第10話 閑話(プリエ・ルミエールの場合4)
その場にいた騎士団長が縮こまっている。すぐ交代させるつもりだったけれど交代の護衛騎士がなかなか見つからず、しかも今までにない魔物の群れの討伐や処理に追われて今日に至ったと弁解していた。
でもって、姫さまが一時的にもイディオ様に勝っているのは、その元冒険者の手ほどきがあったから。
騎士とは、集団行動が基本。個々の強さより、統率された動きが出来る方が望まれる。ただ、戦況によっては個々の強さも必要。その、個々の強さを求めてスカウトした者なので、実力は折り紙つきらしいよ。
私はそのまま王宮に留まり、魔術の基本のキ、そして基礎的な回復魔術を徹底的に朝から晩まで教育された。
バカは冒険者ギルドに放り込まれ、冒険者のイロハを教わるらしい。
冒険者はかなり荒っぽい。あの、承認欲求の塊みたいなやつが無事でいられるのかと一瞬思ったけれど、むしろ一緒に旅するのならあの伸びきった鼻をベキベキに折って真っ平らにしてほしいので、冒険者のみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
私は二十日ほどで教育が完了した。光魔術は遣い手が少ない、そして遣い手によって系統が変わってしまうので、魔術書(それこそご先祖様が書いた教本)を読みつつ実践していくしかないそうだ。
先立つモノは金! 金さえあればだいたい片づく! が、私のモットーなので、豊富な支度金をもらった。さらに、騎士見習いと同じ扱いになり、その給料が出ることになった!
私はさらに粘り、姫さまと合流したら侍女として仕える約束で、さらに下級侍女の給料も上乗せしてもらった! むしろ、合流したらコッチがメインだね! やんちゃ姫をマトモに更生させるぞー!
だいたいさぁ、回復魔術は稀少中の稀少らしいけど、この世には回復薬というモノがあるじゃないの。ありがたがる気が知れないよ。
…………実は、私が使えるのは回復魔術だけじゃない。
誰にも言っていないけれど、他の魔術も使えたのだ。しかも、超便利な生活魔術! 私、魔術に目覚めて良かった!
とはいえ、まだまだ魔力が足りないんだよね~。
回復魔術は一度使えば気絶するし、他のも数回使ったらもう使えない。魔力を上げるにはひたすら使うしかない、って聞いたので(筋肉か?)魔力をあまり使わないような魔術をちょこちょこ使って魔力上げをしている。
いろいろ話はついたしお金ももらったので、バカは置いてさっさと姫さまを追いかけようとしたら、
「……おい! お前、なんで勝手に行こうとしてるんだ!?」
なんと。バカが現れた。
「チッ」
「今、舌打ちしたのか!?」
バカがわめくのを無視した。
バカは、貴族の坊ちゃんが冒険者の装いをしました、って格好をしている。一発で盗賊に目をつけられそう。こんなんと一緒に旅をしないといけないワケ? むしろ一人旅より危険なんですけど。
私はうろんげにバカを睨んだ。
「……まさか、本気で姫さまを追いかける気?」
「当然だ!」
バカが憤ったが、当然ではないだろう。
「アンタの軟弱さで、冒険者なんか務まるワケ? アンタ、野宿とかしたことないんでしょ? 私は貧乏だったからまだ耐えられるけど、アンタは生まれてから恵まれたおうちで贅沢三昧だったじゃん、無理じゃん」
バカ、それはわかっているらしい。すさまじく懊悩している顔で私に言い返してきた。
「…………そんなことは知っている。だが、それが私の使命なのだから、しかたがないのだ」
「大きな勘違い」
バッサリ切り捨てた。
「私はもう逃れられないし、たんまり金をくれるって話がついたんで姫さまが飽きるまで付き合う、ってことになったわけ。姫さまのお付きの護衛だって、給料が出るからお姫さまに付き合ってんのよ。アンタ、そういうのないんでしょ?」
バカがショックを受けた。
「お坊ちゃまと一緒の旅なんて、足手まといが増えるだけだから。なら、私一人で向かったほうがマシ。アンタが行きたいなら勝手にすればいいけど、私は私で行くから。ついてこないで」
「そういうわけにはいかん!」
あァん? って思って振り返ったら、懐から紙を取り出し、私に突き出した。命令書だった。
…………バカが、私と共に、姫さまのもとに向かう、って書いてある。がーん!
「これでも、冒険者の連中からそこそこ仕上がったと言われている! お前を守ってやろう。私とともに行くのだ!」
おい、冒険者ども。鼻っ柱を折ってくれたんじゃなかったのかよ。
「いらない! うざい! ……いい!? 私は稀少な能力を発現した次期当主なの! アンタがどんだけ自分を『俺はスゴイ敬え』って思ってようが、私と同じ能力を発現しなけりゃ、アンタが下なのよ! わかったら威張り散らすなこの、バカ!」
バカ、またショックを受けた。
「ホントうざいんで、離れてくれる?」
シッシッと手を振ったけど、ついてきた。
「これは、勅令だ。私だって不本意だが、しかたないのだ。パシアン姫のものに向かわねばならぬ」
「知らないから。私、アンタのこと嫌いだから」
ズバンと言ったら、またまたショックを受けた顔をしたあと、ギャン泣きした。
その隙に、逃げるように去る。
だが、泣きながら追ってきた。
「ついてくるな!」
「ヤダ!」
ヤダじゃねーよ!
私、プリエ・ルミエール。男爵家の第一令嬢でした……が、一時期平民、現在は次期男爵家当主です……。
元公爵家令息だったバカを罵りつつ、姫さまを追いかけることになりました。
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