第26話 プリエ・ルミエールの旅~馬車編3

 世話はちゃんとやるから大丈夫、とおっさんに二度目の念押しをされたので私たちは駐車場をあとにして、ギルドに戻った。

 ……なんか、赤ちゃん言葉で馬に話しかけつつ鼻息荒く世話をしているフードマントの人が怖くてそれ以上見たくなかったからだけど。

 馬の貞操は大丈夫だろうか。フードマントの人が蹴られて死んでも責任取らないからね?


 ギルドに着いた私とイディオは、馭者の手配はできたか確認した。

「えぇ、二つ返事で引き受けてもらえました! 護衛や戦力にはならないけれど自分の身を守るだけなら大丈夫だそうです!」

 受付の人が笑顔で伝えてくれた。

「わぁ、ありがとうございます!」

 良かった! 馭者ゲットだぜ!

 イディオもホッとしたようで笑顔で礼を言っていた。

 

 ギルドを出て、紹介された場所に向かった。

 マトモな人だといいなー。奇人変人はもうたくさんだよ。

 ……って考えながら歩いていると……。

 ――ん? んん?? なんか、来た道を引き返しているような……?

 辿り着いたのは、先ほど預けた駐車場だった。


「……とてつもなく嫌な予感がしてきたんだが」

「……アハハ、まさかぁ。だ、だってさ、『旅が出来る人』って希望だよ? さっき会った人たちは駐車場のスタッフだから無理でしょ。ここからさらに誰か紹介してくれるんじゃない?」

 諦めて死んだ目をしているイディオを励ますように、私が希望的観測を言う。

 オッチャンは、戻ってきた私たちを怪訝そうに見たので、イディオが「ギルドで馭者を紹介してもらったら、ここを訪れるように指示されたのだが……」と紹介状を見せた。

 オッチャンは大きくうなずく。

「あー、それなら……アダンー!」

「「マジか~~~~」」

 馭者として呼ばれたのは、さっきの馬が好きすぎるフードマントの人だった。


 ダメもとで『オッチャンにやってもらいたい』と頼んだら、『ここのオーナーなので無理!』ということだった。だよね……。

「……隣町に行くまでは我慢しよう。隣町なら他にもいるかもしれない」

 イディオが提案した。

「というわけで、隣町まで馭者を頼む」

 と言ったら、フードマントの人が愕然としたような感じで立ち尽くした。

 かと思いきや! イディオの足にすがりついた!

「ヒィッ!」

 イディオが女の子みたいな悲鳴を上げたわよ。気持ちは分かるわ~。

「そんな、殺生な! あんな素敵な馬さんと馬車を扱えるなんて……って夢見心地だったのに! お願いします! 給金なんてちょびっとでいいですから、ずっと馭者をやらせてください!」

 フードマントの人はグネグネしながら半泣きでイディオにしがみつき、イディオは必死で剥がそうとしている。ちなみにオッチャンは危険を察知してすでに遁走していた。

 適当にいいくるめて隣町で解雇しようそうしよう、とひそかに決意している私だったけれど、この後の出来事で方向転換することになった。

 イディオが必死でフードマントの人を剥がそうとしたことで、被っているフードがずれたのだ。

「「「!??!」」」

 そこには、絶世の美少年もしくは美少女がいた。

 そして、彼もしくは彼女は、エルフ族に見られる非常に特徴的な〝耳〟をしていた。

「あ、あわわああわわ」

 フードマントの人は変な声を出しながら慌ててフードを被り直す。おかげで足が自由になったイディオだったが、衝撃で固まっていた。

「……君は……エルフ国の者なのか。なぜこんな危ない国に来ているのだ?」

 イディオの言い方が酷いけど、他所の国から見たらうちの国って危ない国らしいからね。

「……じ、実は……」

 端的に言うと、フードマントの麗人の住んでいた村が魔物に襲われ、散り散りになったそうな。

 でもって、出稼ぎに来たそうな。

「基本、動物が好きなのですがとりわけ馬が好きです! 馬車って最高の乗り物ですよね!? 考え出した人って素晴らしいと思います! ふひひ、最高~」

 あの顔なのに話し方がキモいわ~。鼻息荒いわ~。

 とは思ったけれど。

「…………ちゃんとお世話をしてくれるならいいんじゃないかしら?」

 と、私は意見を変えた。

「ハァ!?」

 イディオが目を剥いたが、フードマントの人は私に土下座した。

「誠心誠意、馬を愛しお世話をいたします! 馬車も愛します!」

 うわ、怖い。

 ……と思ったけど、まぁいいや。

 イディオに耳打ちした。

「この国出身じゃないし、もやしっ子だからたとえ私たちを襲っても返り討ちに出来るわよ。下手に腕の立つ冒険者が馭者だと、身元が不確かな分危険でしょ?」

 イディオは苦りきった顔をしたが、私の説明で納得したようだ。

「……言われてみれば確かにな。エルフ国の者は魔術が得意だそうなので油断は禁物だが……。私もお前も魔術はその辺の冒険者とは比べようもなく強い。ちょっと気持ち悪いが、むしろ私やお前を襲おうと思わないかもしれない。馬を盗もうとするかもしれないが、なんとかなるだろう」

 たぶん大丈夫だよ、馬もキモいって思ってるみたいだもん。


 そういうわけで、私プリエは馬車と言動はキモいけど顔は麗しい馭者をゲットいたしました!

 この馬車で姫さまを追いかけます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る