2章 姫さま、離婚騒動に首を突っ込んだってよ

第15話 護衛騎士、手紙を読む

「ハァ!?」

 俺は騎士団長から届いた手紙を読んで声をあげてしまった。

 騎士団長の手紙には、くだんの男爵家令嬢プリエ様のことが書いてあった。光魔術の中でも稀少な回復魔術を発現させたのでそちらに向かわせた、と書いてある。そこまではまだ良かった。ついでみたいに、姫さまの元婚約者であるイディオ様を護衛につかせた、って書いてあるんだけどよ!?

 使えねーやつをよこすなよ! お守りは姫さまだけで手一杯だよ!


 確かに、回復魔術はありがたい。回復薬にも限度があるし、もしも伝説通りなら、鍛えていけばそうとうの遣い手になるだろう。当てが外れてたいしたことがなかったとしても、姫さまが怪我を負ったときに治してくれるのなら、少しだけ助かる。


 たが、イディオ様、テメーはいらん。

 単なるお荷物じゃねーかよ!


 さすがにムカついたので、返事を書いた。三人のお守りは無理だと。

 姫さまとイディオ様の相性は最悪だし、自分は姫さまの護衛であり他は範疇外で、しかもそれらの足手まといが混じることによって姫さまが危険にさらされるかもしれない。姫さまを殺す気がないのだったら帰るように手配してくれと。


 ……ここまで書いてからふと思った。

「もしかして、殺す気か?」

 ――面倒ばかり起こす姫と、面倒ばかり起こす貴族の令息令嬢。まとめて放逐して、生きて帰るなっつってんのかもな。王都に置いておいたらさらなる騒ぎを起こすだろうから全部まとめて放り出したってワケか。

 何せ、護衛騎士は平民の冒険者上がりの俺一人。普通じゃない。

「最初からおかしかったんだよな……」

 俺は頭をかくと、それでも続きを書いて封をした。握り潰されるだろうが送りつける。


 書きながら思う。姫さまは気付いているのだろうか。

 ……気付いているからこそ勇者グッズを全部盗んで城を出たのかもしれない。イディオ様のことも気付いていて、姫さまなりに鍛えていたつもりだったのかもな。確かに、冒険者が虫を怖がってちゃ話にならない。


 俺は手紙を出した後、盛大なため息をつきつつ姫さまのところに戻った。

 姫さまが持ち出した勇者グッズの中に、素晴らしく便利なものがあり、それによって四六時中姫さまについてなくても良くなった。

 それは、姫さまが取り出しが勇者グッズの一つ、目くらましの札。認識阻害の護符だ。

 姫さまは馬車に貼り付けた。認識札を持っていない限りそこに馬車があるとわからないそうだ。

 けっこうな枚数があるとのことで、いざとなったら姫さま自身に貼ってくださいと伝えてある。

 特に、俺とはぐれたときはすぐに貼り付け、俺が見つけるまでじっと動かないように! と口を酸っぱくして言った。


 この護符の効果により、夜に仮眠がとれるようになったのはかなり救われた。

 野外で護衛が一人だけ、ってのは、つまり寝ずの番を夜通ししないとならない。

 襲撃の少ない明け方と昼間に仮眠をとるようにしているが、その間に姫さまがどっかに遊びに行って何かあったら大変だ。

 姫さまに説明して、俺が仮眠をとっているときはそばにいて動かないでくれと伝えたら護符の話を出したのだ。

 俺が寝ずの番をしているとは夢にも思わなかったらしく、驚いた上に涙目になって謝ってきたので俺も驚いた。

「お前に迷惑をかけるつもりはなかったのだ」

 って言われたんだけど。

 すでに迷惑をかけられまくっているんだけど。ま、いいけどね。護衛とはそういうもんだ。


 姫さまのところに戻ると、姫さまはおとなしく本を読んでいた。俺が言ったことを実践しているのは意外だった。いつもはだいたい言うことを聞かないのにな。

「お待たせいたしました。何を読んでいるんですか?」

 のぞいたら、魔物図鑑だった。勤勉だな。

「童話はもう読まないんですか?」

 そう尋ねたら、姫さまが顔を上げた。

「それも読む。童話はワクワクするからな」

 ふーん。

「王子様とお姫様が結ばれるような話は読まないんですか」

 妹の幼い頃を思い出して言ったら、姫さまの顔が固まった。

「…………読んだ。でも、私にはまだ早かった」

 と言われた。

 ……早いか? もっと下の年齢の子が読むものだと思ったが、そうでもないのか。そういや確かに、うちの妹はませていたな。


 姫さまが冒険者となり離宮を出てから早一月。

 不便な生活にすぐ音を上げるかと思いきや、ぜんぜん大丈夫だった。不便さにワガママすら言わない。

 逆に、いろいろなことを自らやりだした。最初はもの珍しいからだと思ったが、以降も飽きず続けている。

 食事の粗末さすら気にならないらしい。というか、姫さまは料理を手伝うようになったよ。

 確かに、自分が最初に作った料理はどんなものであれ美味いからな。町の高級料理店よりも野営の料理のほうが好きらしく、やたら野営をねだる。こっちとしても野営のほうが守りやすいし料理は安くつくし、勇者の便利グッズでそれなりに快適だしで、野営を行っている。


 一番の快適案件が、浴槽の魔導具だな!

 天幕を張ってくれと姫さまにねだられ言われたとおりにすると、姫さまがアイテムボックスからホースのついた浴槽を出してきた。

「勇者の浴槽だ! ここに魔力を注ぐと湯張りして、このホースからお湯が降り注ぐのだ!」

「勇者って、快適な旅をしすぎてませんかね?」

 姫さまの言葉に思わずツッコんでしまった。

 なんだその生活便利グッズは。

 ちなみに、姫さまは一人で入浴できる。小さいころは何もやらない侍女を見かねて俺が手伝っていたが、さすがに妹より幼いとはいえ赤の他人の男がやるのはまずいだろと思い、姫さまに出来るようになってくれと頼んだのだ。

 今じゃほとんど一人で出来て、髪を結うのだけ俺がやっている。

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