第59話 護衛騎士、覚悟を決める
姫さまの親書は大至急届けられ、そして次に寄ったギルドに大量の人形が送られてきていた。
『他にも供が増えるかもしれないから』と注文した人形の他にも、違う人形がそれなりの数ある。
ギルドが玩具屋のようになっていた。
姫さまは全部アイテムボックスにぶち込むと、騎士の人形を取り出し始めた。
「アルジャンの人形も追加で頼んだのだ! つまり、身代わり人形がたーくさんあれば、お前と私だけでも倒せるのだろう? ならば、たーくさん用意すればいいのだ! 毎回全部使い切る勢いで戦うぞ! パパとママに、国中のみならず国外からも人形を集め、さらに安くても不格好でもいいから丈夫で手ごろな大きさの人形を早くたくさん作るように頼んだ!」
姫さまが手をブンブン振り回しながら解説した。
……まぁ、確かにそうかもしれないが……。
身代わり人形物量作戦に切り替えた姫さまは、俺と姫さまとの二人体制前提で話し始めている。いや姫さま、諦めるのはまだ早いから。
ギルドも【鴻鵠之志】が壊滅したとなれば異形討伐を全世界に発布するだろうし、当然魔王の眷属と戦う術を王家に問うだろう。
そうなれば、王家は姫さまとの合流を指示するはず、というかしてほしい。
人形を受け取った後はギルドを出て、アニキのいるジャステ伯爵領へ引き返す。途中で合流出来ればいいなと期待してギルドに寄るが、アニキからの連絡もアニキ自身の姿もなかった。
馬車での移動中、姫さまは客車内にこもりせっせと身代わり人形に変換している。
「中を見るなよ!」と言われたので気になるけど馭者に徹していた。
姫さまがこもって三日ほど経った。
ときどきスピースピーという鼻息が聞こえてくるんだけど、身代わり人形はちゃんと作っているのか? 別にいいけど。
……とか考えていたら姫さまがノコノコと出てきた。
「出来上がりましたか?」
「飽きた!」
姫さまに尋ねたら、キッパリと返された。
それから、たまに身代わり人形作りをするという方向性に切り替えたらしい。
確かにずっと作るのはつらいだろうなと俺も思ったので「出来る限りでいいですからね」と伝えた。アニキたちと合流してからが本番だ。今から疲れてしまっては困る。
そんかこんなで、それでもなかなかの数が出来上がり、あとはアニキたちと合流すればいいと思ったのだが……。
「すれ違ったぁ!?」
アニキたちがいるはずの、伯爵家近くのギルドに行ったらいなかった。
それどころか寄りもしなかったらしい。
「マジかよ……。最悪の事態が発生しちまったか」
パーティが壊滅したことを知らず、早いとこ合流しようと伯爵領からまっすぐ俺たちのいたギルドに向かったのだと思われる。そうなると、道が違うのですれ違いもしないのだ。ギルドのある町へは、少し北へ迂回する道をたどることになる。
引き返したいが、それよりもここで待っていた方が出会えると考えて踏みとどまった。
ギルドには依頼をかけている。それがなくともあの二人は俺たちを追いかけている。俺は必ずギルドに寄っているので、彼らがギルドに寄ってくれさえすれば俺たちを追っかけてくるだろう。
俺が思案していると、姫さまが俺の裾を引っ張って言った。
「早く様子を見に行くぞ!」
う。……デスヨネー。
異形の出没はアニキたちの到着を待ってくれないし、被害も待ってはくれない。だから、行くしかない。
俺は息を吐くと、覚悟を決めて言った。
「姫さま。……何があろうとも、姫さまの安全を第一に考えてください。姫さまは勇者で、魔王は姫さまにしか封印できません。あと、私が死んだら騎士団を姫さまの配下にし、守りを固めるように姫さまのパパに強く言ってください」
俺にそう言われた姫さまは鼻白んだ。
「……お前はすごく強いだろ? なんでそんなことを言うんだ?」
ソワソワと指を動かしながら姫さまが俺に尋ねてくる。
「確かに強いですよ。でも、得手不得手があり、異形討伐は不得手に入ります。そして、複数の敵はもっとも不得手です」
姫さまがショックを受けたように立ち尽くした。
……もしかして姫さま、俺のことを過大評価してくださっていたのか?
俺は苦笑した。
「姫さまの期待に添えなくて申し訳ありません。ですが、率直に申し上げますと私は特定の敵にのみ強いという粗末な腕前です。ですから何度も護衛を増やすよう具申したのです。……魔王の眷属が複数体で出たら、おそらく姫さまを守りきれる自身はありません」
姫さまはうつむき、ボソボソと俺に尋ねた。
「でも、こないだは勝っただろう?」
「あれはバジルが加勢してくれましたから。あれがなければ姫さまも私も命を落としていたと思います」
姫さまはますますうつむいてしまった。
俺は姫さまに言い聞かせるように言う。
「私が命を落としたとなれば、さすがに陛下も姫さまに騎士団をつけるでしょう。姫さまは勇者として、騎士団を率いて、必ず魔王を封印してください。お願いします」
姫さまはうつむいたまま黙ってしまった。
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