうショックだったようだ。……それにしても、なんでそんなに過大評価してくれたんだ?
俺、別に姫さまに「俺は強いですよ」なんてアピールしたこともないし、ギルド内外で評判がよかったってこともない。
そりゃ、多少は強いよ? 剣術には自信があるし、さっき姫さまに言ったとおり、得意な敵なら無双できる。
でも、あの異形には通用しないからね。アレは、大勢で遠距離から叩くのがセオリーだ。数の暴力で押し切るべきだし、俺とは絶望的に相性が悪い。
騎士団だから、遺族年金出るはずだよなぁ……とか考えながら歩いていたら、姫さまが声をかけてきた。
「身代わり人形があれば、お前一人でもどうにかなるのだろう?」
「数十個じゃ足りないくらい使うでしょうけどね。アレが複数体出たら、なぶり殺しにされます。ほんの瞬きする間に、数え切れないほどの攻撃を受けるでしょう。姫さまが用意した人形の数すべて使ってもしのげるかわかりません」
姫さまがまた黙る。
「……次は、私ももっとちゃんと戦う。罠も張る。お前だけに無理をさせない」
「いや、それは危険なのでやめてください。俺の代わりは騎士団にいくらでもいますが、姫さまの代わりはいないんですから」
即止めた。
心配してくれるのはありがたいが……。別の意味で心配になってきたなぁ。
変に気を遣って、俺を庇おうとしなけりゃいいんだけど……。
姫さまに向き直り、屈んで姫さまの両肩に手を添える。
「いいですか、姫さま。もう一度言います。姫さまは勇者で、代わりはいないんです。絶対に無理しないようにしてください! 姫さまを勇者と知っているのに護衛騎士を増やさなかったのは、王家と騎士団の失策です。俺が死んだら姫さまは騎士団を配下にし、全軍で戦ってくださいね。あと、その失策で犠牲になった俺には褒章と慰謝料、遺族年金を妹に送るようにお願いします。……妹は病気で、無理のできない身体なんです。どうかよろしくお願いします」
姫さまはうつむいて小さくうなずいたので俺は立ち上がり、姫さまの頭をポンと叩いた。
こんなに幼いのに世界の命運や俺の命まで背負うことになって、さぞかしつらいだろう。
姫さまは悪くないから気にするなよ。護衛騎士を増やさなかった連中が全部悪いんだから!!
俺は姫さまの手を引いてさらに奥に進む。
「どうやら、ここで戦ったらしいな」
激しい戦闘の痕跡が見えた。
つか、さすがAランクトップの【鴻鵠之志】。
広範囲にえぐれた剥き出しの地面。さらに、まっすぐに撃ち込んだ魔術でかなり先まで木々がなぎ倒されている。
火魔術も使ったのか、森林火事一歩手前みたいにもなっているぞ。
姫さまも、ここまで激しい戦闘が繰り広げられていたとは思っていなかったのだろう。
暗い表情が吹っ飛び、目を瞬かせている。
「すごいな!」
「すごいんですよ。これがトップランクの実力です」
そして、さらに嫌な情報です、と心の中で付け足す。
足手まといに嵌められたとはいえ、この実力で勝てなかったんですよ。
どうしよっかね……。
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