第45話 護衛騎士、異形と切り結ぶ②

 何かの塊は回復担当の脇腹と飛び道具担当の片腕を吹っ飛ばした。

 ……もしかしてこの異形、不意打ちされると弱いのか? あ、誰だってそうか。

 ただ、この異形にはことのほか効くらしいな。生きて戻れたら騎士団に伝えよう。隠れて遠距離武器もしくは魔法罠で仕留められるぞ、と。

 俺はそんなことを考えつつ、異形に駆けよった。

 二度目の不意打ちに異形はそうとう驚いたらしく、そちらに意識がいっていて俺を認識するのが遅れたようだ。

「不意打ちじゃねーけど、勇者の剣なら斬れてくれよ!」

 ほとんど願望みたいなことを叫びつつ、剣を振りかぶる。

 バシュッ!

 避けられたが、回復担当の顔から首を半ば切り裂いた。

「■■■■■■■■!!」

 のけ反りながら痛がっている。

 ……痛がっているだけか。死んでほしかった。


 ――とか考えていたら飛び道具担当が撃ってきたので、慌てて避けた。が、右腕に当たった。

 その途端に、どこかで爆発音がした。身代わり人形が吹っ飛んだようだ。

 ……今日で俺、何度死んだのかな?


 飛び道具担当の追撃を警戒し転がって避けたが、どうやら片腕を吹っ飛ばされたせいで追撃が鈍っているらしい。そこまで必死に避けなくてもいいとわかった。跳ね起きると、奴に向かって間合いを詰めていく。


 現在、異形の頭二つと腕四本が残っていて、回復担当の顔と片腕と脇腹、飛び道具担当の片腕を吹っ飛ばしている。恐らく、回復担当は死んだっぽい。残った回復担当の腕はだらんと垂れ下がり、治癒しようとしないからな。だいぶこちらに有利になった。


 そして。


 新たに突っ込んできた異形に視線をやった。

 それは、メイド服を着たアラクネって感じだった。

 ただ、アラクネは下半身が蜘蛛なのだが、これは、人が蜘蛛っぽい形状をとっている、といった雰囲気だった。手が六本あるので今闘っている異形に近い。

 ただなんつーか……うまく言えないが異形よりも生き物として異質、という感じがする。


 ま、そこはどうでもいい。

 どうでもよくないのは、姫さまと人型蜘蛛の距離が非常に近いということだ。

 姫さまも、チラリと人型蜘蛛を見た。

「……助太刀か?」

 と、人型蜘蛛に尋ねる。

「クソッ! しょーがねーだろ、未来の美少女を見殺しにしたとあっちゃ、ご先祖様にも子孫にも申し訳がたたねぇ! ……クモコはお気に入りの魔人形オートマタだったのに……! よりにもよってこれに乗ってきたときにこんな事態に遭遇するなんて、ついてなさすぎだよ!!」


 喋った!?

 つーか、魔人形言った?

 その人型蜘蛛……魔道具なのか!?

 つまり……。


「お前がバジルって錬金術師か!? すまん、助太刀ついでに頼まれてくれ! 姫さまを安全な場所へ移してくれ! 礼は、騎士団か王家が支払う!」

 俺は払わない!


 俺は叫んだのち、再び異形に斬りかかる。

 回復担当がいなくなり、目に見えるくらいに異形は動きが雑になった。

 時々意味不明に怒鳴っているのは、痛いのだろう。

 接近戦に持ち込み、物理担当とやり合った。

 飛び道具担当に切り替わりそうになっても、先回りして攻撃し、切り替わらせない。


 その間に、人型蜘蛛と姫さまは合流、何某かを相談し、奥に撤退していったのでホッとした。

「よっしゃ、タイマンだ!」

 物理担当は、拳で俺を殴ってこようとする。

 俺はそれを勇者の剣で受ける。……物理担当の腕、固すぎるんですけど!?

 腹を切り裂こうとしても弾かれる。俺は舌打ちしたが、先ほど魔人形が不意打ちで回復担当側を攻撃したら上手くいっていたので、全身が固いわけではないようだと推測した。少なくとも、回復担当側は斬れると信じたい。

 飛び道具担当は……どうだろう。そっちには切り替わろうとしているから、たぶん飛び道具担当の腹も固い気がする。

 となると、回復担当側から突きを入れて内臓を破壊したいところだが、そっち側に行こうとすると物理担当に阻まれる。

 ふざけんな、ぜってー斬ってやるかんな! じゃないと勝ち目ないから!


 物理担当の拳と勇者の剣がぶつかり合う。あ、ちょっとだけ物理担当の拳が削れてきているな。ほんのかすり傷だけど。

「かすり傷も重なれば重傷になるってな! 拳を真っ二つに斬ってやるから覚悟しとけ!」

 って、怒鳴りながら何度も拳とぶつける。

 物理担当も、このままだと拳の方が当たり負けするってわかってきたのだろう。飛び道具担当に切り替わろうとした。

 ――その瞬間を狙い、俺は同時に反対方向へ動く。

「三面なら、同時に反対方向へ向きを変えたら一面飛び越し、ってな!」

 回復担当側に回ってやったぜ!


 慌てて向きを変えようとする異形と同方向に周回しつつ、斬りつけながら急に反対方向へ動く。

 異形の勢いと俺の勢いが合わさり、かなりの手応えを感じながら剣を振り切った。

「■■■■■■■■!?」

 異形は思いっきり叫び声をあげた。


「やったか!?」

 かなり深く斬ったはずだ。

 骨も半ば断てた手応えがあった。

 異形は、俺の斬った勢いで吹っ飛び転がった。そのまま死んでほしいなーと願いつつ油断なく構えながら見ていたら……なんと、そのまま逃走に移った。

「マジかよ逃げんな!!」

 俺、そんなに足が速くないんだよ!!


 必死で追いかけていると、異形の逃走先に姫さまがいるのが目に映った。

 最悪だ!!

「姫さま! 逃げろ!」

 俺が叫ぶと姫さまが叫び返す。

「アルジャン、伏せろ!!」

 姫さま、何かをこちらに構えて撃ってこようと……

「どぁあああぁああ!!!!」

 俺は慌てて地面に飛び込む形でスライディングした。


 ――直後、光の奔流が異形の上に降り注いだ。


 なんで上!?

 構えてたの、なんだったの!?

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