第53話 プリエ・ルミエールの旅~アニキ救出編3

 ちょっとした話し合いの末、アニキは手首に巻きついている鎖を外しイディオの剣を借りて私の護衛になり、イディオが私をおぶって歩くことになった。

 アニキにお姫さま抱っこされたいなぁと思ったけれど、このメンバーの中で誰よりも強いアニキの両手がふさがるとまずいので、しぶしぶイディオで我慢します。


 アニキは牢屋で殺されている囚人たちを見て、沈痛な顔でうつむいた。

 ……そうだよね、仲間を盾に取られて拷問されて、しかもその仲間はとっくに殺されていたとか最悪じゃん。

 おのれジャステ伯爵……! これでも「正義」とか抜かすか!


 イディオもなんと声をかけていいのかわからなそうに口を開けたり閉じたりしていたが、やがて決心したように口を開いた。

「アニキ、急ぎましょう。戦わず逃げの一手を選んだ残党もいますし、ここから騎士団のいる町までもけっこうかかります。まずは騎士団に報告しアニキのえん罪を晴らしておかないと、最悪アニキ一人が悪者になります」

 アニキはその言葉で気を取り直したようにうなずいた。

「よしわかった。向かうぞイディオ!」

「押忍!」

 ……なんだろうこのノリ。イディオって影響されやすくない?


 私たちは収容所を無事に抜け、アダンの隠れている馬車に向かった。

「……!? プリエ様!? どうなされたのですか!?」

 隠れていたアダンは、おんぶされている私を見て驚き心配して飛び出してきてくれたよ。貴方、馬以外の心配もできたのね……。

「魔力切れだ。外傷はない。それよりも、大丈夫だったか?」

 イディオが尋ねるとアダンはホッとしたようにうなずいた。

「はい。様子もうかがっていました。人通りは一度、収容所から町へ向けてです」

 アダンがハキハキと答える。

 アダンは馬が絡まなければ出来る子なのね……。まぁ馬の世話自体も出来る子だけど、あのグネグネするのがなぁ……。

 私は馬車に寝かされつつ、そんなことを考えていた。


 アダンが馬車を出発させた。向かうはジャステ伯爵家。……また戻ることになってしまったよ。姫さま、なかなか進めず申し訳ありません。待ってないと思うけど。

 馬車の中でイディオはアニキの様子を気にしている。仲間が殺されたからだろう。そんなイディオを見てアニキは笑って肩を叩いた。

「イディオ、お前が気にするな! 長らく冒険者をやっていればこんなこともある。拷問されて、命があっただけ上々だ! よくある……とは言わないが、毎度立ち止まっていたら他に助けられる者がいても助けられん。運が悪かったと割り切るしかないのだ」


 アニキ〜〜〜〜!

 やだ、何このカッコいい人!? ヤヴァイ、惚れそう!


「アニキ〜〜〜〜! さすがです!」

 イディオもアニキを讃えている。まさか、イディオの知り合いにこんなマトモな人がいるなんて思っても見なかった……! そして冒険者を見直したわよ!


 町へ着いた頃には、起き上がれる程度には回復した。

「なんで戻ってきた?」って顔をしてこちらを見ている騎士団員に、イディオとアニキが説明する。

「……あぁ! あなたが〝アニキ〟ですか! 本名じゃなかったんですね!」

 と、騎士団員がポンと手で叩く。どうやらアニキは有名人らしいよ!

 騎士団員は事情をすべて聞くと顔色を変えた。

「すぐ上に話し、急行します! 聴取があるのでしばらくお待ちください!」

 と、騎士団員は走っていった。

 そして、私とイディオはとある事に気づいてアニキの顔をガン見していた。

「……アニキ、あの……。……牢屋で殺されていたのって……あの、アニキの仲間、というか、パーティメンバーじゃないんですか?」

 イディオが思い切って尋ねた。

「ん? いや違うぞ。アイツらがあんな連中にあっさり捕まるわけないだろう。牢屋で知り合った奴だ!」


 アニキ〜〜〜〜!?

 エエエ。ちょっと、そんな浅い付き合いの人を助けるために拷問されていたの? すごくない!? 情に厚すぎる!

 イディオもあまりのことに口をOの字に開けているわよ。

 こう言ってはなんだけど、その程度の仲ならそりゃ立ち直るのが早いわよ。むしろ引きずってたら怖いわ。


 走っていった騎士団員が戻ってきた。

 出発しようとしていた第二王子が戻ってきて、詳しく話を聞きたいという。

 私たちはまたもや第二王子と対面し、事のいきさつを説明し始めた。

「そうか……。騎士団としては我らが行くまで待っていてほしかったが、そうしたら貴重なAランク冒険者が殺されていたかもしれないので、私個人としてはよくやってくれた、と讃えたい。ありがとう」

 さわやかな笑顔で礼を言われました。


 私はちょっと驚いた。アニキ、Aランク冒険者だったんだ!? どうりで強いわけだわ……。

 Aランク冒険者ともなれば、それこそ下手な貴族よりも稼いでいる。命の保証はないけれどね! でもそれは騎士団もそうだし。

 うわぁ、アニキって既婚者かしら? ちょっと……どころではなく年上そうだけど性格もよし、亭主元気で留守がいいの見本だし、花嫁募集していたら立候補したいなー。


 とかぼんやり考えている私の横で、イディオが目を見開いて驚いている。今日で何度目の驚きだ?

「……アニキはAランク冒険者だったんですか!?」

「ん? 言ってなかったか? 俺は【鴻鵠之志】ってパーティのリーダーをやってんだ」

「超有名トップ冒険者パーティじゃないですか!? なんで冒険者になり立ての新人教育なんかやってたんですか!?」

 イディオが叫んだ。つまり、イディオの冒険者教育係だったと。

 ……あ、なるほど。イディオがマトモになったのってアニキのおかげなのかぁ。根性を叩き直してくれてありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る