第40話 プリエ・ルミエールの旅~ジャステ伯爵領編6
ようやく調査が終わり、ジョセフ伯爵領の調査結果を教えてもらった。
どうやらジョセフ伯爵当主は首謀者ではなかったらしい。だけど、公平に欠ける裁判、ずさんな調査が横行し、それらで犯罪者を囲うような結果になっていたとのこと。
こんな領で税金がとれるの? って思ったんだけど、やっぱり火の車だったらしい。一部の者だけ贅沢三昧、それのしわ寄せを他の善良な民が喰らっていたようだ。
「……そんなんで、維持出来るの……? 貧乏貴族が聞いたら『ふざけんな!』って怒鳴りたくなるんですけど?」
この屋敷だってうちとは比べものにならないくらい豪華だし、ジョセフ伯爵もそのクソ息子も豪華な衣装を着ていた。
「どういうことよ!?」
「落ち着け。人を見る目は節穴だが、伯爵本人の経営は堅実だからだ。あと、執事がこの上なく優秀だな」
この地でしか採れない作物があって、それを領外の大きな商会に卸しているそうだ。そちらの儲けで伯爵家は維持しているらしい。キーッ!
だけど、今回のことはジョセフ伯爵の領地経営の腕を問われることになるので恐らく彼自身は爵位剥奪になり、その息子も統治能力が無いと見られればジョセフ伯爵家は取り潰しになるだろうとのこと。
私とイディオには慰謝料が支払われることになった。
あと、直接攻撃してきた者、追いかけ回した者は問答無用で魔物討伐の最前線に送られるそうだ。武器は支給されず食料の分配もない、完全なる自給自足でね。
「犯罪者をわざわざ処刑する時間と手間をかける暇など、わが国にはない」
ってことでした。
罠に嵌められたりえん罪に巻き込まれたりで処罰された人はわんさかいるんだけど、その被害者が冒険者にも及んでいるということで、第二王子は頭を抱えていた。
騎士団だけでは魔物討伐が追いつかない。だから、わが国はギルドの誘致に積極的だし、高レベルの冒険者は貴族に多少失礼な態度をとっても許されることになっている。
そして、冒険者が犯罪に巻き込まれた場合はその領の官憲だけでなくギルドも独自に調査して証人を集め裁判を行う。
なのに、ジャステ伯爵はギルドに話を通さず一方的に冒険者を悪と決めつけ犯罪者にしてしまったらしい。
第二王子がジャステ伯爵に怒鳴っていた。
「貴様はわが国の貴族という自覚があるのか!? 魔物討伐には冒険者の存在は欠かせない。この国を支える重要な者たちなのだ! 彼らに不当な扱いを行った結果、ギルドがわが国を危険視してギルドが総撤退したらどうなると思う!? 貴様と貴様の領民だけで、わが国のすべての魔物を討伐してまわるとでも言うのか!?」
ジャステ伯爵は黙った。だが、顔にはありありと『不満』って書いてあるわね。
「どうやら王家の意見に不満なようだな? どんな弁解をするのか聞いてやろう」
第二王子が怒りを抑えて言うと、ジャステ伯爵も怒りを隠しつつ言った。
「……冒険者なる得体の知れないならず者と、そのならず者の総元締めの調査など捏造されているに決まっています。私は正義を行うために……」
「ならず者の総元締めはアンタでしょ?」
思わずツッコんだら、思いっきり怒鳴られた。
「たかが男爵家の娘が偉そうな口をきくな!」
「残念だが、彼女は稀少な魔術の持ち主で私のかわいい妹の侍女候補だ。独断で我が国を滅ぼしにかかっている貴様よりも、よほど価値のある人間だな」
第二王子が即座にかばってくれた。へへーんだ!
調子に乗った私はさらに続ける。
「町はならず者と働かないろくでなしで溢れかえっていて、善良な民は迷惑を被りどんどん領外へ流出している。それでも領を愛する民がしわ寄せをくらってもがんばって働いていて、でもそんな民をないがしろにしてならず者とろくでなしが言う心地よい言葉だけを聞いてご満悦になってる。――うちなんて、より良い領にして領民にいてもらおうと有り金のほとんどを使って必死に修繕や改革をしているのに、アンタは一部の特権を貪るろくでなしたちの言うなりで、それでもこーんな立派なお屋敷に住んでお高そうな服を着ている。こんな不公平があっていいと思う?」
「おい、論点がずれているぞ」
イディオにツッコまれたわ。しまった、つい愚痴が。
私は咳払いをしてごまかした。
「……町や村を見回りましたが、働かない人たちが昼間から酒を飲んで騒いでいました。物価はあり得ないほど高いし品質は良くないし、そもそも多くの店が閉まっています。町から外れた農家に頼んで売ってもらえましたが、そこのおかみさんは現状を嘆いていました。お屋敷のあるこの町は、入ってすぐに、明らかに私たちを獲物を見るような目で見つめる不審者ばかりで、馬車から降りず通り抜けようとしましたが、それに気づいた連中に追いかけまくられ、ついには私兵が出てきて町から出るのを止めてきました。……彼ら、私が身分を明かしたら『殺しても領主サマがどうにでも握りつぶすだろ』って言ってましたけど?」
私が述べたらジャステ伯爵が鼻で笑い飛ばした。
「……フン。お前が言っていることが正しいわけがない。彼らは――」
「そう! その発言。今言った言葉が私の発言を裏付けたということ、理解しています?」
私はジャステ伯爵の言葉を遮って言った。
「私は貴族ですよ? なのに平民の言葉を信じ、貴族の言葉を疑うのって
私が見据えて言ったら、ジャステ伯爵は衝撃を受けたように口を開けて止まった。
そんなジャステ伯爵を見て、第二王子がフッと笑った。
「私も貴殿の発言をしかと聞いたぞ。墓穴を掘ったな、ジャステ伯爵。――貴殿は領内で犯罪行為を行っていた者たちの幇助をしていた。プリエ・ルミエール男爵令嬢は公正だし、元より他の被害者からも訴えがある。貴殿が冒険者や騎士団をいくら下に見ようとも、事実は覆らない。わが国にとっては、貴殿よりも冒険者の方が優遇すべき人材だということもな!」
第二王子の念押しのトドメに、ジャステ伯爵は打ちひしがれたようにうなだれた。
というわけで、ジャステ伯爵は連行された。
イディオは第二王子とともに冒険者の被害者名簿を見て深刻な顔をしている。どうやら有名な冒険者も被害に遭っているらしいのよ。
……まぁね、この国から冒険者ギルドがなくなったら確かにヤバいわよね。末端貴族の私にだって冒険者の大切さはわかるわよ。あんな不安定で危険な職業をやってみようなんて思う姫さまって、ホントどうかしてるって思うくらいに。
まぁいいわ。それはさておき、これで一件落着! じゃあ姫さまを追いかけるぞー!
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