5章 姫さま、妖精になったってよ
第56話 護衛騎士、訃報を聞いて呆然とする
『Aランク冒険者【鴻鵠之志】が異形により壊滅状態に陥った』 と聞かされた俺は、「冗談だろ?」と言ってしまった。
アニキが抜けているとはいえ、異形との戦いではハンデにならない。
むしろ近接アタッカーの不在により、索敵からの遠距離魔術でしとめていくことになるから初見で当たったとしてもかなり有利な戦いになるはずだ。
なのに、負けた?
「嘘だろう?」
俺が再度つぶやくと、ギルドマスターは沈痛な顔で俺に言った。
「……連中だけなら勝っただろう。運悪く、その犯罪の巣窟から逃亡してきた後ろ暗い連中もいたんだ。奴ら、【鴻鵠之志】を嵌め、異形と相討ちさせて助かろうとした。自分たちがアニキを捕まえていたとなりゃ報復されるから、一石二鳥だろうってな」
最後は吐き捨てるように言っていた。
それでも……そんな簡単に奴らが嵌められるのか? Aランク冒険者は強さだけじゃない、駆け引きや裏を見抜く目なんかもないと上がれない。ギルドが〝冒険者の代表〟として認める実力なんだから、敵と戦う能力以上のものを持っていなくちゃならないんだ。
俺の表情を読んだのだろう、ギルドマスターはため息をついた。
「それだけ、その連中が姑息で卑怯だったんだろ。ある意味、Aランク冒険者を罠にかけて全滅させるほどにな。ソイツらの生き残りが【鴻鵠之志】の持ち物を盗んで売り払おうとしたが即バレて捕まり、自白薬まで使って尋問したから内容に間違いはない。……そこでわかったんだが、異形は複数出たそうだ」
姫さまの顔色が変わった。
「アルジャン。そこへ急ぐぞ」
「姫さま!」
俺は止めようとしたが、ぐっと堪えた。
……勇者が行かなくてどうする。
俺は、握った拳に力を入れる。受け入れるしかない。
「ギルドマスター。騎士団と各ギルドに連絡してくれ。俺と姫さまは異形……魔王の眷属の討伐に向かう。だが、圧倒的に人手不足だ。勇者の供が俺一人だけだと勇者が死ぬ。Aランク冒険者で斥候、遠距離魔術が出来る者を優先的に、実力があるならランクを問わず、現場に向かわせてくれ。騎士団にも姫さまが向かったことを伝え、さっきの条件に当てはまる者をよこしてくれと頼んでくれ。近距離は不利だし俺がいるので、これ以上は足手まといか肉盾になるかのどちらかだからいらないと」
ギルドマスターは俺を見た後に姫さまを見た。悼ましそうな顔なのは、姫さまの幼さでトップクラスの冒険者パーティを壊滅させるほどの魔物に率先して立ち向かわなければならない過酷さに、同情したのだろう。
「わかった。最優先で手配する。他にあるか?」
そう問われた俺は姫さまに向かって言う。
「……一通、手紙を書いてもいいですか?」
姫さまはうなずいた。
「私は馬車で待っている」
姫さまはそう言うと、馬車に向かって歩いていった。
俺は、アニキ宛に手紙を書いた。
仲間への追悼、恐らく復讐するであろうアニキへの助言。
アニキに死なれては困る。近距離アタッカーは異形に不利だとはいえ、俺と同等以上の強さであるアニキなら、遠距離攻撃使いとパーティを組めば勝てるんだ。俺だって勝てたし。
だから、その旨を書いた。そして、現在の俺の使命と姫さまのこと……詳しくは書けないが、『幼いながら王族の一員として異形との戦いに赴いている』と書いておけばアニキなら助力してくれるだろう。
そう願い、手紙を書いてギルドマスターに預けた。
「各ギルド……特にアニキのいるジャステ伯爵家領のギルドには迅速に、俺たちも異形討伐に向かったから合流するようアニキに伝えることを指示してくれ。この手紙は念のためだ。もしもアニキがここに現れたらこの手紙を渡してくれ」
「請け負った。……アルジャン、死ぬなよ」
俺は黙って笑う。――正直、わからないよ。これからはもう姫さまを死なせない約束すら出来ないかもしれない。
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