第39話 プリエ・ルミエールの旅~ジャステ伯爵領編5
その後、第二王子率いる本隊がやってきた!
第二王子を初めて間近で見た私は仰天してしまった。
ひぇえ……こう言っては怒られるけど、姫さまとは大違いの、王子様オーラの出ている礼儀正しくカッコいい方だわ。
私を気遣う言葉も優しく思いやり溢れている。やっぱり騎士団の方はイイ! 底辺オブ底辺の、貧乏男爵家の私に優しい言葉をかけてくれるのなんて騎士団の方くらいだもんなぁ。
……と、私がホワーンとしている間も事情聴取はサクサクと行われる。
「こんなに可憐な令嬢なのに、素晴らしい魔術の遣い手なのですね。……団員から聞きましたが、パシアン……妹の侍女候補だとか」
優しく問いかけられた私は思いきりうなずいた。
「姫さまとは、イディオ……様に連れてこられた離宮で知り合いました。姫さまは、私をイディオ……様の子分と思われたようです。実際のところ、そのようなものだったのですけれど……。姫さまの遊び相手を務めたことと、稀少魔術の遣い手だと判明したところで、姫さまの護衛と侍女を勤めるよう、王命が下りました」
粛々と返事をすると、第二王子がうなずいた。
「……そうか。確かにその魔術は有用だ。護衛騎士に護衛の心得のある侍女をパシアンに遣わせるように再三頼まれていたが、すでに陛下が手を打ってくれていたのか」
そう言うと、私の肩を叩き、
「妹をよろしく頼む」
と言われたわ!
「はい! お任せくださいませ!」
私は元気よく答えてしまった。
――はっ! しまった!
つい、イケメン王子様の優しい言葉に乗せられた!
……ってちょっと思ったけれど、まぁでも点数稼ぎして給料アップを狙いたいし。どっちみち仕えなきゃいけないんだから心証は良くしておきたいわよね!
横でイディオがジト目で私を見ているけれど、無視よ、無視!
第二王子は、姫さまに婚約破棄を告げたイディオに当たりが超キツかったけれど、イディオが、
「――パシアン姫は婚約者を求めていたのではなく、一緒に旅立つ供を求めていた、そのために私やプリエを
と沈痛に訴えると、第二王子が「あのような?」とつぶやき首をかしげつつ、それ以上言及しなかった。なんとなく察てくれたようだ。
事情聴取が進む中、町民という名の賊はどんどん捕まっている。
連中は「俺は知らない」「領主様と話をさせろ」「領主様ならわかってくれる」「これは犯罪じゃない」と口々に言い、最終的には「この領では何をしても許される」「悪いのは俺以外」「領主様は俺の言うことを何でも信じてくれる」とか言い始めた。
ジャステ伯爵の顔色は真っ白だ。
「……そんなバカな。領民が、私に嘘をついていただと……? 私兵たちもなのか? なぜだ?」
とか、トンチキなことをつぶやいている。
第二王子は深いため息をついた。
「……ジャステ伯爵。貴方には領ぐるみで行われた犯罪容疑がかかっている。王都へ連行し、審議をしたのち沙汰を言い渡す。奥方は……そうそう、離婚してここにはもういないのだったな。失念するところだった。では、伯爵の子息が代理当主となるのか。あとで話すとしよう」
ジャステ伯爵は何か言いかけ、でも諦めたようにガクリとうなだれた。もともと老けた感じの人だったけど、ここ最近はどんどん老け度が進んでいて、目の下にくま、頰がこけて肌はカサカサ、おじいちゃんみたいな容貌になっていた。
ジャステ伯爵の子息ジョセフ・ジャステ伯爵令息は、ひと言で言うとイディオとはベクトルが違うけど、輪をかけてひどかった。
イディオは『自分サイコー! 自分エライ!』って奴で、テキトーにおだて上げればおごってくれたりしたけれど、ジョセフ・ジャステ伯爵令息は『自分がジャスティス! 自分がルールブック!』って考えの持ち主で、どんな証拠があろうとも自分の意見と食い違えば相手が間違っていると言い張るとんでもない奴だったのだ。
そして、誰がどう言おうと私が悪者になっていた。しかも初対面からね! なんでだよ!?
私は会いたくなかったんだけど向こうが「会わせろ」としつこく騎士団の方や第二王子に迫っていて迷惑をかけていると聞いたので、しかたなく会ったワケよ。
ジョセフ・ジャステ伯爵令息、初対面の私を見るなり顔を真っ赤にして私を指さし、
「……お、お前が伯爵家を陥れたんだな! 男を惑わす悪女め!」
とか言いだしたのよ。アタマ沸いてんの?
スーンとした顔でジョセフ・ジャステ伯爵令息をねめつけたら、イディオが横でため息をついた。
顔を見せるな! とか怒鳴ってきたわりにちょこちょこと姿を現し、さらに「男を侍らせている」とか意味わかんないことを言うのでマジキレそうなんですけど。
私はやさぐれるあまり、イディオに愚痴ってしまった。
「ちょっと、アイツなんなの? マジムカつくんですけどー?」
「落ち着け。そしてその口調をなんとかしろ。お前は仮にも貴族で次期男爵家当主なのだろうが」
落ち着けるか!
「私の口調よりもアイツのアタマのほうが悪いわよ。早くここを出たいわ」
イディオが「同感だ」と、深く頷いた。
あまりにアイツの態度が酷いので、最近は現れたら露骨に顔をしかめて無視している。なんなら逃げる。
第二王子は優しく紳士な方なので、防波堤にすらならないイディオなんかよりも頼らせていただいてます!
さすがにあのクソ野郎も第二王子の前で失礼な態度をとることはないので、私は第二王子の侍女のごとくまとわりついて世話を焼いた。なんならヨイショした。おべっかは私の特技です!
おかげで第二王子は私のことを気に入ってくれて、「君にならパシアンを任せられる」って言ってもらえたわ!
「えぇ! 〝侍女として〟お任せください!」
だから遊び相手はかんべんね!
イディオは呆れている。
「……お前って、本ッ当に権力者に媚びへつらうのが上手いな」
「貧乏貴族の必須技能よ。貴族の名前を全部覚えるより有用でしょう?」
得意げに言ったらますます呆れられたんですけど。
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