第4話 泊まりたい
土曜日。
明日は休日ということだが、我が家はいつものように賑わっている。
「ちょ!
「
「ちょ! ああああ!! 負けちゃう!!」
「あはは!!
「
楽しい時間はすぐにすぎる。
「おーーい。もう6時だぞ」
俺ん家は6時に閉店だ。
「えーー。まだいいじゃーーん。明日休みだしぃ」
「そういう問題じゃない。家の人が心配するだろうが」
「
やれやれ。
みんな平等にしている方が揉めなくていいだろう。
「明日は日曜日だ。どうせ朝から来るんだろ?」
「そりゃ当然でしょ。こんな楽しい場所、他にないもん。ね
「ええ! 先輩の家は心のアオシスです!」
まるで精神科みたいな場所だな。
……あ、
「そういえば、もうすぐ中間テストだったな」
「あは、あはは。そうだったかな?」
「明日は朝からテスト勉強するか」
「ええーー!! ゲームやりたいーー」
「おまえ、この前の成績ボロボロだったじゃないか」
「ううう……」
「教えてやるから一緒にやるぞ。明日は勉強会だ」
「はい〜〜」
「
「はい。とっても助かります」
まぁ、
よし。
「
「うん。……私も来てもいいかな?」
「勿論だ」
「……ありがとう」
そういえば、
どんな実力か楽しみだ。
「さぁ、暗くならないうちに帰った帰った」
「はーーい。んじゃモッチン明日なーー」
「先輩おやすみなさーーい」
「なんだ? 忘れもんか?」
「
そう言って黙り込んだ。
「なんだよ?」
「今日、泊まっちゃダメかな?」
はい?
「そういうのはNGだって伝えたはずだが?」
「その……。どうしても帰りたくなくて」
そういえば、この前に電話は、随分と怒られていたな。
「あんまり詮索はしないつもりだけどさ。母親と揉めてんのか?」
「……うん」
やっぱりか。
そうなると、彼女が俺ん家に初めて来た時もそれが関係ありそうだな。
でもな。
「俺ん家に泊まったら余計揉めるんじゃないか?」
「…………」
「それに俺は男だからな。いくらなんでも2人っきりはまずいだろう」
「
「なんでおまえが言い切るんだよ」
「……だって。
「適切な距離感を保っているからだ。一夜を過ごすなんてことはしたことがないからな」
「……じゃあ、私が泊まったら
「あのなぁ」
「私、可愛くないし。大丈夫でしょ」
いやいや。
十分、美少女だと思うが……。
「とにかく。居心地のいい空間を保つには互いの距離感が大切だ。明日、朝早くに来ればいいじゃないか」
「うん……。そだね」
その時、
何気なく、彼女の会話を聞いてしまう。
「何?」
「あなた、また遅いわよ! 最近毎日じゃない! 一体、どこに行っているのよ!?」
母親の母だろう。
随分と声量がデカいな。
「だから、友達の家」
「そんなに毎日行ったら迷惑でしょう」
「そんなことない」
「いいえ! 迷惑に決まっているわ! 人様に迷惑をかけるような人間になるんじゃありません!!」
「迷惑なんてかけてないから」
「かけているに決まっているわよ!!」
「なんでそんなことがわかるの?」
「あなたの母親だからじゃない!! 愛想のない子が人様の家に行っても迷惑をかけるのがオチなんです!!」
「だから迷惑なんてかけてないから」
「とにかく、早く帰ってきなさい!! もう罰として、明日は一歩も外に出しませんからね!!」
「どうしてそんなことお母さんに決められないといけないの?」
「それが親の勤めなのよ!!」
確かに、こんな親のいる家には帰りたくなくなるか。
「これは命令よ! 早く帰って来なさい。私はあなたのためを想って言っているのよ。あなたは何も考えず、全部、私の言うことを聞いていればいいんだから。ね。わかったら早く帰ってきなさい」
ああ、もう見てられん。
俺はスマホのメモ機能を使った。
【今日。泊まってもいいぞ】
彼女は目を見張る。
「ちょっと、
まるで、泊まっていいの? とでも確認するかのように。
「もしもし?
ここまで上からガミガミ言われたらさ。
誰だって逃げたくなるよな。
「きょ、今日……」
「今日、なんなの? 早く帰ってきなさいよ!」
「今日……。友達の家に泊まるよ」
「え? ちょ、えええ? あ、あなた、何を言っているの!?」
「だから、友達の家に泊まるって」
「そんなこと許せるわけないでしょうが!! ダメよ!! 絶対にダメ!!」
はぁーー。やれやれ。
【理由。中間テストの勉強をするから】
「ちゅ、中間テストの勉強するから」
「家でやればいいでしょう!!」
「……わ、わからない所があるから。お、教えてもらうの」
「い、一体、誰の家に泊まるのよ?」
「ど、同級生の子」
「名前は!?」
流石に俺の名前はまずいよな。
【
彼女は再び頷く。
「根好さん」
「誰それ? あなたに友達なんていたの?」
「同級生の
「で、でも急に泊まるなんて……」
「もう了承は貰ってるから」
「で、でも。ダ、ダメよ!! そんなこと許可できないわ!!」
「もう、決めたから」
「決めるのは私なのよ!!」
「決めたから」
「ちょ──」
この決断の是非は彼女に委ねるとしよう。
俺が下すことじゃないよな。
「よし。んじゃあ、夕食だな」
「……うん」
「えーーと。冷蔵庫には何もないからな。買い物行かないとだな」
「うん」
彼女は泣き顔を隠すように、俺の胸に額をくっつけた。
「
こういう時って、どんな言葉をかけてやればいいんだろうな?
おまえの親は最低だな、って慰めてやるべきなのかな?
「私。
確かにな。
でもさ。こんなに辛い思いをしてる女の子がいるんだからさ。
少しくらいの嘘。神様だって許してくれるよな。
「気にすんなよ」
「……ありがとう」
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