第24話 プリエ・ルミエールの旅~馬車編1

 みなさまごきげんよう。プリエ・ルミエールです。

 現在、姫さまを追いかけながら旅をしています。

 とはいえ向こうは馬車、私は徒歩なので追いつく気がしないんですけどね!

 はぁ〜、なんでこんな目に……これなら貧乏男爵領でやりくりしていたほうがマシだったな。どうせ借金は返せないし、踏みたおすつもりでもっと借りまくって学園もバックレればよかった……。


 現在、お金に不自由はしていないけど他すべてが不自由です。

 将来は男爵家当主、目下の行動は姫さまを追いかけて旅をし続けなければならないという、将来も目下の行動も制限されている状態だよ!

『行きたくもない学園に行きつつ、極力金がかからないように、且つ、他の貴族にからまれないように慎ましく過ごす』なんて、そんな甘っちょろいことじゃないのよ。いくら貧乏が板についている私とはいえ、それでも貴族の端くれ。冒険者みたいな暮らしはさすがにこたえるんだって……。


 あ、そうそう。なんか付属物がくっついてきている。姫さまの元婚約者とかいう奴ね!

 ……くやしいけど、けっこう役に立つのよ。それが腹立たしい!

 公爵家に生まれた生粋のお坊ちゃまだからお綺麗な環境じゃなければ生きていけないんじゃないかと思っていたけれど、意外や意外、平気だった。

 虫も、私よりも平気になっていた!

 なんでよ!? って思わず叫んだら、イディオはキョトンとした後見下したようにふっと笑った。ムカつく。

「伊達に二年もあの暴れん坊の婚約者をやってきてはいない。この程度なら慣れた。……さすがに眼前に突き出されたら驚くが」

 最後は遠い目で言った。……まぁね、私も蛙を眼前に突き出されたときには意識を飛ばしたな……。

 そう。私も姫さまに鍛えられ、ある程度のことに驚かなくなっていたことに驚いた。それにも増してイディオがどんどんと環境に対応していくのがめっちゃ悔しい。


 姫さまと合流するつもりで行く先を追っているけれど、どっちかというと姫さまたちに引き返してきてほしい。

 ……祈りもむなしく行く先々の町で姫さまの向かった先を尋ねたら、どんどん王都から離れていってるんですけどねー。

「……ダメだぁ~。また王都から遠ざかった……」

 私が肩を落としてうなだれると、イディオが私をチラリと見た後、ため息をついて言った。

「アイツには姫としての自覚はないのだ。出会った当初から『姫なら姫らしくお淑やかにしろ、でなくても公爵夫人になるのだから落ち着きを持て』とさんざん言っていたのにまるで聞く耳を持っていなかったからな」

 私はイディオに反論しかけ、口を閉ざした。

 ――姫さまが勇者の血を色濃くひいている、ってのはいちおう秘密らしいので。

 勇者なら、窮屈なドレスを着て、狭苦しい(とはいえ我が屋敷よりも広いけど)離宮に閉じこもっているよりは冒険者で活躍した方が楽しいって思うかもね。王族の冒険者仕様ならきっと馬車も最高級品でしょうし。


「はぁ~っ」

 私は大きなため息をつくと、開き直った。

「もうダメ。背に腹は代えられない」

「はぁ?」

 イディオが私を見て何を言い出すのかと構えているので、キッパリ言ってやった。

「馬車を買う。徒歩じゃ追いつかないというか、私がもたない」

 これでも私は貴族だし! このまま永遠に歩き続けるのかと思うと無理! そりゃあ、町に入ればしばらくは休憩しますけどね? 元貧乏貴族だから、無駄遣いできなくてすぐ出発しちゃうのよ。なら馬車を買ってその馬車を経費で落としてやる! 使わなくなったら売ればいいんだしー。

「……お前、私が馬車を買う提案をしたときに即却下したくせに……」

 イディオがワナワナ震えつつ何か言ってるけど聞こえませーん。

 私は馬車を買うべくギルドに向かった。


「この町にはない?」

 ギルドに斡旋してもらおうとしたら「ない」ってことだった。隣町にあるという。

「……しかたない。隣町に向かうか~」

 私がつぶやいたら、イディオが「待て」と言い出した。

「私が手紙を出そう。そもそも、馬車に乗って出て行った者に徒歩で追いつくのは無理だとわかっていたことだ。馬車を用意するのは命令してきた者の責務だろう。お前がいらんと言うしパシアン姫がすぐ戻ってくるかもしれないという可能性もあったので思いとどまったが、戻るどころか遠ざかっている。このままでは追いつけるわけがない。……本気で我らに追いついてほしいと思っているのなら、彼奴らが馬車を用意するのが当然だ」

 イディオが厳しい顔をして言った。

 ……最後の言葉。イディオもやっぱりそう思っているんだな。彼らは本気で姫さまのもとに向かわせているんじゃない、って。

 私はため息をついてイディオに言った。

「…………そうですね。急いで合流しなければならない、ってわけじゃなさそうだし、手紙を出していただけますか。しばらくこの町に滞在しましょう」

 イディオが手紙を書き、受付で送付を頼んだ。その返事もしくは馬車が届くまでこの町に滞在することが決定した。

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