第35話 プリエ・ルミエールの旅~ジャステ伯爵領編1
ごきげんよう、プリエです。馬車をゲットした私は付属物たちと一緒に姫さまを追いかけています。
付属物その一は自称護衛のイディオで、増えた付属物その二は見た目だけ美形の馭者、アダン。
アダン、今のところは問題なく馬車を走らせている。
最初は自分で馬車を動かすことが出来るようになったらクビにしようと思ったんだけど、私は習得できなかった。意思疎通が出来なくて動いてくれない。イディオは習得できたのに!
元公爵家のお坊ちゃま、もともと馬には乗れたから、馬車の操作も覚えられたらしいのよ。ケッ!
ただ、馬が一番懐いているのは私だけどネ!
コッソリと馬に回復魔法をかけているので、馬がとっても喜んでいる。疲れたり靴擦れしたりするのが良くなるくらいの微量回復だけれど、あるとないとじゃ大違い。この回復魔法があったからこそ歩きっぱなしの旅でも弱音を吐かずにいられたってものよ!
なので、回復魔法をまったくかけていないイディオが音を上げないのがむしろビックリだった。
この、ほんのちょっぴり回復魔法は優れもの。疲労回復と多少の擦り傷や痛み筋肉痛なんかは治るけど、さほど魔力を使わない。なので定期的にかけられる。そして魔法訓練になるし定期的に魔力を消費する訓練にもなるので魔力が上がってきている。
……って話が逸れたけど、とにかく馬には私の味方になってもらって、何かがおきたら私と一緒に逃げてもらう予定だから! 今は言うこと聞いてくれないけど!
ただ、イディオも私も馬のメンテナンスはともかく馬車のメンテナンスがわからない。調子が悪くなったら修理に出せばいいけど、走らせている途中で故障とかされると立ち往生してしまう。
アダンは言動がキモいけど腕は確かだし、我ながら酷いなって思う雇用条件を呑んでくれているからこのままいてもらおうと考えている。
……実は、隣町で密かにギルドに馭者の打診をしたんだけどね……。条件に合う人がいなかった。途中の町までなら……という人ばかり。
なので諦めた、っていうのもある。
現在は、ジャステ伯爵領を通っている。
「ジャステ伯爵か……。確か、ジョゼフ・ジャステ伯爵令息がいたな」
イディオが思い出したようにポツリとつぶやいた。
「へ? 友達なの?」
コイツ、絶対ボッチだと思ってた!
思わず私が尋ねたら、イディオが私を残念な子を見るような目で見てきたぞ。イディオのくせに生意気な!
「……上位貴族ならば、中位までの貴族の名は覚えているものだ。まさか、下位貴族の者は上位貴族の名すら覚えていないとは思わなかったが」
「そんなん覚えるよりは、一番安い店の名前を覚えた方が役に立つのよ下位貴族は!」
私が噛みつくとイディオは黙った。そして咳払いする。
「……まぁいい。友人ではないが、何かのパーティで挨拶くらいはしたことがある。私より二つか三つくらい下だったはずだ」
ふーん。
だから何? って話だけどね。
「少々変わった男で、やたらと自分の型にはめたがっている上に、誰かを悪者にせねば気が済まないような性格だったな」
「うわ、アンタとソックリ。さぞかし気が合ったでしょうね」
思わずツッコんだら、イディオが嫌ぁな顔をして私を見た。そしてまた咳払い。
「……なんというか……母親の悪口を言ってばかりいた。あの頃はわからなかったが、あれは一種の愛情の裏返しなのかもしれないと、今は思う」
何を言っているんだろう? と私は首をかしげる。
「そういう愛情表現もあるのだ、と私は教わったのだ。真似したいとは思わんが」
そう言って、遠い目をした。何をかっこつけてるんだか。私は肩をすくめて無視をすることにした。
最初の町へ入ったたんだけど……私は今まで通ってきた町との差異を強く感じた。イディオもそう思ったようで、微妙な顔をしている。
一言で表すと『活気がない』のよ。町自体は立派なんだけど……。
うちの領民はここよりも貧乏だと思うけど、もっと商魂たくましい感じよ? なんか、道行く人たちに、やる気がない雰囲気を強く感じる。
着いたのは昼なのに、出歩いている人は少なく、閉まっている店が多い。
町全体が埃っぽくてくすんでいる。にぎやかなのが酒場で、昼から飲んだくれている人が多い。
「…………うちの領民はこんなじゃないぞ」
「奇遇ね、私も『うちの万年貧乏領ですらこんなじゃない』って思ったわ」
イディオと感想を言い合った。
この町のやる気のない領民に呆れていると、アダンが困った声で言ってきた。
「……雇い主様ぁ。これじゃ、この子たちのごはんが仕入れられるかわかりません……」
私はイディオと顔を見合わせた。それが一番困る事態かもしれない。
(アダンに強く主張されたので)飼料は一応買ってあるのだけど、次の目的地まで保つかわからない。
というか、ここだけがこんな感じなのか領全体がこんな感じなのか……。領全体だとすると、早いところこの領を抜けないと馬が餓死してしまうわ。いや、平原に行って放牧して野草を食べさせれば餓死はしないだろうが、アダン曰く馬用の飼料や野菜も大事なんだそうだ。
私とイディオは町を回り、他の町より数倍くらい高い値が付いている食料をガンガン値切って(それでも高い)買い、次の町へ移った。
※姫さまとアルジャンが町の様子に気がつかなかったのは、貴族の視点で見てはないからです。姫さまはあくまでも魔王が復活した場合の布石を打つための旅で、アルジャンは町の様子がどんなであろうと姫さまを守るのが使命だから、あと、冒険者のときそこそこ旅をしていたのでいろいろな町があると知っているからです。
イディオとプリエは自領内と王都しか知らないので、それらからはみ出た町にいぶかしみました。
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