第48話 姫さま、勇者の供をゲットする

 戻ってギルドに報告した。

 ギルドマスターに話しながら、おとなしくAランク魔物を相手にしていれば……と、チラ、って思ったが、アレの相手は勇者案件だろうから仕方がない。どのみち討伐に向かう羽目になったんだ。


「……そんなんが出るようになっちまったか……」

 ギルドマスターが頭を抱える。

 その後、顔を上げて俺を見た。

「アルジャン、お前……勇者の供に選ばれたんだな?」

 俺は頭をかいた。

 ……さすがに誤魔化せないよな。

「俺の主君、パシアン姫が勇者だ。……今はまだ内緒にしてくれ。勇者案件はデリケートで、何がきっかけで失敗するかわからない。姫さまも、それが測れないのでかなり慎重に事を運んでいるんだ。今はまだ、『特Aランクの魔物が発見された』ってだけにしておいてくれ」

 ギルドマスターはうなずいてくれたが、難しい顔をしていた。

「うーん……。だが、そんな危ない魔物が出るんじゃさすがに各ギルドマスターと情報を共有しないとまずい。勇者の件は伏せておくが注意喚起しなきゃならんし、Aランク冒険者を集めて討伐依頼をかけなきゃ死人が出まくるぞ。お前クラスで苦戦するくらいなんだろう?」

 そう言われて、今度は俺が頭を抱える。

「……すまん。俺だと『苦戦する』なんてレベルじゃねぇ。『何度か死ぬ』レベルだ」

 俺のセリフにギルドマスターが絶句した。

 俺はなんと言おうかと天を仰いだ後、ギルドマスターに顔を戻した。

「詳しく話していいのかわからんので助かった詳細は伏せるが、勇者の力がなければ俺は生きていなかった、とは言っておく。――Aランクの冒険者なら、数人がかりでいけば一匹倒せるかもしれんが、死ぬ奴が出るかもしれない。特に近距離……俺みたいなタイプはマジで死ぬ確率が高いんだ。隠密系の遠距離が高火力の魔術をぶっ放せばいける……と、思う」

 ギルドマスターは俺の話を聞いて嘆息した。

「隠密系の遠距離って、シーフ系のスキル持ちだろ? そんなんに高火力の魔術が使えるわけねーだろが」

 無茶言うな、みたいに言われたけど、でもそれが最適解なんだって。

 俺は腕を組んで唸りつつ思いつきを伝える。

「……騎士団と連携だな。騎士団の盾ならそう抜かれないかもしれん。盾で囲って、魔術師が見えないところから魔術で不意打ちしまくる、もしくは足の早い奴が影から突撃しまくるのが思いつく対処法だ。近距離はとにかく不利。特に俺タイプはめっちゃ不利」

 あんなんが魔王の眷属なら、俺、勇者の供としては役立たずなのでは……? とか思うね!

 バジルとか言う錬金術師の方が勇者の供としてはいいだろうな。

 あの魔人形はかなり使える。不意打ちもいけるし、囮もいけるし、遠距離攻撃もいけるし。


 ……そうそう、姫さまに新武器を教わった。

『アームキャノン』とかいう名前で、腕に取り付けて撃つらしい。威力はあるが、溜めが必要で連射が出来ない。あと、弾速が遅いって欠点があるそうだ。

 で、それを撃ったのかと思ったら全然違って、あの構えはフェイクだったそうだ。

 気を引いて、本命の攻撃はバジルに任せたとのこと。『クモコ』とかいう名前の魔人形に勇者の武具を急きょ取り付けたんだそうだ。

 どこに撃ってもマークした敵を追尾して攻撃するっていう、怖い魔術弾だそうで……。

 ただし、追尾状況によっては威力が激減する(弾の勢いが減るため)のと、追尾したとしても割り込みされると当たらないそうだ。

 今回のような、上から降らせるって使い方をするのが一番効果的だから使った、とは姫さまの談。

 そのままクモコに取り付け、奇襲させるということだった。


 俺はギルドマスターと相談し、騎士団長に手紙を送ることになった。

『今後、騎士団の遠征には遠距離攻撃できる魔術師を必ず伴わせ、魔罠の数を揃えて持ち歩くように』、と書いた。

 魔術師は騎士団員ではなくともいい。もやしっ子だろうが高火力の遠距離攻撃が出来ることが肝心だ。不意打ちが決まれば、あとは騎士団員でもいける……かもしれない。

 ともあれ、俺のような剣術バカばかりが集まったら危険だ。不意打ちが一番効果があるんだから、真っ正面から突っ込んでいくしか能のない連中ばかりだと、全滅する恐れがある。これは、強さの問題じゃなくて相性の問題だからしょうがない。


 手紙を送った後、バジルの錬金工房に行った。

 バジルは、勇者の供になったと聞いて苦悩した。「なんで俺の代で……」っつってるので、勇者の供の子孫という自覚はあったらしい。

 断りたい、という雰囲気が満載だったが、断れないのは錬金工房が勇者の武具だったからだ。

 工房自体が勇者の武具ってスゲーな。


 そして、勇者が預けていたもう一つの武具。

 それがバジルに、『勇者の供』として姫さまの旅に参加することを決意させた。

 バジルの先祖が使役していた最強の魔人形、それの核が勇者の武具だったのだ。

 ただし、現在は稼働していないそう。使役していた者が亡くなったと同時に、その魔人形もまた眠りについてしまったということだった。


「うむ……。うむうむ。それはだな、その魔人形を操る権限が当時の勇者の供にしかなかったためと、その魔人形が他の者に使われるのを是としなかったため、のようだ」

 姫さまがしきりにうなずきながら語り出した。

「当時の勇者の供が作り出した『ハナコ』という魔人形は、悪用したら危険極まる武具で、かつ勇者が使用者の制限をその勇者の供のみ、としか設けられなかったのだ。本来なら機能制限がかかるだけなのだが、その魔人形自体が他の者に使われたくないと、機能を停止してしまったのではないかと推測される」


 なんというワガママ魔人形! そんなんアリなの!?


 ……姫さまの話を聞いた限りじゃ、その魔人形、もうどうしようもなくない?

 何とも言えない顔をバジルと俺とでしていたら、姫さまが気づいてサムズアップをした。

「大丈夫だ! 私は勇者だぞ! 権限をお前に譲渡してやるから叩き起こせ! お前自身が作り出した魔人形も、所有者を『お前だけ』という制限をかければパワーアップするからやってやる! だが、その代わり勇者の供として、アルジャンの下につけ。アルジャンが、『部下がいない』と嘆いているのだ」

「マジか! 姫さまサンキュー!! 一生ついてく!」

 バジルが喜色満面で現金なことを叫んだ。

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