第28話 姫さま、ギルドで受注を横取りしそうになる
勇者の武具を貸し出した勇者の供は、基本的に以前魔王が現れた魔の森付近にいるそうだ。
辺境伯が代表だが、あれは勇者の武器がかなり強力だったからその地位についたということで。
他はそうでもないし、武器を返上して普通に貴族になった供もいるらしい。……アレだ、プリエ様の一族とかだな。
魔の森に行くときに様子を見て、先のジャステ伯爵夫人のようなことになったら注意喚起するか武具をふさわしい者に渡すために返してもらう、ということになった。
なので、勇者の供を探しつつ魔の森へ近づくルートで冒険者として……いやもう前回なんてまるで隠さない感じだったので表向きは冒険者……のお遊びに講じているやんごとなき身分の御方、で通すつもりだ。
ギルドに寄った姫さまが、むしった薬草を納品した。
ちょいちょい草むしりの依頼をこなしていたので、受け取った受付嬢が姫さまにギルドランクが上がったことを伝えた。
姫さまは、それはもう大喜びだ。……俺? 俺はもともとAランクだから。ただし騎士団に入った時にいったん返上していて、今回は仮復帰なのでBランクへ降格しているけどね。姫さまに言ったらぜったいにズルイとかいろいろ文句を言われそうなので黙っている。
姫さまが自慢げにカードを見せびらかしたので、
「はいはい、よかったですね」
と、おざなりに答えたら、姫さまがカードと俺とを見比べ始めた。
「どうかしましたか?」
「アルジャン、お前のカードはどうした」
ギックーッ!
俺は、引きつりながらも笑顔を作る。
「…………姫さま。私は、騎士団員なのですよ? 冒険者だったのは過去の話です。私は騎士団に所属していることを誇りに思っていますし給料も騎士団から受け取っています」
と、はぐらかしつつ騎士団最高! 騎士団万歳! な意見を熱心に言った。
「なるほど。それもそうか」
あっさり納得する姫さま。まったく、冷や汗をかいたぜ……。
さて、俺と姫さまはある村へやってきた。
とある依頼を聞きつけてだ。
その村の近くの林から魔物が現れるので調査してほしいという。
出てくるのは大した魔物ではないが、量が尋常じゃない。討伐しても翌日にはまた大量に湧く。
最初は村人総出で倒していたが、あまりにも頻繁かつ数が多いので仕事にならないと以来冒険者ギルドに頼っていた。
それがずっと続き、さすがにおかしいし依頼金が続かないので調査をして原因を突き止めてほしい――という依頼のやりとりを隣で聞いていた姫さまが「私が行くぞ!」と言い出した。
俺は額を手で打った。姫さまの懸念事項に魔物の活性化の調査もあったな、とは思ったが、正直幼い姫さまに無理をさせたくない。が、村人が倒せる程度なら俺と姫さまでもなんとかなるかもしれないと結論に達した。
姫さまが身を守れるのであれば許可しようと、俺はかがんで姫さまに耳打ちした。
「――姫さま。数の暴力は以前の
「ふふふのふ。もちろんだぞ。お前に新たな勇者グッズを教えてやる!」
姫さまが自信たっぷりなのにちょっとホッとしつつ、最悪は勇者の剣を使えばなぎ払えるかもしれないな、と思った。
何しろ勇者の剣だから、そりゃあもうすさまじい威力なのだろう。少なくとも前ジャステ伯爵夫人の持っていた指輪と同等くらいに強くあってほしい。勇者の剣なのだから。
隣では呆れた顔の受付嬢と依頼を受けた冒険者。
俺は笑顔で、
「あ、そっちはそっちで受けてくれ。横ヤリを入れてすまないな、姫――ンンッ、いやこちらの御方は冒険者のイロハをわかっていないから、大目に見てもらえればと思う」
と弁解し、姫さまに『話をつけるからちょっと待っててくれ』と言い聞かせてギルドマスターを呼んでもらった。
嫌そうな顔をしてやってきたギルドマスターに、『詳しくは言えないが、やんごとなき身分の御方が身分を隠して魔物調査や国内情勢を見て回っている、それなりの地位と権力を持つ御方なので見た目は幼女だけれどお遊びではない…………お遊びの部分もあるので、なんか低ランクの依頼をギルドでテキトーに見繕って渡してやってくれないか、で、端金を渡せば依頼を達成した気になってご機嫌になるから』と、頼んだ。
ギルドマスターは聞いている間中も終始渋い顔をしていたが、俺とは旧知の仲なので、やれやれと言った感じで了承してくれた。
「お前も大変だな……。『あの〝光闇の剛剣〟がガキのおままごとに付き合わされているとは』ってみんな同情してるぜ」
え。やめて変なあだ名で呼ぶのは。姫さまの教育に良くないから!
「おいおい、不敬罪で捕まるようなことは言うなって。それに……あれでも姫さまは頭もいいし意外としっかりしているんだ。ガキはガキだけど、さすがというかそこらのガキとは違う。あと泣かせたことはあるけど泣かされたことはないってくらい強いよ」
イディオ様なんか、大きくなっても泣かされていたもんな。姫さまは、もっと泣いてもよかったのにぜんぜん泣かないし。……確かにそういうところは勇者の片鱗があるのか。
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