第8話 閑話(プリエ・ルミエールの場合2)
けっきょく、両親は私を勘当した。
責任をとらされてお家取り潰しは万々歳の結果なんだだけど、今までのことを考えるとそうはならず、借金だけ背負わされ、さらに苦境に立たされる未来しか描けなかったので私を勘当するしかなかったのだ。
……案の定お家取り潰しにはならず、うちに全責任を押しつけてきた公爵家が問題児をうちに婿入りさせるって話になったそうだ。あっぶなーい! 間一髪だった。残念だったねー!
そもそも威張り散らして金を使うことしか能がない男なんてうちには必要ありません。持参金を背負ってきたところで、短期間でアヤツが使い潰すのは火を見るより明らかだし。
公爵家の言い分では一人息子を私が誑かしたことになっているけれど、コッチとしては、
『お前らの息子がバカなおかげでコッチは巻き添えを食ったんだよ、私はアンタの息子と結婚したいなんざ言ってねーし、好きだとすら思ってねーよ、単にアンタの婚約者との逢瀬に私を連れて行くなっつったんだよ!!』
と、叫びたい。ヨイショしたのを勘違いしたのはアンタの息子だけだとも言いたい。私は全員に等しくヨイショしたぞ。
両親が私を勘当していなかったら、公爵家の尻拭いを最底辺の男爵家に押しつけられるところだったのだよ。ホントふざけんな汚いケツをコッチに向けんな。
でもまぁいいや! おかげで私は貧乏男爵家からイチ抜け出来てしまった! 結果オーライ!
私は、王都のほうが働き口が多いので王都で働くことにした。どこで働こうかな、パン屋さんとか憧れるよねー。でも、手堅く儲けたいし、手に職をつけるのが一番かな。どこかに弟子入りしたいな。
いろいろ思案しつつ見て回った結果、私はこじんまりした商会の事務手伝いに雇われ働くことになった。元貴族なので読み書きは出来るし、作法も(知らない平民よりは)出来るし、ヘコヘコするのは得意中の得意です! 給料は安いのかもしれないけれど、その代わり空き室を貸してもらえて住んでいるのでめっちゃ助かる!
ここでスキルを磨いて、ある程度お金が貯まったらもう少し大きな商会に移ろうっと。
…………と、浮かれていたのもつかの間。バカが現れた。
「プリエ、よくも騙したな! お前のせいで、私はどん底に落ちたんだぞ!」
…………。
私はしばらくフリーズした。せっかく雇ってもらった商会に乗り込んできて何を喚いているのだこのバカは。
ようやく気を取り直した私は、静かに言った。
「濡れ衣を着せないでください。私は『貴方の婚約者との逢瀬に私を連れて行かないでくれ』って頼んだのに、なんで婚約破棄とか叫んでいるんですか。バカじゃないですか?」
「なっ!?」
バカが絶句した。初めて私に言い返されたからなのか、目と口をまん丸くしている。
「いい迷惑です。……そもそも、婚約者がいるのに私を連れ回すなんてどんだけ非常識なんですか? 私は貴方に婚約者がいるなんて知らなかったし、姫さまも私を貴方の子分だって認識していたから
冷たく言い返していたら、真っ青になった。その後、真っ赤になって怒鳴った。
「ふ、ふざけるな! お前は私を最高だと褒めたたえていただろうが! 必死で媚びて私の気をひこうとしているお前を憐れに思って情けをかけて婚約者にしてやろうとしたのに、なんだその言い草は!」
「私は等しく全員を最高だと褒めたたえていましたよ。勘違いしたのは貴方だけですね」
バッサリと斬り捨てた。
ついでにトドメも刺しておいた。
「そして、うぬぼれも大概にしてください。私が気があった? 好きだなんて言ったことはおろか思ったことすらないですし、貴方は私の結婚相手の条件から外れています。威張り散らして金を使うしか能のない男は条件に当てはまりませんし、そもそも私の好みじゃありません」
そして、シッシッと手を振った。
「仕事の邪魔をしないでください。――唯一感謝しているのは、両親が私を勘当せざるを得なかったことですね。おかげで私はあの貧乏男爵家から逃れて平民になれましたよ、ありがとうございました。では、さようなら」
そこまで言ったら、イディオ様お得意のギャン泣きが出た。六つも下の姫さまに泣かされているのを見たときは正気かこの男、って思ったけれど。まぁ、私も姫さまには泣かされたけれど。
「――アレは、誰なんだ?」
と、上役が聞いてきたので、最適解を言った。
「平民です」
バカはつまみ出された。良いお召し物だったので貴族と勘違いしてここまで乗り込ませたのだろうなと察した。でも、あのバカも私と同じく勘当されたって聞いたもんね。
あれ以降、バカに何度かからまれムカついたので憲兵に突き出してやった。
「もしも、アンタが自分が思うほど素晴らしい人間ならさ、たとえ平民になろうがどんなにどん底だろうがなんとかするんじゃないの? なんで人のせいにしてんの? 私は別に立派な人間じゃないけど、平民になってもちゃんとやってるけど? ――立派だって思ってんのは自分だけじゃん。私だって、借金抱えた貧乏貴族じゃなかったら、アンタに思ってもいないことを言って褒めたたえたくなんかなかったよ」
私が捨てゼリフを投げつけたら、得意のギャン泣きを披露していた。
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