第29話 姫さま、アルジャンに守りのグッズを紹介する

 そんなやりとりを経て強引にテキトーな依頼を出してもらい、姫さまがそれを喜んで受注し今に至る。

 腰に手を当てフンス、と意気込んでいる姫さま。あんまり派手に暴れないでくださいよ……。

「さて姫さま。まずはどうされますか?」

 変なことをやらかさないよう、まず動向を尋ねた。

「もちろん調査だ! 大量に湧いているというところに向かうぞ!」

 ……いきなりやらかしそう。

「その前に、大量の魔物から身を守る武具を教えていただけませんか? その効果のほども。魔物の脅威は姫さまの予想を超えているかもしれません。その場合……いえ、姫さまは勇者でしたね。調査は行わなければならないでしょう。ですが、勇者が斃れてしまえば魔王に対抗できなくなります。今はまだ勇者の供が少ないので、勇者の武具と私だけでは姫さまを守りきれないと判断した場合、私は迷わず姫さまを連れて撤退します」

 俺が釘を刺すと、姫さまは面喰らったように目をまたたかせた。

「う……うむ。……えと、だな。実はもうその勇者の道具を使っているのだ」

 姫さまは、言いづらそうに俺を上目づかいで見ながら言った。

「私も、アルジャンの腕前を信じていないわけではないんだぞ? ただ、魔王の侵略を防ぐには勇者の道具を使わないとダメなことがあって……。そうなると私以外に勇者の道具は使えないから、アルジャンの言うとおり私が元気でいないとダメのだ。だから、出立のときから勇者の身を守るアクセサリーを身につけていた」


 アクセサリー。


 ……そういえば、珍しくブローチをつけているなーとは思っていたんだよ。小さい頃「アクセサリー類は壊すし無くすから身につけない」って言ってたのにつけ始めたから、やっぱり女の子なんだなお気に入りを見つけたのか、って感心していたら勇者グッズだったという。

「それがあれば大量の魔物に襲われても大丈夫なのですか?」

「数は問題じゃない。攻撃というか、私に一定の速度以上で触れようとしたとき反射する」

 俺の問いに姫さまが答える。

 俺は考え込んだ。一定の速度以上……あ、だから馭者が掴みかかったときに反射して弾いたのか。

 ただソレ、俺が緊急事態の時に姫さまを抱き上げようとしたら弾かれるんじゃないか? あと、じわりじわりと襲う敵には効果が無いのか。

 俺があごに手を当てて考え込んでいると、姫さまはまた上目づかいで見る。

「……どうだ? それでも危険か?」

 そう聞いてきたので危険なパターンを述べた。

「そうですね……たとえば、足が遅くじわりじわりと捕食していくスライムなんかだと、姫さまの言ったような条件には当てはまりません。その場合は私が姫さまを抱えて逃走あるいは安全な場所まで運んだ後に戻って一掃するほうがベターだと思いますが、抱え上げようと手を伸ばしたら弾かれた、となると、私にも隙が出来ますし、姫さまも危険です」

 姫さまが感心したように目をみはる。

「そうか! ならひとつは安心しろ。アルジャンは勇者の供だ。勇者の供には適用外だ!」

 姫さまが言い切った。あ、そういう取捨選択もできるのね。さすが勇者グッズ。

「あと、スライムからの攻撃は防げるけど、脅威でないと判断されて攻撃を防げなかったときは、身代わり人形が引き受ける。アルジャンのと、馬のもあるぞ!」


 姫さまの言葉で、馬車の中がぬいぐるみだらけの理由が分かったのだった。

 姫さまが……ようやく人形遊びを覚えたと思ったのに……あの数々のかわいらしい姫の人形は自分だったのかよ! しかも身代わりって!

 ……騎士の人形は俺か。ブリキだったり木だったりと統一性はないけれど、騎士ばかりだなって思ってたんだよな。どうせなら王子にしたほうがいいんじゃないかって思っていたら俺の身代わりだった件について。

 ……馬も……なんで馬? って思ったら、そうか、身代わりか。

「身代わり人形は、私や馬はともかく姫さまのはもっと大量に用意した方がいいかと思いますが」

 俺が進言すると、姫さまがムムム、とうなった。

「……いちおう、あるぞ。パパとママに頼んで大量に人形を用意してもらったので、ぜんぶ身代わり人形に仕立ててある。アイテムボックスにあるが……アイテムボックス内だと身代わりになれない。出さないとダメなのだ。でも、あれ以上馬車に積めるか?」

「私や馬は減らしてかまいません。もっと言うなら、私は万が一ということで身代わり人形は一つでもじゅうぶんです。残りはすべて姫さまの人形に替えてください。姫さまの安全が一番ですし、私は騎士ですから」

 俺が重ねて言うと、姫さまがしぶしぶとうなずいた。


 ま、守りは及第点だな。あとは攻撃だが……。そちらは俺が頑張るしかないな。これでも姫さまの護衛だし。

「姫さま。勇者の武具があるからと油断はされないようにしてください。……あ、ダメですよ、人形を入れ替えたら出発しましょう」

 元気よく歩き出そうとした姫さまの襟首をつかみ、ニッコリと笑顔で俺は姫さまに言いきかせた。


 ぶーぶー言いながらも姫さまは入れ替えしたようだ。馬車の中がもう人形だらけだが、女子力が高い、としておこう。

 馬車から出てきた姫さまとともに、まずは場所を尋ねるために村人を探した。

 村人たちに尋ねると、森の奥から湧いている気がする、ということだった。

 常にやってくる方向は一緒だということで、たぶん予想は当たっているだろう。

 森の奥となると……剣だとなかなかに不利だな。だが、姫さまはなかなかの腕前だし逆に大量湧きしていても数の有利が活かせないから相殺されるかな。


 姫さまがめっちゃ手を引っぱってくる。妹がまだ幼い頃にねだられたときを思い出すなぁ。姫さまは、魔物の出没地点に早く行こうって引っぱってきているんだけど。

 やれやれと思いながら姫さまと森へ向かった。

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