第49話 姫さま、魔人形を起動させる

「あ、ただ、ちょっと時間をくれないか? 今回手に入れた素材で、全魔人形を出来る限りは俺の手でパワーアップさせるからさ。少なくとも強度は上げないとマズい。アレがデフォなら、同じ耐久性を持たせたいんだよ。それから出発する、ってことでヨロシク!」

 って、バジルが言ってきた。

 俺は、姫さまと顔を見合わせる。


 ……だって、この錬金工房自体が勇者の武具なんだろ?

 移動出来るって姫さま言ってたよね?


 そう思ったのでバジルにツッコんだ。

「錬金工房は、持ち運び出来るって話だろ? なら、旅をしながらやればいいだろうが」

 ――俺は、何の気なしのその発言を後悔することになった。


 カッ!


 と、目を見開いたバジルがまくし立て始めたのだ。

「錬金術ナメんな!!!『旅のついでに?』……ンな気軽な感じでやるモンじゃねーんだよッ! 案出しして、計画して、材料を集めて、作って、試験して、材料集めて、不具合直して、試験して、材料集めて、不具合潰して、試験して、それでようやく、ようやく! 完成すんだよ! そんな工程、旅をしながら出来るわきゃねーだろが脳ミソ働かせて深く考えろ! 特に、これから作るのは魔王を想定してなんだろうが!? 耐久性も上げないとだし、性能ももっと上げなきゃ簡単に壊されるのはわかってんだろ!? それをお前は――」


 俺、正座。

 バジルはヒートアップしてガミガミ説教している。

 ちなみに姫さまは、瞬時に目くらましの札を貼り逃亡した模様。気配すらしないよ!


「――というわけで姫さま。バジルは魔人形が完成しだい追いかけるそうです。追いかける手段は移動用の魔道具を作るとのことで、問題はなさそうです」

 一時間後。ようやく解放され、ゲッソリした俺は逃亡した姫さまを見つけて説明する。

 姫さまは異を唱えることなくおとなしくうなずいている。

 ――まぁ、あのバジルを見たら、反論するのは嫌だよな。

 嫌だがバジルの魔人形は有用だ。そして、あんな異形が出没しているのに呑気に魔人形ばかりを造っていられても困る。

 ……という気持ちが伝わったのか、バジルが弁解し始めた。

「あんま時間はない、ってのはわかってるから、ある程度は妥協するつもり。でも、一か月くらいは見てほしい。完成したら追いつけるから。あと――」

 バジルは逡巡したが、姫さまを見て言った。

「ハナコは、目覚めさせられるのか?」

 その問いに、姫さまはうなずく。

「所有者をお前に変更すれば、お前の命令をきくようになる。……そもそも勇者の命令はきくのだが。私がそばにいけば、目覚めるはずだ」

 バジルは姫さまに頭を下げた。

「姫さま! 頼む! 絶対に追いかけるから! 先にハナコを目覚めさせてくれ!」

 姫さまは俺をチラリと見た。

 ――正直、後の方がいい。保険をかけておきたいから。

 だが――

「姫さまのご随意に」

 俺は姫さまに一礼した。

 勇者の供については姫さまが決めることだ。それに、バジルの魔人形は有用だが、逃げ出したらそれまでだと俺は割切っている。無理についてこさせても、どうせ途中で逃げ出すだろうからな。

 俺が何も言わなかったので、姫さまはバジルにうなずいた。

「うむ。では再起動させよう。私をハナコとやらのもとに連れていけ」

 バジルは地下に続く階段を示した。三人で下りていくと、狭い部屋の中央にベッドがあり、そこに人と見間違えるほどによくできた魔人形が横たわっていた。


 姫さまは、ハナコをひと目見るなり眉根を寄せた。

 そんな姫さまの表情を見て、バジルが恐る恐る尋ねる。

「……姫さま。いけそう?」

 バジルの問いに答えず、姫さまはハナコに近寄ると、思いきり頭部を叩いた。

「何百年も狸寝入りするな」


 え。


 俺とバジルは目が点になった。

 姫さまは、なおもハナコに語りかける。

「起きないようなら、ドリルでその額に穴を開けてやる」

「わかったわかりました。起きます」

 いきなりしゃべりだした!

 ハナコは目を開けると、しぶしぶといった感じで起き上がった。

「言っておきますが、起動しない方がよけいなエネルギーを使わずに済むし、体内の不具合が起きにくいんです。ですからこれは断固として狸寝入りではありません」

 ハナコが弁解しているが、姫さまの視線は冷たい。

「それならそうとコイツらに言っておけばよかっただろう? 伝えずに、あたかも壊れたかのように眠っていたのは働くのがめんどくさいという理由しか考えつかない」

「……現代勇者さま。魔人形だからといって、働くことが好きとは限りません」

 ハナコは、まるで諭すかのように姫さまに反論する。

「ならばスクラップにするぞ。ソイツの造った働き者の魔人形を勇者の供とするほうが断然いい」

「わーいハナコ、働くの大好きー」

 姫さまの放った一言に、棒読みで返すハナコ。

 バジルがドン引きしているよ。でも、気持ちは分かる。

 姫さまがくるりとこちらに振り向いて言った。

「起動させたぞ。厳密には停止したフリをして惰眠を貪っていたのを叩き起こしたのだが。――バジル、この魔人形は怠け癖がある。もっともらしい言い訳を並べて休もうとするだろうから、そんなときはドリルで頭に穴を開けてやれ」

「えぇ……」

 バジルは何とも言えない顔をしていた。

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