第55話 プリエ・ルミエールの旅~アニキ救出編5
第二王子、先ほど地雷を踏んだかと思ったら踏んでなかったので安心したのか、さらに追撃をかました。
「私もアルジャンほどの実力者なら他に護衛はいらないかと思ったのだが……。アルジャンから直訴されたのですよ。パシアンの護衛を増やしてほしい、と」
――この言葉は、アニキにはそうとうの衝撃だったらしい。
目が飛び出さんばかりに見開かれた。
「…………え、マジか?」
「誓って本当です。護衛の増加は、私の案ではなくアルジャンが頼んできたことです。騎士団員には余裕がなく、さてどうしたものかと思っていたら彼女たちが立候補してくれたのでそれで間に合うかとは思ったのですが、貴殿も護衛についてくれたらさらに安心……」
アニキがいきなり第二王子の胸倉をつかんだ! ヒィイイイ! アニキ、ソレ王子様ですから! 不敬不敬!!
「安心、じゃねぇよ!! アルジャンが『護衛の人数増やせ』なんてただ事じゃねぇ!! アイツは、ソロでなんでもやってきた奴だぜ!? パーティ単位でいきゃ俺たちがAランク最高峰の一つだろうが、Aランク冒険者を個人でランク付けしたら、ぶっちぎりでアルジャンがトップだ! そんな奴が護衛を増やせって……! アンタ、妹をどんな死地に送ったんだよ!?」
アニキの怒鳴った言葉に、全員が固まった。
――え?
そんな死地なの?
聞いてないんですけど??
……とは思ったが、ふと合点がいった。
そうか。姫さまって勇者だった。勇者の旅と言えば魔王討伐に決まってるもんね。そりゃ、死地に赴くのと一緒か。だから、問題を起こした男爵令嬢と、問題を起こした公爵子息がセットになって追いかけてるんだ。そりゃそうだ。
達観してイディオを見たら、イディオも達観していた。
私の視線に気がつくと微笑む。
「……知っていた。パシアンは勇者の供を探していて、我々を試し、我々は勇者の供として
……………………カッチ━━━━ン!
「ふざけんな!!!!」
大声で怒鳴ったら、全員が驚いて私を見た。アニキすら仰天して第二王子の胸倉をつかんでいた手を放したし。
でも、上った血はそうそう下りないよ!
「えぇえぇ、選ばれませんでしたよ! あの当時はね!! でも今の私はアンタより使えんのよ! 稀少な聖魔術、しかも治癒の遣い手! 稀少中の稀少よ! そんな私が勇者の供に選ばれないわけがない! アンタこそ引き返しなさいよ! なーんの取り柄もないお坊ちゃんッ!」
イディオは痛いところを突かれたようで、顔を赤くした。
「……確かに今はまだ実力が劣る! だが、昨日よりも今日、今日よりも明日! 私は日々成長している! 勇者の供として選ばれなかったあの当時とはワケが違うのだ! それに私には覚悟がある! 次に会ったときこそ、私をパシアンに認めさせてやるとも!」
怒鳴り合い、にらみ合った私たちを見たアニキが、急に噴き出して笑った。
「ガハハハハ! そうか、お前らはちゃんと覚悟を決めているのか! ……そうか、アルジャンが仕えている姫さまはなかなかに骨がある奴のようだ! ならば、俺はお前らを鍛えつつ、姫さまにお目通りしてみようか!」
第二王子は首をさすりつつアニキに言う。
「……私だって、かわいい妹を死地に向かわせるような真似をしたくない。あの子が嫌がればすぐに私の妻の実家に送り、普通の令嬢として過ごさせてやりたい。――だが、王家の者の義務として、あの子自身が選んだのだ。この国はそういう成り立ちだから、王家の者は死地に赴くような運命でも逃れられん。だからこそ、民が付き従っているのだからな」
第二王子から王族の覚悟を聞かされた。
重い。重いです。
あと、
イディオが変な顔をして第二王子を見ているわよ。気持ちがわかるわー。あ、私も同じ顔をしてた。
だがしかし、姫さまを知らないアニキには響いたようだ。
「王家の覚悟、しかと受け取った! ならば、この国に住む民として、冒険者として、俺は姫さまの供となろう!」
よっしゃー!!
めっちゃ強い冒険者をゲットした!
ついでに私の婿候補よ! 道中で探りを入れるわ!
話はついたので、私たちはアニキとともに、今度こそ姫さまを追いかけることになった。
アニキは上半身裸でズボンもボロボロだったため、装備や着替え一式を騎士団からもらい受けていた。
アニキの持っていた装備はここの連中に売り払われてしまったらしく行方不明。王家が命じて行方を捜させるそう。
(買うとしたら)超お高い武器防具なので、伯爵家は身ぐるみ剥がされる勢いで弁償しないといけないらしいわよ! ザマァ!
着替えたアニキは……なるほど、姫さまの護衛騎士っぽくなった。
正確に言うと、アルジャンって人と同じ雰囲気になったわ。明らかに他の騎士団員とは雰囲気が違うので「あぁ、アルジャンって人も元冒険者だったんだなぁ」って思った。
アニキは馬車に乗り込もうとしたとき、ふとした感じで言ってきた。
「では、俺の仲間と合流して姫さまとアルジャンを追っかけるとしよう。俺の決めたことに毎度難癖つけるアイツらも、今回ばかりは即座に首を縦に振るだろ。なんせ……」
アニキが私たちを見てニヤリと笑う。
「伝説の、〝勇者の供〟になれる、ってんならな!」
……あ。機密事項、バレちゃった。いやバレるよね。怒鳴り合ってたもんね。
豪快に笑いながら乗り込むアニキを見つつ、アニキの口が軽くありませんようにと願った。
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