第50話 護衛騎士、勇者の供を推薦する

 バジルと別れた俺と姫さまは、再びギルドに向かった。


 バジルが入り戦力が増強した……と思ったら、魔人形の改造で一カ月はとどまらないといけないという。姫さまは待っていられないだろうから、先に行くことになる。つまり、けっきょくお供は俺一人だよチクショウ。

 そこは脇に置いても、もう少し戦力を増強したいのは確かだ。

 戦力が増強すれば、姫さまがAランクの魔物を見に行きたいと駄々を捏ねても……まぁ、なんとかうなずけるだろう。


 俺としては騎士団がいいのだが妥協して、金で動く冒険者を雇うことに決めた。騎士団を当てにしていてもきっとたぶん絶対に勇者の供候補を送ってこない。なら、金の関係だとしても冒険者の方がいいだろう。

 冒険者を雇うとして……勇者の供としてこれから魔王の眷属と戦うことになるのだから、Aランクでないとダメだろう。

 多少の金を使うことになるが、戦力が金で買えるのならもうそれでいいじゃないか。出すのは俺じゃないし。

 どのみちAランク冒険者は異形討伐に駆り出される。なら、せめて一パーティでも俺たちに回してもらい、姫さまとともに討伐していこう。勇者の供って箔がつくし、連中にも悪い話じゃないと思う。


 姫さまに、

「冒険者を雇いましょう。どのみち連中と組んで魔王の眷属と戦うことになるのです。今、彼らを勇者の供にしても問題はないと思います」

 と、提案したらものすごく渋っていたが、

「そうすれば、『Aランクの魔物を見に行きたい』という姫さまの要望も叶えやすいですよ」

 と言ったら、

「よし行こう! ギルドだな! お前くらい強い冒険者なら供に加えてやってもいいぞ!」

 と、俺の手をひっぱりだした。やれやれ。


 ギルドマスターに、Aランク冒険者……俺の知っている奴がいいので【鴻鵠之志】を指名し、異形討伐に同行してもらいたいという依頼を出すと、ギルドマスターは俺と姫さまを見比べた後、大きくため息をついた。

「……しょうがねぇよな……。魔王復活阻止はこの国だけじゃねぇ、世界中の第一案件だ。勇者が魔王の眷属討伐に同行しろって言うなら、Aランク冒険者は首を縦に振るだろう」

 そう言ったが、ギルドマスターは気乗りしないような表情だ。

「おいおい、世界中の第一案件だって言ったのはギルマスだろう? 実際そうだし。俺たちと同行して魔王の眷属を潰しまわるんだから、そっちにだっていい話じゃないか」

 俺がそう言うと、ギルドマスターは頭をかいた。

「いや、そうじゃなくてな……。【鴻鵠之志】をご指名、ってことはアニキ狙いだろ? アイツ、なんかドジ踏んで今どっかの貴族の牢屋に放り込まれてるんだよ」

「ハァ!?」

 なんでそうなった!?

 姫さまも目を見開いている。

「しかもその貴族、ギルドを通さず捕まえやがって、おまけに報告なしときたもんだ。めっちゃ揉めてるぜ? 騎士団が手入れしてバレたらしい。その貴族はつるし上げられて王都で裁判……の予定だったが、お前らが報告したこと、魔王の眷属が出たってアレを伝えたらギルドと国の上同士で話し合ったらしく、その貴族は貴重な戦力を私腹を肥やすためにえん罪にかけた、ってんで裁判なしで沙汰が下されたってことだ。何しろ犯罪者の巣窟みたいな貴族領らしく、上から下までみーんな犯罪者だから、全員犯罪奴隷として魔王の眷属討伐の際に肉盾として使うらしいよ」

 うーわー。

 なんかデジャヴな話を聞いたなオイ。いや、俺としちゃ貴族の大半がそんな感じだからな。俺たちが通ってきたときに出くわした貴族じゃないだろう。


 いや、それはともかくだ。

「困ったな……。アニキを迎えに行くわけにもいかないし……。つか、他の連中は?」

「そもそもが、アニキは別件で王都に留まっていて、遅れて合流する予定だったらしい。他の連中は、それこそこの近くまで来てたよ。アニキが牢屋に放り込まれてるって知らせを聞いて、ついこないだ旅立った」

 マジかよタイミングが悪い……。

 通称〝アニキ〟と呼ばれる【鴻鵠之志】のリーダーと俺は、確かに仲が良い。というか、アニキと仲が悪い奴はそういない。皆に慕われる面倒見の良い性格で、俺も世話になった。だが、アニキは俺と同じ近距離タイプのパワーアタッカー。どちらかというと他のパーティメンバーの方が俺の目当てだ。

 アニキのパーティメンバーなだけあって、寛容で仁義に厚く、しかも実力は折り紙付きだ。それこそ、斥候が遠距離武器で異形を殺せるくらいの実力なんだよな。魔術師も、超遠距離魔法も広範囲魔法も使える。遊撃は俺が鈍足に思えるくらいに速いしタンクはあの異形なら必ず足止め出来るだろう。

 なので、実はアニキ自身は要らなかったりする。異形討伐ではね。俺と一緒でお払い箱だな。


 だが、アニキは面倒見が良い。良すぎる。姫さまの境遇を聞けば絶対に号泣して『勇者の供になって面倒をみてやろう』と言うだろうし、豪快で闊達なので姫さまとも気が合う気がする。

 と、いろいろ考えて指名したのだ。

「……うーん。姫さま、私の知る中では【鴻鵠之志】が一番姫さまとの相性が良く、実力もあります。バジルが参戦するまでのつなぎと考えるにはもったいないほどです。できれば彼らに供としてついてきてもらいたいのですが……」

 俺が唸りながら姫さまに進言すると、姫さまがうなずいた。

「うむ。アルジャンがそこまで薦めるのであればその【鴻鵠之志】とやらを勇者の供としよう。彼奴らを追いかけながら旅を進める」

 俺はホッとし、ようやく勇者の供が増えそうなことに喜んだ。

 実力もあるし、姫さまの安全が段違いに図れる。

 ギルドマスターに依頼を出し、ギルドマスターも最重要指名依頼『急務』で各ギルドに手配してくれた。これをやってもらうと各ギルドに【鴻鵠之志】が寄れば即座に話がいくし、最重要とまでついた指名依頼はそうそう拒否できない。


 ——俺が一安心してそのままギルドを出ようとすると、一度引っ込んだギルドマスターが泡を喰ったように飛び出してきた。

 ハテ? と思った俺と姫さまは顔を見合わせた後、ギルドマスターを見た。


 ギルドマスターは、蒼白な顔で額に汗をびっしょりかきながら、俺たちに告げる。

「…………アルジャン。【鴻鵠之志】が、魔王の眷属にやられた。二名死亡、残りは行方不明だ」

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