第5話 居心地のいい夜

 俺と 恋都莉ことりは近くのスーパーに行った。


 俺的にはコンビニの弁当でいいのだが、彼女が夕食を作ってくれるというのだ。


  恋都莉ことりは野菜や肉。その他、調味料を買い込んだ。


「時間かかるから、簡単にする」


 そう言って、家に帰ったのが7時半だった。

 8時になるとリビングのテーブルにはたくさんのおかずが並んだ。


「できた」


「へぇ〜〜」


 焼き鮭。牛肉の生姜焼き。サラダに味噌汁。胡瓜とワカメのやつは酢の物かな?

 たった30分で作ったにしてはかなり凝っていると思う。手際がいいんだろうな。


「おまえ、料理得意なのか?」


「少しだけできる。でも、そんな大した物じゃない」


「いやぁ。立派だけどな」


「食べよう」


「ああ」


 2人でいただきますをする。


「うん。美味い」


「良かった」


「肉と魚。両方あるのが嬉しいよな」


「どっちも好きっていうから、どっちも作った」


「うん。飯が進む」


 ご飯を食べた後はお風呂の時間。

 まずは俺が入ることになった。


「プハーー」


 ひとっ風呂あびてスッキリする。

 

 さて、次は 恋都莉ことりだが……。


  恋都莉ことりは制服のままだった。


「俺のジャージでいいか?」


「悪いよ」


「でも、ずっと制服じゃ疲れるだろ」


「……うん」


「気にすんなよ」


「ありがと」


「えーーと。シャンプーリンスはここ。ボディーソープはこれ。バスタオルここ。ドライヤーは好きに使ってくれ」


「うん。わかった」


「んじゃ」


「ありがと」


 脱衣所の扉が閉められる。


スルスル……。


 と、衣服を脱がす音。


 あの扉の向こうでは彼女が服を脱いで裸になっているのか……。


「…………」


 いかん。何を考えているんだ俺は。


 リビングでテレビを見る。

 なんとなくやってるクイズ番組。

 それをボケーっと。


 しばらくすると、ブィーーンというドライヤーの音が響く。

 脱衣所が開くとリンスとボディソープのいい香りが部屋の中に広がった。


「上がった」


「おお。不便なかったか?」


「うん。いい湯だった」


「そか」


 彼女は俺のジャージを着ていた。

 爆乳の胸部だけはパンパンであるが、その他は大きそうだ。


「ブカブカ」


「ははは。我慢しろよ」


「……なんか嬉しい」


 彼女はコーヒーを淹れてくれた。

 2人でそれを飲みながら、なんとなくテレビを観る。


 そういえば、布団がなかったな。


「俺ん家に人が泊まることなんてなかったからさ。寝具がないんだ。おまえ、ベッドで寝るか?」


「あ、それは大丈夫。これがある」


 それは 艿夜にやのブランケットだった。いつしか、俺の家に定着した彼女の私物である。


「ビーンズクッションもあるから枕になるし。困らない」


「いや。でも寝にくいんじゃないか?」


「大丈夫。気にしないで欲しい」


「そうか。んじゃ、俺はいつものベッドで寝かせてもらおうかな」


 深夜12時。

 俺はベッドに入る。

  恋都莉ことりはリビングでブランケットに包まった。


 だからといって、双方が寝るわけではない。

 俺はベッドでスマホを弄り、彼女はリビングで漫画を読む。

 寝るタイミングは各々が自由だ。


 トイレに行くのにリビングを通る。

  恋都莉ことりは漫画から目を逸らし、俺に向かってピースサインを送った。


「ん」


「おう。ちょっとトイレ」


「ん」


 そう言って再び漫画に目をやる。

 随分と居心地が良さそうだ。

 テーブルに積み上がった漫画はあゆみが勝手に本棚にいれている少女漫画である。

 俺は興味がないのでまったく読んだことがない。

  恋都莉ことりが夢中になっているところを見るときっと面白いのだろう。

 と、いうか女子は少女漫画が好きだよな。

 俺は、女が主人公の漫画をどんな視点で読めばいいのか皆目検討が付かない。

 やはり、女と男は違う生き物なのだろう。改めて実感するな。


「……おまえ。それ読破する気か?」


「面白い」


「何巻あるんだ?」


「全12巻。今、5巻読んでる」


「明日、朝からあいつら来るからな。遅くまでは寝れないぞ?」


「うん。でも、やめられない」


 やれやれ。

 今は深夜1時過ぎ。


「まぁ、いいけどさ。俺はそろそろ寝るよ」


「うん。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


「…… 真言まこと


「あ?」


「……ここ天国」


「はい? ここは俺ん家だぞ?」


「漫画読んでても怒られない」


「俺にそんな権利はないからな」


「ふふふ。何をしても怒られない」


「謀反さえ起こさなければな。怒る理由がないだろう」


「ふふふ。極楽」


 えらく機嫌がいいな。


「そういえば、明日、あいつらが来たらなんて言おうか? 絶対に騒ぐと思うんだよな」


「……正直に話す。優しい子たちだからわかってくれると思う」


「そか」


「……ありがとう。 真言まこと


「……おう。んじゃ。明日は9時には起きるか。10時くらいにはあいつらが来るだろうからな」


「うん」


「おやすみ」


「うん。おやすみ」


 そうして夜が過ぎた。


 次の日。

 俺はスマホのタイマーで目を覚ます。


「あれ? 味噌汁のいい匂い」


 リビングに行く。

 そこには制服に着替えた 恋都莉ことりがいた。


「おはよ」


「おお、おはよ」


 テーブルには朝ごはんが並んでいた。

 生卵に納豆。サラダに味噌汁。

 

「作ってくれたんだ」


「うん。一緒に食べようと思った」


 なにかと気が利くな。

 そして、相変わらず、


「美味い」


「朝はパン派? お米派?」


「美味しければどっちでもいい派だ」


「ふふ。私と一緒。ふぁ〜〜」


「漫画。読破したのか?」


「途中で寝ちゃった」


「ははは。まぁ、楽しみがまだあっていいじゃないか」


「うん。ふふふ。眠いけどね」


 うむ。いい朝だ。


 朝食を済まして、俺が食器を洗っている時だった。


ピンポーーーーーーーーン!!


「ヤッホーー! モッチン、起きてっかぁ?」

「先輩ーー! 起きてますかーー?」

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