第25話 プリエ・ルミエールの旅~馬車編2

 返信が来た。

 要約すると、用意してくれる、ってことだ。

 ただし、馭者は用意できないのでそちらでみつけてほしい、とのことだった。

 イディオは手紙を読んでため息をつく。

「……こんなことなら、王都で手配しておけば良かった」

 そうつぶやいたので私はムッとした。

「どういうことよ」

「冒険者ギルドで修業をしていたので、そこでなら信用できる人間が分かる。ここだと分からん」

 はーん。そういうことね。でも。

「アンタの信用度は当てにならないから大丈夫よ。ギルドで紹介してもらいましょう」

 とニッコリ笑って言ったらイディオにしかめっ面された。

 隣町に行って紹介してもらったほうがいいのだろうけど、馬車の受け渡しはここで、いつ着くかわからないからここに待機していないといけない。そして、ここで馬車を受け取ったらすぐに馭者を探さないと馬車が動かせない。

 というわけで、馭者を紹介してもらいにギルドへ行った。


 そもそもが、ギルドが紹介する馭者は〝馬車も扱える冒険者〟なのよ。

 本来、馭者を雇う場合は斡旋所から紹介してもらう。この場合は私のルミエール家の馭者としてね。イディオは元は貴族でも今は平民だもん。

 だが! 私が雇ったとしたら、私の家に仕えることになってしまう!

 なんで私が姫さまを追いかけるために身銭を切って、いらない馭者を雇わないとなんないのよ?

 ……ってことで、一時的に馭者をやってくれる人がほしくてギルドに頼んだのだけれど、そうなると今度はいつまでか、という契約が必要になってきた。

 まず、条件に『一時雇用で期間は未定。行き先も未定』って挙げたところで受付の人の顔が引きつったわ。


 わかってる、わかっているのだけど、どうしようもないのよ。


 イディオが横で、

「否定しようのない条件だが、じっさい言葉にするとひどいな」

 とか抜かした。

 そして、イディオが妥協案として、

「もしも、私と彼女に馭者の手ほどきをしてくれたのなら、覚えるまでという期間でもかまわない。念のため、次の町までは一緒に行ってほしいが」

 と付け加えた。


 さらに、『戦闘が出来ること』と私が条件を出すと、受付の人が呆れたような顔をして首を横に振っている。

「冒険者でしたらある程度は戦闘できますが、馭者も出来るとなると……。馭者とは、馬に車を引かせるだけではありません。客車や馬の世話もありますから、それなりの知識と経験が必要になります。そういった者は引く手あまたなので、この町でなくともなかなかご紹介できる人はいないかと思います」

 と、ごもっともな返答を受けた。

「……自分で身を守れる程度、ってのもダメ?」

 と、私が妥協案を出すと、受付の人が難しい顔をした。

 で、イディオが、

「そこは妥協しよう。私が守る。だが、あくまでもプリエを守るついでになるが……。『第一優先で守ってほしい』という馭者は私たちの旅ではさすがに無理だ」

 と、告げた。

 イディオと私と受付の人とで討論し出た結論は、

「隣町だともう少し紹介できたかもしれませんが……妥協案でよろしければ、ここですと一人だけ紹介できると思います」

 ってことだった。


 受付の人が打診してみる、とのことでいったん保留となり、数日待機していると、その間に馬車が届いた。

 どうやら騎士団の方がひいてきてくださったようだ。二頭立ての馬車で、やっぱりというか、馭者は別途雇ってくれって言われた。

 ひいてきた騎士様は一緒に連れてきた自分の馬で周囲を見回って魔物を間引きしてから帰るそうだ。さすが……やっぱり騎士様は仕事熱心というか、真面目というか、すごいなと感心する。お給料がいいなら騎士様と結婚したいわぁ。


 で、馭者はいないことが決定! 騎士様が、

「ちょっと容量の大きいタイプを用意したので、馬車を操れる商人などに頼めば荷物を載せてよい代わりに馭者を頼むことができるので、それで町を移動していけばいいですよ、それでなくても目的地が一緒の馭者は探せばいるものだし、さほど難しくないから自分たちで練習してもいいんじゃないですか? 馬も乗馬用ではなく牽引用の頑健な良馬ですよ!」

 と、朗らかに教えてくれた。

 ……難しくない、っていうのは騎士様の主観の気がするので鵜呑みにはできない。あと、騎士様は平民のずる賢さを知らないなと思った。そんな無料の馭者なんて、どこに連れて行かれるかわからんわよ。ちゃんと契約したいわ。

 イディオも騎士様の言葉に苦笑している。お坊ちゃまは騎士様の言葉に納得するかと思いきや、平民生活で揉まれてずる賢さを知ったらしい。


 さて、どうするか……。とりあえずは駐車場にとめてもらった。お金を払えば馬の世話をしてくれるらしい。

 それはよかった! 馬の世話なんてわからないもん。馬車なんて高級なものはおろか使い途のない馬なんて、うちにはなかったからね!

「お願いしまーす」

 と頼むと、駐車場の管理人らしきオッチャンが

「アダン! 仕事だぞ! やっとけ!」

 と誰かに怒鳴った。

 すると、マントにフードまで被った小柄な人がヒョコヒョコとやってきた。……え、大丈夫なのかな?

 そう思った途端。

「フォオオオオオオ!」

 という謎の雄叫びをあげる。

「「!??!」」

 私とイディオは驚愕し、互いに顔を見合わせた。

 そして同時にオッチャンを見る。

 オッチャンは慌てたように私たちをなだめてきた。

「いや大丈夫だ。アイツは馬とそれに関連するものが好きすぎるだけで、害はないしちゃんとやるから安心しろ」

 馬と関連グッズが好きすぎるって……ナニソレ怖い。

 世の中にはいろんな人がいるのね。イディオ然り、姫さま然り、目の前の馬車フリーク然り。

「…………世界は広いな。パシアン姫以上の変わり者がいるとは思わなかった」

 と、自分を棚に上げて発言したイディオだった。




※イディオは賢いけど視野が狭くて素直なお馬鹿ちゃんなので、影響されやすいです。まだ子どもだし。

 姫さまとの婚約時は、学園でも侯爵家でもおだてられていたから天狗になっていたし誰かから教わった『貴族とはこうあれ』という凝り固まった考えを信じていましたが、婚約破棄騒動から一転、プリエにさんざん貶められ新しい扉が開きそうなところで牢屋の監視人やギルドの兄貴に出会って大きく影響を受け、現在は旅で揉まれてマトモになってきました。

 このままいけば更生しそうですが、また褒められおだてられる環境に逆戻りしたり悪い連中にうまいこと丸め込まれ変なことを吹きこまれたりすると坂を転がります。

 とはいえ、現在辛辣美少女プリエちゃんと一緒なので大丈夫でしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る