第14話 閑話(イディオ・グランの場合4)

 両親が私に打診してきた。

 陛下と私の処遇について再度話し合った結果、パシアンの供としてパシアンのもとに赴きパシアンを守りきれば、『失態が失態ゆえに公爵家当主に返り咲くことは無理だが、活躍によっては叙爵する』というお言葉を賜ったと。だから、婚約者ではなくパシアンの供として仕えてみないか、ということだった。

 もはや私にとって爵位はどうでもいいものとなったが、その言葉だけはありがたくいただこう。

 いいか、私は絶ッ対に、パシアンが認める勇者の供となってやる!!


 私は冒険者として登録し、皆に〝アニキ〟と慕われる先達に鍛えてもらった。

 憲兵の例があったので、平民のおとこという者は貴族よりもなかなかに見どころがある者が多いと考えたのだ。

 そして、その考えは当たっていた。

 アニキはさまざまなことを知っており、私にいろいろと教えてくれた。

「お前、意外と鍛えがいがあるじゃねーか! ヒョロヒョロのボンボンだと思ってたのによ!」

 そんなことを言われバシッと背中を叩かれた。……確かに私の太ももよりも太い二の腕の者に言われたらうなずくしかないな。

 私はもともと剣筋は良かった。だてに学園でトップの成績を収めてはいない。あとは対魔物戦を意識した戦い方を教わり、パシアンがやっていたような「卑怯な!!」という手口も教わった。

 アニキは戦いの他にも、騙されやすい私に対人用の対策をいろいろと伝授してくれた。人を見抜くセオリーも教わったのだった。

 私はさらにひと皮むけたのだ!

 アニキは腕を組み、満足げに私を見下ろして何度かうなずいた。

「よし、冒険者としてはまだまだだが、戦いに関してはそこそこは仕上がってきているぞ! 危険を感知するスキルはかなり上々だし、ようやく騙されにくくなってきたな!」

「押忍! アニキ!」

 なかなか直らない貴族の言葉遣いも、少しは砕けて言えるようになった。


 鍛えてもらっている最中に、私は勅令を受けた。

 ――プリエに、パシアンのあとを追いかけサポートさせる、というのだ。

「本気か?」と思ったら、それは前フリでさらに続きがあり、私がその護衛に就くというのが勅令だった。

 本気か?

 別に私は嫌ではないが、護衛騎士に任せた方がよくないだろうかと考えつつ読んでいたら、二枚目の手紙に弁解が書いてあった。

『騎士団は、溢れ続ける魔物の討伐でこれ以上の人手が割けません。魔物の凶悪化もますます進んでおります。冒険者に護衛の依頼をすることも考えましたが、ならばイディオが護衛に就き、どうしても足りないようならばそちらで冒険者に依頼をかけてもらうのが最善策ではないかと考えました』

 …………。

 なんというか……。無責任と責めたいところだったが、『人手不足、ここに極まれり』という言葉が浮かんだ。


 私はアニキに護衛を頼もうか悩んだが、王都周辺は魔物の間引きがされているため私一人でもどうにかなる、とアニキが言っていたのを思いだし、頼むのはやめてパシアンと合流してから今後の方針を決めよう、と考えた。

 本当ならアニキに頼み、一緒に旅をしてさらなる教えを乞いたいが……アニキを貴族のいざこざに巻き込むのもためらわれるし、私が元貴族だったと知られるのも恥ずかしい。アニキには、立派にパシアン……いや勇者の供として認められてから再開したいものだ。


 数日後、『プリエがもう出立しそうだ』という報告を聞いて慌てて準備を整えることにした。アニキにもう少し鍛えてもらいたかったが……。

 私は、パシアンのサポートのためという名目でなら両親に頼っていいという許しを得ている。アニキに鍛えてもらう前の私ならば「そんな必要は無い! 己のみで出来るわ!」と突っぱねていただろうが、ひと皮むけた私は『利用できるなら親でも使え』という言葉を知っている! おおいに利用させてもらうとしよう!

 準備は両親に丸投げした。


 準備を終えたとき、プリエが出立したという連絡が入った。間に合ったがギリギリだぞ!

 プリエ、お前は勅令をなんだと思っているのだ!?

 慌てて追いかけ追いつき説教した。プリエのようなか弱い……気がする令嬢に旅をさせるのは私も不本意だが、勅令ならばしかたがないので、せめて私と合流し、安全を確保してから出立してほしい。


 …………その後、いろいろショックなことを言われた。

 確かに、野営の経験はまだだった。この近郊での訓練しかしていない。だが、私はすでに覚悟を決めている。虫や蛙、蛇などはパシアンからけしかけられなければ平気だとわかったし、冒険者としてアニキにある程度は鍛えられているので、そこまで動じない……はずだ。

 というかプリエ、意外と強かなんだな!? お前、そんな女だったのか!? ……いや、憲兵から諭されたではないか、女は複数の仮面を持つと。鷹揚に構えろ、イディオ。

 ……と、ここまではなんとか平静を保てていた。だが……極めつけのひと言がプリエの口から発せられたのだった。

「アンタ、嫌い」

 そうとうショックだった。

 怒っているとは思っていたが、まさか嫌われているとは思わなかった……。

 私は頭が真っ白になり、気づいたら泣いていた。ギャン泣きだ。

 気づいた私の視界には、逃げ去るように足を速めるプリエ。

 私は慌てて追いかけた。

「ついてくるな!」って……。ヒドイ!

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