第57話 護衛騎士、異形討伐に頭を抱える

「姫さま、お待たせいたしました」

 俺が馬車にいる姫さまに挨拶をすると、姫さまはまた『姫さまの大冒険』を読んでいた。

 顔を上げると本を閉じ、姫さまは俺の前に立つ。

「アルジャン。私は、お前を死なせない」

 小さな女の子の男前なセリフに、思わず苦笑してしまった。

 ……俺、そんなに死相が出ているのかな。

「そんなことより、姫さまが生き残る算段を考えるようにお願いします。私が死んだら王家もさすがに危機感を感じ、騎士団を勇者の供としてつけてくださるでしょう。今回のAランク冒険者の壊滅も含め、騎士団は各地の魔物討伐より姫さまの安否を重要視するべきなのをわかってもらえるはずです。――魔王を倒せるのは、勇者である貴方しかいないのですから」

 自惚れるわけじゃないが……。もしかしたらソロAランク冒険者だった俺がいるから姫さまに騎士団をつけないのかもしれない。俺一人でじゅうぶんだ、と考えられているのかも。

 そうじゃないだろ、そんな呑気な考えじゃ姫さまが死んでしまうぞ、って叫びたい。


 俺は、パーティに入れなかったんだ。ソロじゃないと妹の治療費が稼げないから。依頼はパーティ単位の報酬だから、頭数で割られてしまう。ソロなら全部独り占めだ。だから組めなかった。死にそうになっても仲間が必要だと痛切に感じていても、ソロでやるしかなかった。それを英雄的行動みたいに言われても困る。そんな事情がなければ誰かと組んでたって。

 そして、俺がAランク冒険者のトップクラスだったとしても、ソロでなんでもできるなんて考えないでほしい。

 アニキだって、他のAランク冒険者だって、ソロでやろうと思えば出来る。でもやらない。やる必要がないから。

 Aランク冒険者ともなれば、死なないことを第一優先にする。無茶して死んだらそれでおしまいだ。断れない依頼なら、頭数を揃えるしかないんだ。

 俺は、たった一人の家族である妹を死なせないためになんでもやったし、さんざん無茶もした。じゃなけりゃ稼げなかったから。それで俺が死んだら、妹も死ぬだろう。だが、俺が稼げなかったらどのみち妹は死んでしまう。当時の俺たちは、一緒に生きるか死ぬかしか選べなかったんだ。

 そんな奴と他の奴とを一緒くたに考えられては困るんだけどな……。


          *


 現地へ向かった。

 途中のギルドに寄って近況を尋ねたら、アニキは無事救出されたそうだ。

 その後、少年少女の冒険者とともに旅立ったという。なんでもその二人、悪徳領と悪徳貴族の摘発に一役買い、アニキの救出までしたというのだからすごい。

 しかも、アニキは拷問されたらしいのだが、稀少な治療魔術で傷痕もなく治したとか……。


 ――って!

「あの二人か!?」

 マジかよ使えるじゃん! 特にあの令嬢! スゲーな、これは姫さまの護衛として期待が持てる。


 感心していたら、「手紙を預かっている」と言われた。騎士団長経由、第二王子からだ。筆まめな方だな。

 手紙には、俺の出した手紙の返事が書いてあった。

 それを読んだからではないらしいが、アニキと偶然出会い、情に厚い性格だと判断したので姫さまの護衛を依頼し、快諾をもらったと書いてある。……そうか。俺が頼む前にすでに頼んでくれていたのか。


 ただなぁ……。

 俺、実はアニキじゃなくてアニキのメンバー目当てだったんだよな。

 いや、アニキも強いよ? でも近距離アタッカーばっか増えてもさぁ、まとが増えるだけじゃん? 身代わり人形の破壊が進むだけのような気がする……。


 俺はひらめいて、手をポンと叩いた。

「あ。いいこと思いついた。……よし、姫さまに身代わり人形作ってもらわないとだな」

 そうだ、身代わり人形があったら特攻かませるんだった。アニキと組めば、毎回十個くらいの破壊を前提にすればいけるか。

 姫さまは遠距離攻撃が出来るから、俺とアニキで的になって物理担当と飛び道具担当を食い止め、姫さまが回復担当にガンガン撃ち込んでもらえば勝てそうな気がする。……一匹ならな!

 再び頭を抱えた。

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