第46話 護衛騎士、姫さまを手当てする

 異形はボロボロだった。

 俺が斬った背骨は上空からの攻撃で完全に裂け折れている。

 そして異形の残った頭も潰されていた。ヤバい威力だな。


 ……と、人型蜘蛛が木から下りてきた。ん? 青年も一緒だ。

 冒険者風の格好だが、ゴーグルをしていたり、スカーフで口元を覆っていたり、道具を腰にじゃらじゃらつけていたり、なかなか派手な格好をしていた。

「あー、焦ったぁ。当たんなかったらお供のおっさんに殺されるぞ、とか脅されるしさぁ。でも、ドSの姫さまもちょーかわいい」

 そう言いながら姫さまに近づき、うぇーい、と、姫さまとハイタッチしている。

 たぶん、コイツがバジルだろう。……なんか、軽い男だな。そして俺は殺さないよ?


 俺は大きく安堵の息を吐くと、気を引き締めて異形に近づいた。

 見た限り、異形は、息絶えているようだった。

 念のため、開胸し開腹した。心臓を潰さないと死なない魔物とかいるからな……。心臓が複数ある魔物とかもいるし。

 調べていたら、声をかけられた。

「あんまぐちゃぐちゃにしないで。ソレ、素材としてもらい受ける話だからさー」

「は?」

 顔を上げると、バジルがビビっている。だから、殺さないよ?

「ひ、姫さまからそういう約束を取り付けてるの! その素材を使って、助太刀したクモコを修復バージョンアップしていい、って!」

 いつの間にそんな仲良しに!?


 姫さま、貴族の子息じゃなけりゃ仲良くなるのかな?

 あるいは、姫さまのやんちゃな遊びに付き合えそうな奴ならいけるんだろうか。

 ……と、姫さまが無事城に帰ったのち婚約者を探す際のアドバイスについて考えていると、

「見ろ! 戦えそうな供をゲットしたぞ、喜べアルジャン!」

 フンスフンスと、鼻息高らかに姫さまが言った。


 俺は異形の死亡を確認し、姫さまのもとへ歩く。

 姫さまの前に屈むとマジックバッグから手拭いを取り出し、姫さまの顔の汚れを拭い取りつつ尋ねた。

「それにしても姫さま。なぜ異形の逃走経路がわかったのですか?」

 絶対にまぐれじゃない。姫さまは確信を持って逃走経路に立ち塞がっていた。

「この先に逃げ場があるのだ。前回はわからなかったが今回はわかったぞ!」

 逃げ場?

 姫さまの言葉に首をかしげる。

「行けばわかる。ついてこい」

「その前に身だしなみを整えましょう。鼻血の他に怪我はないですか? どこか痛めたなら回復薬を飲みましょうね?」

 意気揚々と歩き出そうとする姫さまを引き止めた。


 どうやら、身代わり人形には欠点があるらしい。

 本人の危機感だ。

 姫さま、弾き飛ばされるとは思ってもみなかったらしい。弾き飛ばされたときに打ち所が悪くて鼻血が出てしまったそうだ。

 この理屈でいくと後ろからグッサリ刺されたら間違いなく殺られるんだが……。

「そこは防護のブローチと結界の札だ」

 姫さまが言ったので、なるほどね、と思った。


 ……だが、やはり守りが弱い。

 こんなんがたくさん出たら、非常にヤバいぞ。

 今回、一匹だからどうにかなった。正直、俺だって姫さまのばらまいた身代わり人形がなけりゃ間違いなく死んでたしな。

 弱点とパターンがわかったので次に見えても今回ほど苦戦はしないと思うが、徒党を組まれるとまたパターンが変わりそうだ。

 と、姫さまの手当てをしながら考えていた。


 姫さまにたいした怪我はなく、すり傷がほとんどだったので王家の軟膏を塗って済ませた。

 その間、新しい勇者の供であるバジルと姫さまが話す。


 バジルは、勇者の供になるのを嫌がった。

 いろいろ理屈を捏ねたが、主には「その期間、物が作れない」そして「戦うのは作った魔人形になるが、壊されるのが嫌だ」ということだった。

 話を聞いていた俺は、伝家の宝刀である「王命だ」を使おうと思ったが、その前に姫さまが言った。

「なら、初代勇者が貸し与えた『錬金道具』と『疑似魔核』を返してくれ。別の錬金術師に渡す」

 ずい、と姫さまが手を出した。


 バジルは固まっている。

 姫さまは人型蜘蛛をチラ、と見て迫った。

「独学でそこまで作ったのは褒めてやる。だが、初代勇者が勇者の道具をお前の先祖に貸し与えたのは、子孫に玩具を作らせるためじゃない。勇者に協力させるためだ。自分の好きなものを作り出すためだけに使うのなら返せ。ならば別の者に与える」

 バジルは反論しようとした。だが、俺を見ると怯えたように目を逸らす。だから、殺さないよ?

「……疑似魔核は、まだ俺には創れないんだ」

 ポツリとバジルが言った。

「その理由が、初代勇者が創り出したってことなら、半分くらいは納得する。だけど、俺はこの手で創り出したいんだ! それを、俺のじーちゃんも夢見てたんだ……」

 バジルが拳を握る。


「……もしも、姫さまが初代勇者と同じくらいすごいんだったら、ハナコを診てくれないか? 俺たち一族は、ハナコを直すために魔人形を研究してたんだ」

 ハナコ?

 俺は首をかしげた。

 姫さまが腕を組んだ。

「診るのはかまわないが、直すのは出来ないぞ。アレは、そういうモノじゃない」

 またしても姫さまがもったいぶったような言葉を言う。

 ジャステ伯爵夫人のときもそうだったが、姫さまは勇者グッズに関してめっちゃ博識だ。

 宝物庫でその知識を得たんだろうか。

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