3章 姫さま、蟻と王子を退治したってよ

第27話 護衛騎士、手紙を読んで憤る

 冒険者ギルドに寄ったら騎士団長から手紙が来ていると言われた。

 開けて読んだら……ふざけるなよ! って内容だった。


 姫さまは、辺境伯当主の件とともに俺の給料をあげるように陛下に信書を送ってくれたらしい。そのとき俺の給料が正当な価格じゃないんじゃないか、とも書いたそうだ。

 それを読んだ陛下が、直々に命じて俺の給料を調べ……ピンハネされていることが発覚。

 倍どころの騒ぎじゃないくらい中抜きされたり減らされたりしていたそうだ。

 本来なら一桁違う金額をもらうはずだったんだとよ!!!!

 騎士団長が問い詰めたら財務担当いわく……。

「平民へにしてはずいぶん高く払ってやっていた。本来ならもっと減らしても良かったのだから感謝すべき」

 そうほざいたらしい。

 ここまで読んだとき俺はブチキレたんだが、陛下自らが音頭をとり財務部門をソックリ入れ替え加担した人間は全員身ぐるみ剥がされ所有物はすべて売り払われ俺への慰謝料となったそうだ。

 土地も爵位も売ったので、つまり連中は平民になったということ。……と、ここまで読んだら、溜飲が下がるというよりやり過ぎなんじゃねーかってちょっとビビった。

 で、ソイツらはちょうどいいからって辺境伯領に向かわせたそうだ。今後戦いが熾烈になるだろうから、人手不足解消のためにどんなふうにでも使えって送りつけるらしい。姫さまの手紙の件もあり、第二王子がソイツらを連れて様子を見てくるそう。

 ……まぁ、すんなり当主交代とはいかないだろうな。そもそも辺境伯当主の彼女、ヤバい感じにガリガリだったし。でも、最後の方は武器を突きつけて言い合いできるほどだったから、やっぱ辺境伯当主となる人間は強いんだなって思った。


 で、手紙とともに支払われた慰謝料と差額の給料分の手形が送られてきた。

 冒険者ギルドや商業ギルドで換金してもらえるヤツだな。


 今後の俺の給料は、正規の護衛騎士給料プラス特別手当金 (護衛一人だけってのと姫さまのワガママで旅に出ている分)、ここまでが今までの給料で、さらに報奨手当金 (〝勇者の供〟として姫さまに随従する手当だと思うが、騎士団長は知らないのでこんな名目になっていると思われる)が加わり、平民だと今後困ることがあるだろうからと騎士爵が授与された。姫さまが無事に帰ってきたらさらに報奨が与えられるそうだ。

 あと、現在お供が一人ってことで、それも加算されるそうだ。他に供が加わったら減るそうだが、リーダーになるならそのままにすると書いてあった。

 …………他のお供って、イディオ様だろ? あ、プリエ様もいたか。ちょっと考えるなぁ……。でも、下手にイディオ様にリーダーになられても困るので、いちおうリーダーになっとくか。


 俺は騎士団長に謝礼の言葉とリーダーになる旨を書いて返信した。


 俺は手形をそっくり妹に送った。

 俺たちの両親は幼い頃に亡くなり、俺は妹と二人で暮らしていた。

 さらに、妹は病気で身体が弱かった。今はほとんど治ったが、無理のできない身体だ。

 これだけあれば、万が一再発したとしても大丈夫だろう。

 ……もっと早くこの金が手に入っていれば妹も長く苦しまずに済んだのにとは思うが、どうしようもない。むしろ姫さまと陛下に感謝だ。実際のところ財務担当の言った「平民へにしてはずいぶん高く払ってやっていた」って言い分がまかり通る国だもんな。


 俺は姫さまのところに戻り、今後どうするかを尋ねた。

「姫さまは今後どうされるおつもりですか? 『冒険者になりたい』という言葉は本来の目的を隠すものだとわかりましたので、本当は何を目的にどう動かれるのかを知っておきたいのですが」

 本を読んでいた姫さまは顔を上げた。

 ……また、『姫さまの大冒険』を読んでいた。本当に好きだなぁ。俺、読んだことないから今度借りて読もう。

 姫さまは、俺と本を見比べた後、本をパタン、と閉じて俺と向き合った。

「お供を増やしたい。おにいたちも騎士団も強いし辺境伯当主も勇者の武器が使いこなせれば一騎当千の強さだろうから、魔物との戦いは苦戦を強いられる、くらいで済むかもしれない。けど、魔王を再度制圧し静めるにはもう少しお供がほしい。勇者の武具を使える奴を捜し出しつつ勇者の武具を持っている者たちを見回って、きたるべき時に備えるように促したい」

 模範解答みたいな答えをもらった。

 だよなー、と思って頭をかきつつ、俺はさらに尋ねる。

「当座の目的は、お供を探す、ですかね? ちなみにどうやって探すんですか?」

 姫さまが、こてり、と首を横に倒した。

「……お供は、自然と集うらしい。だから、あっちこっちに旅をしていればつかまえられるみたいだ。初代はそうだったから、私もそれでいこうかと」

 …………俺以外のお供がいない未来しか視えない。

「勇者の武具を使える人間についてもう少し具体的に教えていただけますか?」

 俺がさらに尋ねたら、姫さまはキッパリ言った。

「私が供と認めた者だ」

 ……そういうことかよ。マジで俺しかいない結果かもしれん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る