第54話 プリエ・ルミエールの旅~アニキ救出編4

 イディオは呆然としたままつぶやいた。

「……確かに当時の私なら、私にふさわしい指導者はトップランクのパーティだろうなどとうそぶいていただろうが……。私も視野が広がった。そんなわけはない。新人のわかってなさは等しく同じだ。トップランクのパーティではなく、新人教育担当の教官が教えるべきだ。Aランク冒険者はAランクの魔物を狩るべきだと、今は痛切に思う」

 当時を思い出したのか、耳まで赤くなるイディオ。それを見たアニキは大声で笑った。

「いいぞ! そうやって学んでいくんだ! それに、俺は教えるのが上手いぞ? お前ら貴族が知っていそうな名は……そうだ、アルジャンって知っているか? 騎士団に入ったらしいが、アイツなんかも俺が育てたんだ!」

 アルジャン? と、私は首をかしげたが、イディオは合点がいったようだ。またもや目を見開く。

「パシアンの! ……いやパシアン姫の護衛騎士ですよね!? あの護衛騎士、アニキの教え子の一人だったんですか! と、なると、私の兄弟子になる人なのか……!」

 それで私にもわかった!

 えええええ!?

 あの護衛というか、世話役みたいな人、あの人もアニキの教え子なの!?

 ……ちょっと待って、アニキっていくつなんだろう。あの護衛騎士の人もけっこう年齢がいってた気がするんだけど。

 と、私はまたよけいなことを考え始めていた。


 脱線しまくりつつ、だけどすべてを話し終えると第二王子が頭を抱えた。

「……本当に、この人手が足りないときに、ここの連中は……!」

 えぇそうですね。貴重な人材を拷問したり、もしかしたら貴重な人材だったかもしれない人を惨殺したりしていますね。

「副隊長、伝令だ! ここの連中全員を捕縛しろ! 野放しにしておくとさらに犯罪を重ねる。もはや裁判などかけている暇などない、使い途はあとで考えるから、捕まえて鎖につないでおけ!」

 ブチキレた第二王子が副隊長に叫んだ。


 裁判になったら証言しないといけなかったが、もう調査し真偽を確かめている猶予はない、これ以上被害が広がる前に第二王子の権限でこの町および収容所にいた連中は即刻捕縛し、魔物討伐の何かに使う、ということになった。


 よかった、これでようやく姫さまを追っかけられる。

 なのでアニキとはお別れなのですが……。

「アニキはこれからどうするんです?」

 イディオが尋ねると、

「ん? 俺か? この先の町で仲間と待ち合わせしているんだ。途中で捕まっちまったんで、もしかしたら俺の足取りを探してくれてるかもしれねーけどな。とりあえずは行ってみるわ」

 ってアニキが答えた。

 私とイディオは素早く視線を交わす。

 ……どうやらアニキは情に厚い。ほだされやすい。

 姫さまのことをうまいこと話して、護衛になってもらえないかしら? 私にはAランク冒険者を雇うお金はないけれど、今回の件を言い訳にして、『かなり危険な旅なので知り合いの冒険者に護衛を頼みました!』って言い張れば王家がお金を出してくれると思うしぃ。


 イディオたちの会話が聞こえたのか、去ろうとしていた第二王子が振り返り、アニキに言った。

「情に厚い貴殿になら、もしかしたら頼めるかもしれないな……。実は、我が妹が冒険者として旅に出ているのだ。非常に危険な旅のため、供を探している。貴殿がよければ妹の供になってやってくれないか?」


 第二王子が行ったー!

 私は内心小躍りしている。そりゃあもう、陽気なステップを踏みまくっていますよ!


 アニキはキョトンとした。

「姫さまが冒険者? ……なんの冗談だ?」

 とたんに、第二王子のみならず私とイディオも参戦して、口々に姫さまが旅に至った経緯を(勇者かもしれないことは伏せつつ)話した。

 そして思った。あ、イディオも姫さまが勇者かもしれない件は知っているな、と。

 聞き終わると号泣するアニキ。やっぱりいい人……! そしてチョロい。

「そっかよ……! 姫さまなのにそんなに過酷な運命の中、旅をしているのか……! よしわかった、俺でよければ助太刀してやろう!


 やった!

 恐らく全員が心の中でガッツポーズをしていたと思う。

「それに、貴殿の教え子であるアルジャン、彼がパシアンの護衛騎士としてついている。彼と貴殿とが組めば、どんな魔物も一撃で倒せるだろう」

 と、第二王子がトドメを刺したとき、アニキが急に泣きやんで第二王子を見た。

「アルジャンが姫さまについている? じゃあ、俺はいらねーだろ」


 私たち三人の笑顔が固まった。

 ……アレ? アニキってもしかして、姫さまの護衛騎士のこと、嫌ってるの?

 第二王子も地雷を踏んだのかとオロオロし始めた。アニキはそんな王子を不思議そうに見る。

「つーか、アルジャンがいれば他の護衛なんていらねーだろ。アイツはソロでトップクラスの俺のパーティに並ぶAランク冒険者だぜ? アイツ一人でじゅうぶんだと思うけどな!」

 そう言って豪快に笑った。あ、そういうことなんだ。


 ……って! 今、すごいこと言わなかった!?

 え、あのとぼけた雰囲気の護衛騎士、そんなに強いの!? 私が見てるのは、姫さまのオイタにため息をついて肩を落としているところか、私とイディオが泣かされているのを見て困ったように笑って頭をかいているところかだよ!?

 イディオも啞然としている。平民臭さが抜けきっていない、世話役と言った方がいいんじゃ?って感じのオトボケ騎士がそんなに強いとは思わなかったんでしょうね。


 啞然とする私たちに気づかず、アニキが逡巡するようにうつむいた。が、顔を上げて話しだした。

「……それに、アイツにはちょっとした事情があってな……。分け前が減るから、ソロでいるんだよ。だから、おれが入っちゃマズいだろ?」

 それを聞いた第二王子は即座に否定した。

「それはない。アルジャンは騎士団員だ。騎士団員は、各個人にそれぞれ評価された給料が入金される。彼女たちもパシアンの護衛志望でパシアンを追いかけているのだが……」

 第二王子の言葉を受けて、私が言った。

「私は王家と個人で契約しておりまして、王家から私個人に給金が出ます」

 さらにイディオが言った。

「私……いや俺は事情があり、公爵家が支援してくれています」

「え、そうなのかよ! 冒険者とやり口が違うんでわからなかったぜ!」

 アニキが驚いたように相づちを打った。

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