第32話 護衛騎士、王子と話し合う①
第二王子が護衛騎士に支えられて身体を起こした。――姫さまの防護の術、もしかしなくてもハンパない威力なんじゃないか? さすが勇者グッズ。第二王子の容態から見てとると恐らく、弾くとともに麻痺と気絶の効果が入っていると感じる。
第二王子はあんな目に遭わされたというのに、姫さまに笑顔を向け語りかける。
「……パシアンが、冒険者の真似事をすると出て行ったと聞いて、胸がつぶれるかと思ったぞ」
「だいじょーぶだよ! アルジャンはうーんと強いんだから! 姫も強いんだぞ!」
と、かわいく胸を張る姫さま。
……もしやその〝姫〟って自分のコト? いつも『私』って言ってるよね?
きっと俺はすごい顔をして姫さまを見ていたのだろう、姫さまが俺をジロリとにらんだ。
「公私は使い分けるのが王族であり貴族だぞ」
とごもっともな意見を言われた。
俺は姫さまから顔を逸らし、キリッと引き締めて正面を向く。
姫さまはまた第二王子にかわいい口調と大げさな身振り手振りで話す。
「さっきだって、デッカいアリンコを退治したんだよー!」
「パシアン! そんな危ないことをしちゃダメじゃないか! かわいいお前に傷がついたらどうするんだ?」
――その前に、すでに離宮で傷だらけの泥んこになって遊び倒していましたが、何か?
と、第二王子の言葉に思わずツッコみそうになったが必死に呑み込む。
…………いや、思った以上というよりも想像すらしたこともないほどに兄妹仲がいいのは結構なことだ、うん。ただ、こんなにかわいがっているのなら、なんで冷遇していたんだろう。あと、そんなに心配するなら護衛騎士を増やしてください。お供もイディオ様じゃなくて、ちゃんと訓練をした者をつけてくださいよ!
二人の会話を聞きながら、直訴しようと決意した俺だった。
俺は姫さまの話に付け加えるように、とある魔導具を用いて巣穴にいるドミナシオンフォルミおよびジェアンフォルミを姫さまが退治したことを報告する。その魔導具の影響で、現在巣穴およびその付近は危険な毒がまん延しているので近寄らないように指示してほしいとも伝えた。
「ジルベール王子殿下がお休みの間に、副隊長には伝えておきました」
「……そうか、ご苦労だったアルジャン」
「はっ!」
俺は一礼する。第二王子は護衛騎士に指示を出し、森の奥には行かないようにと、念のため顔に布を巻き解毒剤を携帯しておくようにとも指示を出した。さすが、指示が的確だ。
第二王子が指示を出し終え、体調が戻ってきたことを見てとった俺は、姫さまと第二王子に内密に話がしたい旨を告げる。
「姫さまを、ジルベール王子殿下の護衛騎士に預けてもよろしいでしょうか?」
――正直、姫さま一人でいたほうが安全な気はするが、体裁としてはそうはいかないだろう。
「姫さま、話が終わりましたら迎えに行きますので、おとなしくしていてくださいね? 本でも読んでいてください」
「うむ!」
あぁ……。かわいいバージョンの姫さまはもう終わりか。おっさん返事をした姫さまに、内心ガッカリした。
天幕の入り口は開けておいて、私と第二王子の動きは見えるようにしておいた。
内密とはいえ、俺自体は聞かれてまずい話じゃない。
「ジルベール王子殿下は、姫さまもしくは陛下から何か姫さまのことについてお聞きしていませんでしょうか? いえ、内容は話されなくてけっこうなのですが」
俺が訪ねたとたん、第二王子が俺を鋭い目で見たが、俺はその視線を気にせず、さらに続けた。
「……姫さまはのんきに構えているのですが……。姫さまからうかがった話から判断すると、あまりのんきに構えてはいられない状況かと愚考いたしまして、姫さまの供はイディオ様のような学園に通い学んでいる最中の方ではなく、ある程度魔物討伐の経験のある者を加えていただきたいとジルベール王子殿下に願い出た次第です」
俺の言葉を聞いて、俺を鋭く見つめていた第二王子が視線を落とし、ハァ、とため息をついた。
「……そうか。パシアンが話したのか。私も父上から聞いて嘘だと思ったのだが……。それならば、宝物庫の話を聞いたのか?」
「勇者の剣を姫さまから賜りました」
それを聞いた第二王子が肩を落とした。
「……あぁ、お前は〝勇者の供〟なのか。騎士団長からも信を得ている〝光闇の剛剣〟だったな」
やめて! 変なあだ名で呼ばないで。直訴した嫌がらせかな?
私は咳払いをすると再度願い出た。
「いくら騎士団長からの推薦があったとしても、供が私一人とは、姫さまの真の立場としても王族としてもあり得ない状況です。第二王子の口利きで、腕が立ち信用における騎士団員を融通していただけないでしょうか」
「…………」
なぜか、第二王子が黙ってしまった。
え? さっきまであんなにかわいがっていたのに、アレって演技だったの?
「……私はそもそも、パシアンが冒険者の真似事をすること自体が反対なのだ」
ボソリと第二王子がつぶやいた。
「別に、誰かと婚姻を結ばずとも、ずっと離宮にいればよい。なんなら私がパシアンの面倒をみよう。妻も義両親も人柄が良く、婚約破棄された幼い姫を領地でひきとり育てても良いと言ってくれている」
第二王子の発言を聞き、俺は考えた。むしろ姫さまとずっと一緒にいたいから供をつけないつもりなのか、と。姫さまの役割を考えればそれは難しいと分かっているはずなのに……。
それに、だ。そんなにかわいがっているのなら、今までの姫さまへの仕打ちはなんなんだ?
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