第5話 姫さま、勇者グッズを紹介する
二十匹ほどいたワーグを全て片づけ、俺は安堵の息を吐くと剣を収めて姫さまに歩み寄った。
「姫さま。――それはいったいなんですか?」
俺は。姫さまが両手に持つ、特殊な形の筒がついている杖のようなものを指さした。
俺を見て、姫さまは得意そうに胸を反らせる。
「だから、ここを出る前に『準備は万端だ』と言っただろう。これは、勇者の使っていた『魔法銃』という武器だ!」
俺、しばらく絶句した。
「……ちょ、おま、それ、どっから……」
途切れ途切れにいくぶん失礼な言葉で尋ねると、一番聞きたくない回答が返ってきた。
「宝物庫」
「あああああ~~~~」
俺は頭を抱えた。
この姫、宝物庫からよりにもよって勇者の武器を持ち出しちゃったよ!
「…………姫さま、帰りますよ。そしてそれは見つからないようにそっと返しましょう」
ようやく立ち直ってきた俺は、低い声で姫さまを促したが、
「いやだ!」
と、駄々をこね始めた。
「いやだじゃねーよ! ナニ宝物庫から勝手に持ち出してんだよ! バレたら怒られるじゃすまねーぞ!」
とうとうキレた俺が怒鳴る。
巻き添えに俺が弁償させられることになったらどーすんだ! つーか弁償で済めばいいけどな! 下手したら処刑だぞ!
姫さまがキョトンとして俺を見た。
「怒られるわけがないだろう。私は宝物庫に入ることができるのだぞ?」
え。と俺が固まった。
「勇者の持ち物は、勇者の末裔のみが封印を解けるのだ。そして私は封印を解けたので、勇者の持ち物を使うのだ!」
なんかすごい話になってきたな。そういえばこんなポンコツ姫でも勇者の末裔だった。
…………いやでも、封印が解けたからって勝手に持ちだしていいってワケでもないんじゃねーか?
悩み始めた俺に、姫さまが斜めにかけたバッグから何かを取り出し、宣った。
「ホラ、オトモのお前にもこのマジックバッグを貸してやろう。あと、この剣はおっきいからお前に使わせてやってもいいぞ?」
「何、宝物庫なんてそうそう入るワケがないでしょうし、勇者の持ち物も飾ってあるだけでは宝の持ち腐れ。勇者の末裔たる姫さまが封印を解かれたのは恐らく道具が姫さまを選んだのでしょう」
俺は口上を述べると、うやうやしく勇者のマジックバッグと剣を受け取った。
勇者の剣かぁ……。スラリと抜き放つと、刀身が見事な輝きを見せた。
「いやぁ、今の剣もそうとういいものですが、これは別格に素晴らしいな!」
そう浮かれていると、姫さまが満足そうにうなずいた。
「うむ! 気に入ったようだな。ならばもう『冒険者をやめたい』などと言うのではないぞ?」
姫さまの言葉に俺は固まる。
…………嵌められた。ワケではないのだろうが、逃げ場を失った。
確かにここまで喜んでおいて、冒険者をやめろとは言いづらい。
俺も、せっかくだから勇者の剣を使ってみたいし……。
「…………飽きたら、帰ってくださいよ?」
「うむ!」
俺は、そう言う他になかった。
とはいえ。
姫さまは、そりゃあ他の令嬢よりは強いだろう。もしかしたら軟弱な令息にも勝てるかもしれない。だが、基準はそんなもんで、ある程度経験を積んだ冒険者には負ける弱さだ。
今回はなんとかなったが、冒険者をやっていればこんなふうなイレギュラーなエンカウントはしょっちゅう起きる。
勇者の武器は強いらしいが、それを持つ姫さまは幼くて弱い。武器の強さを己の強さだと過信し失敗して命を落とす前に、どうにか冒険者をやめさせなければな。
俺は大きく息を吐くと、頭を軽く振って思考を切り替えた。
その前に、まずはここの始末をつけないとだ。俺は姫さまに向き直った。
「ワーグを何匹か持ち帰って、ギルドに説明します」
……なぜこの場所にこれだけの群れが出たのかわからない。この周辺で何か予期せぬ事態が起きているのかもしれないのでギルドに報告しないといけないが、そのまま言っても信じてもらえないかもしれない。普通なら、まずは生きて帰れなかった事態だからな。だから、証拠としてのワーグを持ち帰ることにした。
俺の言葉を聞いた姫さまが、顔を輝かせて叫んだ。
「それならいいのがあるぞ!」
え。まだ勇者グッズを盗んできてるの?
姫さまがゴソゴソとマジックバッグを探り、帯状のモノを取り出した。
その帯を地面に置いて広げ、さらに帯を縦に開いた。
「『アイテムボックス』だ。この輪の中に、獲物を入れるのだ!」
俺の瞳孔が開く。
な……なんて便利なモンを持ってんだよ、勇者様! そしてなんつーモンを持ち出してきたんだよ、姫さま! グッジョブ!
俺は大喜びでその中にワーグを放り込んでいった。
ワーグのその毛皮は、ものすごい高値がつく。俺が切り刻んじまったのもあるが、姫さまが倒したほとんど傷のないワーグもたくさんいる。これだけありゃ、そうとう儲かるぞ!
全部放り込むと、姫さまは帯を閉じ、丸めてバッグにしまった。
「すげー便利なモンばっかりだな」
俺が思わずつぶやくと、姫さまがドヤ顔をして俺を見た。
「だから、私は『冒険者になる用意した』と言っただろう?」
……たぶん、宝物庫の勇者グッズを全部持ちだしてきたんだろうと察したが、ま、いっか! と開き直った。
正直、こんなに便利なのがあるんだったらかなり冒険者稼業が楽になる。
「他には何を持ち出したんです?」
と、俺が聞くと、姫さまが意地悪そうな顔で言った。
「ヒミツだ。最初から全部教えたら面白くないだろう? ちょっとずつ教えてやる!」
俺は肩をすくめる。だが、それも面白そうかな、と考えてしまった。
そして、差し出してきた姫さまの手をとって、ギルドに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます