第58話 護衛騎士、異形討伐でひらめく

 複数。複数か……。俺、ソロでやってきたから複数の敵にめっちゃ弱いんだよ。俺にとっちゃ、ドラゴン単体よりワーグの群れのほうが脅威だもん。普通は真逆だろうけど。

 俺は目をつむり腕を組んで考え込む。

 うーんうーん……罠にかけるしかない。どう考えても不利。あんなんがたくさん出たら、どう考えても勝てない。だが、勝つしかない。でなければ世界が滅亡する。


 俺は目を開いた。思い出したのだ。

「回復担当……といえば、あの子が回復担当だよな」

 あの、毎回気絶したり泣いたりしていた男爵令嬢。見た目はすごくかわいらしいのにヨイショの達人みたいなあの子は、拷問を受けたアニキの傷を治したという。その子を姫さまの傍につけ安全を図ってもらえば、俺とアニキでどうにか出来そう。身代わり人形、軽く五十個は破壊しそうだけど。

「よし、合流すれば勝つ道筋が見えたぞ」

 おまけのイディオ様は肉盾だな! 身代わり人形が尽きるまで姫さまをその身でかばってくれ。

 姫さま直属の騎士団がいればこんなに悩まなくて済むのにな……。そもそも、自領の魔物は私兵か自領のギルドに依頼して冒険者に倒してもらえよ。貴族領に出る魔物まで騎士団に頼むから騎士団が万年人手不足なんじゃねーか。

 思い返せば、ありとあらゆる貴族絡みの難題を騎士団が駆けずり回って解決してるんだよな。

 そのせいで勇者たる姫さまの護衛が足りないとか……。貴族、いらなくないか? それで魔王討伐に支障をきたすんだから、いっそ貴族なんて異形に滅ぼしてもらえばいいんじゃねーかと物騒なことを考えながら姫さまのところへ戻ると、さっそく先ほど思いついた考えを話す。


「――というわけで、供になった者たちの身代わり人形の作成をお願いします。私ともう一人、〝アニキ〟と呼ばれる冒険者がいれば、連中を引きつけられるでしょう。その間に姫さまが連中に魔力弾を撃ち込んで仕留めてくだされば、複数でも倒せるかと思います。姫さまの警護は、以前離宮で一緒に遊ばれた令嬢が治癒魔術を使えるということなので、彼女に任せます」

 最後にそっと付け足す。

「さらに、姫さまの元婚約者も姫さまの供に志願している、とのことなので姫さまは楯代わりに使ってください。死んでも本望でしょう。……大量に身代わり人形を消費しますが、これなら勝てそうです」

 姫さまは黙って聞いていたが、途中からうーんうーんとうなりだした。

「ひ、姫さま?」

 俺が声をかけると、姫さまはうなりながら言った。

「……身代わり人形は、パパとママに買ってもらわないと用意できない」

 え?

 あ、人形自体をってこと?

「俺の人形を代用するのは――」

「無理だ!」

 って、キッパリ言われた。そうか、そういうものなのか。

「では姫さま、お手紙を書いてください。姫さまの供になる予定のアニキ、バジル、男爵令嬢、ついでにイディオ様。……他にも増えるかもしれませんがひとまずはそれらを、特にアニキは私と同じく近接攻撃で牽制する役なので、大至急、大量にお願いいたします」

「……うむ」

 腕を組み、うなずく姫さま。あ、これはまだ懸念事項があるな。

「他にありますか?」

「……身代わり人形の作り方は特殊だ。事前に用意はできないので、合流してからだ」

 なるほどね。

 俺はうなずいた。

「もちろん、それでかまいません。……ま、アニキもトップランクパーティのリーダーですからそうそうやられはしないでしょう」

 俺は姫さまの手を取り、手紙を出すため再びギルドに戻ったのだった。

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