4章 姫さま、三面六臂の異形と出くわしたってよ

第42話 護衛騎士、手紙を読んでため息をつく

 ギルドに寄ったら騎士団長から手紙が届いていた。

 中身は第二王子からだったけど。

 内容は『パシアン姫に仕えたいという侍女候補を向かわせている。護衛も一緒だ。侍女は魔術の腕前がかなりのもので、複数人囲まれても撃退できる実力がある。護衛は騎士団には劣るかもしれないが、賊程度になら勝つ。歳も近いし、以前パシアンと遊んだことがあるということなので、貴殿も既知かもしれない』と書いてあった。

 最後の言葉で嫌~ぁな気がしていたのだが、二枚目に目を通した。

 そこには『侍女候補は、プリエ・ルミエール、護衛はイディオという』となっていた。


 王子~~~~!?


 アンタ、姫さまの婚約相手を、そして婚約破棄のいきさつを知らないのかよ!?

 ホンットに姫さまのことをかわいがっているの!?

 俺はすぐさま騎士団長経由、第二王子宛に手紙を出した。

 イディオは元公爵家の子息で姫さまの元婚約者。パーティ会場で姫さまに婚約破棄を告げた相手だと。プリエ・ルミエールはイディオが姫さまと婚約破棄をして再度婚約しようとしていた相手だと。

 そして、そんな幼く経験の無い二人をつけてくれと言ったのではなく、ちゃんと教育を完了して経験を積んだ侍女と護衛をつけてくれ、と頼んだのだと。

 手紙を書き終え、送って再度ため息をつく。

「……ホンットになんでなんだよ?」

 一人で愚痴ってしまった。


          *


 俺は、姫さまの指示でとある町へやってきた。

「ここにはどういう目的で来たんですか?」

 俺が尋ねると、姫さまが答える。

「確か、ここには錬金術師がいるはずなんだ」

 俺は声に出さずに驚いた。


 錬金術師。

 今だと回復薬やマギ・ルーロー(特定の魔術が一度だけ使える巻物型の使い捨て魔道具)を作っているが……かつては驚くようなものを産み出したと謂われている。

 そして、姫さまが『錬金術師がいる』と言ったということは、かつて勇者の供であり、勇者の武器を作ったかもしれない人間の子孫、ということだ。

「……それは、ぜひ勇者の供にスカウトしたいところですね」

『マトモな奴だったら』という但し書きはつくけどな。


 まずはギルドから。

 ギルドマスターを呼んで、最近の魔物の出没状況を尋ねる。

 いつもは姫さまがどっかに気を取られているか馬車で本を読んでいる間に話すんだけど、今回は姫さまが俺の服の裾をつかんで離さない。

 ギルドマスターが変なことを言いませんようにと祈っていると、

「〝光闇の剛剣〟じゃないか。冒険者に復活したのか? ちょうどいい、Aランクで滞っていた依頼があるんだ。引き受けてくれないか?」

 ……いきなりぶちかましてくれた。

 姫さまの、俺の服の裾を握る力が強くなった。

 そして、詰まったように声を出す。

「――な」

 その声で、姫さまの存在に気づいたギルドマスターが、

「ん? どうした嬢ちゃん」

 と、声をかける。

 内心大慌ての俺が声を出すより先に、姫さまが怒鳴った。

「なんだソレは!? アルジャンには、そんなカッコいい名前がついているのか!?」

 姫さまやめて。カッコよくない。むしろ痛々しい。

 若かりし頃に呼ばれて得意になっていたのを思い出すからよけいに心にくるものがある。

 ひそかに大ダメージを負っていると、ギルドマスターが追い打ちをかける。

「お、嬢ちゃんはアルジャンの連れか? そうなんだよ、コイツは冒険者の中でも頭一つ抜けて強いからなぁ。そういう奴にはカッコいい名前がつけられるんだよ」

 とか言ったけど、カッコよくない。

「…………若い頃はそんな二つ名をつけられて喜んでいたけどな、もういい歳なんだから普通に名前で呼んでほしいよ。というか、ツライ」

 血を吐くような思いで言った。


 姫さまがズルイズルイ私も二つ名つけられたいとか言いだしたので、

「俺の心の傷を抉るような真似をしないでください。そして姫さま……恐らく、そう遠くないうちに姫さまにもつけられるでしょう。が、あと十年か十五年くらい成長したとき、とてもツライ気持ちになりますよ」

 と真顔で諭したら、神妙な顔でうなずいてくれた。

「〝黒歴史〟」

「姫さま。このまま城に帰りますか?」

 姫さまのつぶやきを聞いた俺が切り返したら、姫さまはブンブン顔を横に振る。

 ギルドマスターにも変なあだ名で呼ぶのはやめてくれと頼んだ。


 俺は気を取り直して、ギルドマスターに錬金術師がいるかどうかを尋ねた。

「錬金術師……? あぁ、バジルのことか」

 ギルドマスター曰く、言われてもピンとこないくらいの変わり者の変わったモノばかり作る奴だそうだ。

 それは……。まぁいいんじゃないかな? 姫さまの持っている勇者グッズも変わったモノといえばそうだし。


 どこにいるのかを聞き出し、礼を言ってギルドを出ようとしたらギルドマスターに止められた。

「あ、待てって! Aランクの依頼をこなしてくれって!」

 やめて。姫さまが瞳を輝かせちゃったじゃないの。

「悪いな。俺、Aランクじゃないから」

 ギルドマスターにお断りを入れたら姫さまがふくれっ面をする。が、ダメですからね? 姫さまの任務は、魔王復活の調査とその昔勇者グッズを与えた勇者の供の子孫のその後の調査でしょ?

「ブランクで降格したのか。とはいえ、もう慣らしは終えただろう? 俺が戻しておいてやるから、カードを貸せ」

 やめて。望んでないから。

「……アルジャン! お前、Aランクなのか!?」

 あぁ~……。姫さまが気づいちゃったよ。

「…………騎士団に入団できるくらいの実力、ってことですよ、姫さま」

 姫さまに笑顔で諭したが、ズルイズルイが始まった。

「なんで黙っていたんだ!?」

「冒険者は仮の姿、私は今でも騎士だからです。――いいですか姫さま。私は姫さまの護衛、護衛騎士なんですよ、お分かりいただけますか?」

 俺が笑顔で迫ると、姫さまはむぅとむくれつつもうなずいた。

「…………うむ」

「姫さまが冒険者をやってみたいというから私も仮初めで復帰していますが、別にランクなんて最低でもいいのです。私は騎士ですから。――それに姫さま。本当に冒険者をやるのであれば、ちゃあんと最低ランクからコツコツ上げてください。私だって冒険者を始めたばかりの頃は最低ランクだったんですよ? 経験と実績を積み重ねて、騎士団に入団できるほどの実力をつけたのです、わかりますか?」

「…………わかった」

 むっすー! と膨れながらも訥々と諭した俺の言葉にうなずく姫さま。

 やれやれ。たまに聡いと思うことはあるけれど、こういうところはまだまだ子どもだよな。

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