第38話 プリエ・ルミエールの旅~ジャステ伯爵領編4

 馬に乗って現れたうちの一人は、どう見ても貴族。

 その貴族は私とイディオを厳しい顔で見つめながら抜刀しかけ……イディオを二度見した。

「君は……」

「お久しぶりです、ジャステ伯爵。前回のパーティ以来でしょうか」

 イディオが優雅に挨拶した、が、剣は構えたままだった。

「……いったい何があったのだ。我が私兵を襲うなど……しかも、私に剣を向けるとは。これは、グラン公爵家に抗議すべき暴挙だぞ」

 とかジャステ伯爵が言い出したので、思いきり声を荒げてしまった。

「はァあ!?」

 ジャステ伯爵が思いっきり睨んできたけど、こっちも睨み返したわよ! 王家の威を借る私をナメんな!

「いったい私とイディオがどのような理由で戦ったと思っているのですか!? それとも、もっともらしい理由を挙げて私とイディオを始末し小銭を得るのが目的なんでしょうか!?」

「なんだと!? ――どこの家の者か分からぬが、過ぎた口を叩くのならば相応の報いを受けるぞ!」

 ジャステ伯爵が本性を現したわ。

「迂闊に自白したわね」

 私がせせら笑うと、ジャステ伯爵はいぶかしむような顔をした。

「……自白?」

「つまり、コイツらの黒幕はアンタってことよ! 王家に訴えてやるわ! 残念ながら男爵令嬢は仮の姿、その実態は王家の隠密なんだから!」

 いや違うけどね。でも、伝手はあるし騎士団ならコレは見過ごせないでしょ。

 私とイディオが姫さまを追いかけているのは本当だし、どう考えても私たちが私兵に襲われるのはおかしいもんね。

 アダンが無事ギルドへ着いて訴えられるのかは分からないけれど、私の結界魔術があればイディオと組んでコイツらを蹴散らし逃げ切って、騎士団を呼びよせられる可能性は大!


 ジャステ伯爵は『王家』という言葉に過剰に反応した。それこそ飛び上がりそうになって、私を『信じられない』って顔で見ている。

 成り行きを見守っていたイディオがハァ、とため息をついた。

「……パーティでは私が失態を犯したが、プリエは無関係で、パシアン姫の侍女候補だ。今は事情があり……」

 ここまで言うと、イディオはジャステ伯爵の反応をいぶかしみ、首をかしげる。

「……? もしや、パシアン姫はここを訪れた際、ジャステ伯爵に面会したのですか?」

 イディオが姫さまの名前を出すとまた過剰に反応するジャステ伯爵。……ちょっと、コイツもしかして姫さまを手にかけてないわよね!?

「アンタ……まさか、姫さまを亡き者にしたの!?」

 私の言葉を聞いた全員が一斉にジャステ伯爵を見た。

 ジャステ伯爵は今度こそ飛び上がって反論した。

「バカなことを言うな! 王族を手にかけるなど、そんな真似をする貴族などいるわけがないだろう!? 私の息子が賊に襲われていたのを助太刀してくださり、屋敷に立ち寄って…………ちょっとした揉め事を起こされたのだ」

「「揉め事」」

 イディオと声をそろえてしまった。わかりみが深すぎる。


 私兵たちは、徐々に『まずいことになってきた』という顔をし始めた。連中、ようやく私とイディオが『手を出したらまずかった人たち』ってことに気がついたみたいだけど、もう遅いわよ。

 私は腕を組むと、再びジャステ伯爵を睨む。

「私とイディオはパシアン姫を追っています。私は姫さまの護衛兼侍女として、イディオは護衛として。ちなみに王命です。――で。とーぉっても治安の悪い町がありまして、長居は無用と馬を走らせていたら案の定、職業〝賊〟の町民に追いかけられ、職業〝賊〟の私兵に囲まれ戦闘になりました。――その者たち曰く、『私たちを殺しても領主様が揉み消してくれる』そうなんですが……賊の元締めのジャステ伯爵、いかに弁解をされますか?」

「ハァ!?」

 ジャステ伯爵が再び飛び上がって驚いた後、激昂した。

「ふざけるな! 正義を貫くジャステ伯爵家の当主、メールド・ジャステを、よりにもよって賊の元締めだと!? 訂正しろ!」

 詰め寄ってこようとしたところを、イディオが私を後ろ手にし庇い、ジャステ伯爵に剣を向けた。

「それは、脅しでしょうか? 私たちは事実を述べているだけです。事実を曲げて発言しろとおっしゃることが、貴方の言う『正義』なのでしょうか?」

 ジャステ伯爵がぐっと詰まった。

 そして、私兵たちを見渡すと、私兵たちは視線を逸らせ、気まずそうな顔をした。

 ジャステ伯爵は、呆然とした雰囲気でつぶやいた。

「…………私は、ただ、正義を行っただけなのだ」

「何言ってんの?」

 思わずツッコんでしまったわー。

「旅人を襲わせて揉み消すのが正義だとは知りませんでした。騎士団に問い合わせてみますね!」

 私は額に青筋を立てながら、ニッコリ笑顔でジャステ伯爵に尋ねた。


 さてどうしようか……と悩んでいたら、なんと! 騎士団がやってきた!! なんてラッキーな!!

 騎士団に取り囲まれて、アダンと馬車も戻ってきていた。

 再会したアダンが話すところによると、私兵に追いかけられつつも馬車を走らせていたところ、とある理由で近くまで来ていた騎士団が発見。無事、保護されて一緒にくることになったらしい。

 アダンを追いかけていた私兵たちは嘘八百を並べてこちらを悪者に仕立てあげようとしたらしいけど、騎士団には通じなかった。でもって騎士団を襲おうとして返り討ちにされたという。


 到着した騎士団は、テキパキと処理を進めていった。

 簡単に言うと、私兵をまず拘束。

 いったん町の門を閉め、出入り出来なくし、残党を狩り出す。

 伯爵と私たちに事情聴取をするべく屋敷に向かう、までをスムーズに行ったのだった。

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