第41話 プリエ・ルミエールの旅~ジャステ伯爵領編7
……というわけにはいかなかった。
今度はクソ野郎もといジャステ伯爵のバカボンボンがいちゃもんをつけてきたのよ!
「お前が父上を犯罪者に仕立てあげたんだな!? この悪女め!」
って、私に言ってるのよ?
思いっきり見下したような目で見てやったら、ビビって泣きそうになっているわ。
イディオも呆れている。
「……ジョセフ・ジャステ様。現場にはプリエ様だけでなく私もいたのですよ。わかっていますか?」
バカボンボンは、ハッとしたようにイディオを見て、ばつが悪そうに顔を逸らせた。
「……この女が、第二王子と騎士団を誑かして……そうか! お前も誑かされたんだな!?」
「私は貴方の家の私兵に殺されかけました」
バカボンボンが途中で思いついたように元気に言ったが、イディオがバッサリと斬った。
再び黙るバカボンボン。
「イディオ、行きましょう。ここで足止めをくらっていたからますます姫さまから離れるわ」
私はもう会話すらしたくないし、コイツがどれだけ騒ごうとも私のせいにしようともジャステ伯爵の処分は変わらない。
「……そうだな。それが使命だ」
私がイディオを促して歩き出すと、バカボンボンが叫んだ。
「な、なんだよ!? ……お前まで俺を無視するな!!」
とか言って追いかけてきたので、くるりと振り向き、私は追いかけてきた奴の真っ正面に立って言い放った。
「私、アンタのこと、大ッ嫌い」
中指を立てて奴の眼前に突き出す。
「二度と話しかけないでくれる? アンタと会話するくらいなら、ゴブリンと会話する方が断ッ然マシよ。このクソ野郎」
両手で中指を立てた後、踵を返して憤然と歩き去った。
イディオは、立ち尽くしているバカボンボンの肩をポンポンと慰めるように叩いていたようだった。
馬車に向かうと、相変わらず馬に興奮しながら世話をしているアダンがいた。変態っぽさ全開だけど今はなんだか癒やされるわー。
私たちに気づいたアダンがこちらを向き……
「ひぇえ! すみませんお許しください!」
とか言って頭を抱えたわよ。
「何をしでかしたのよ?」
私が尋ねると、
「わかりません!」
って答えるアダン。意味不明。
「じゃあ、なんで謝ったのよ?」
私が尋ねたら、アダンが恐る恐る顔を上げて私を見た。
「プリエ様が、まるでオーガのような顔で私に向かってきたので、何か恐ろしい罰でも与えられるのかと……」
「アンタの今のその発言に罰を与えたいんだけど?」
花も恥じらう乙女に向かってなんってことを言うのよ!?
怒りながら馬車に乗り込んで、イディオがモタモタして乗ってこないのにさらに怒りを煽られた。
「ちょっと! 早く乗りなさいよ! こんなクソ伯爵領はとっとと出て、姫さまを追っかけないとなんだから! モタモタしていると置いていくわよ!」
と、怒鳴ったら、イディオが私を見てキッパリと言った。
「置いていってくれ」
は?
目が点になる私に、イディオが言った。
「……勅令を無視するわけではないが、どうしても寄らなければならないところができてしまった。そこでの用事が済み次第、追いかける。……申し訳ないとは思っている。だが、プリエが人並み以上に身を守れることは今回の件で分かったので、道中を私が守らなくても大丈夫だろう。……わがままを言って済まないが……どうしても行きたいのだ」
イディオはいつになく真剣な顔で言った。
「……そんなんじゃ納得出来ないでしょうが。ちゃんと説明しなさいよ。アンタの行方を聞かれたら私が困るの、わかるでしょ?」
そう私が言うと、イディオは逡巡したが答えた。
「……私に冒険者の手ほどきをしてくれた先輩が、先にこの領に来ていたらしい。そのとき連中に捕まった。罪状は、『無辜の領民を傷つけた』となっているが、そんな人じゃない」
「……その人に会いに行く、ってこと? でも、どうせ冤罪なんでしょ? なら、アンタが行かなくたってそのうち釈放されるし、逆にギルドから不当逮捕を訴えられるんじゃない?」
私がそう反論すると、イディオがうなずいた。
「それだ。収監された場所は、この町にある牢獄じゃない。ギルドの手が及ばない場所にしているんだ。冒険者が不当逮捕を訴えないようにな。……そこの連中が、不当逮捕を訴えられるとわかって、冤罪だからとおとなしく冒険者を解放すると思うか? 私にはそうは思えない」
イディオの推測に、非常に不本意ながら私も同意する。
なんなら殺して、不慮の事故とか言いそう。そうすれば訴えられないからね。
私は大きなため息をついた。
イディオは申し訳なさそうな顔で私に頭を下げた。……コイツが頭を下げるなんて、初めてじゃない?
「本当にすまないと思っている。だが、私にとって恩人なのだ」
私は手をひらひらと振った。
「わかったから。別に、反対してもいないし呆れてもいないわよ。……とにかく、話は馬車に乗ってから!」
イディオが怪訝な顔をした。
「いや、だから私は……」
「そんな緊急性が問われるのに、徒歩で行ったってしょうがないでしょ? どうせ今の今まで足止めをくらっていて、姫さまにはそうそう追いつけないわよ。なら、さらに寄り道したってかまわないでしょ」
私がそう言ったらイディオが目を見開いた。
私は人さし指を立ててさらに付け加える。
「貸しだから! 私を巻き込んで婚約破棄したことを反省しつつ、私に感謝しなさいよね! 言っとくけど、まだ許してないから! 私は裕福な商人の息子か手堅い商売をしている男爵家の次男坊を捕まえるかって思ってあの学園に行ったのにすぐ退学させられて、しかもアンタがつきまとったせいで変な魔術に目覚めちゃって今ココなんだからね! だから、私の婚活を助けなさいよ、今言った条件で良い人がいたら紹介して!」
イディオが目を細めて呆れた顔で私を見たが、すぐに頭を下げた。
「感謝する! ……ではさっそく向かおう!」
頭を上げると馬車に飛び乗った。
アダンは私とイディオの成り行きを黙って見ていたが、
「えーと、じゃあ、どこへ向かいますか?」
と尋ねた。
「分かれ道をまっすぐではなく北へ向かってくれ」
イディオが指示すると、アダンはうなずき、馬車を走らせた。
第二王子、ごめんなさい。ちょっとだけ寄り道します。
姫さまは全くもって待っていないだろうけど……ちょっと待っててね!
※辺境伯夫人は、プリエ一行が来るまでの間に去っています。
もちろん一悶着ありました!
(閑話として書きましたが、人によっては嫌な気持ちになる方もいるかなと思い、限定記事にて公開しました)
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