彼女について思うこと(重松視点)
茉莉花に誘われて、あいつの高校の文化祭に行くことになった。
一応彼氏だし、行くのはいいんだけど、あいつ俺と香坂が会うの嫌じゃないのかな。
中学のとき、俺は香坂葵に告白して振られた。そのことはあいつもよく知っている。香坂に片思いしてるときも、なぜかあいつにはバレていてよく
失恋してみっともなく泣いたときもそばにいたし……考えてみたら、あいつにはカッコ悪いとこばっか見られてんな。
なのに、なんで俺に付き合おうなんて言ったんだろう。
それまであいつが好きだって騒いでたのは、シュッとした感じのイケメンばかりで、俺のことは好みじゃないってしつこいくらい言ってたのに……変なやつだ。
ただ、俺たちは妙に気が合う。二人とも香坂の声が好きで、好きな声優が同じで、音楽の好みも似ていた。
あいつは俺のことをオタ友だと言い、中学を卒業してからもよく会うようになった。あいつと話すのは楽しいし、コラボカフェなんかに付き合ってくれるのもありがたい。女友だちっていいもんだな。
なんてことを思ってた矢先に、告白……いや、告白でもないか。口説かれたってわけだ。
――付き合うなら友だちの中から選ぶのがいいんだって。
――すごく気が合うってことだからじゃない? あたしたちみたいに。
――今初めて会ったことにしよう。
そんなことを言われて茉莉花の顔を見たら、今まで何とも思わなかったのが不思議なくらい可愛く見えたんだ。
そして付き合い始めてからは、友だちだったときにはわからなかった彼女の意外な一面が見えてきた。
甘えるのが下手で、何かあっても強がってみせる。
照れたときに髪を触る癖がある。
我慢して食べてるけど、実はきゅうりが嫌い。
そんな些細なことを発見をするたびに、なぜか嬉しくなるんだ。
今も、喫茶店を出て手芸部に向かっていると、茉莉花が変なことを言い出した。
「どうだった? 久しぶりに葵に会って。あの子、綺麗になったでしょ」
「ああ、そうだな」
(小説家も来てたし、上手くいってるんだろうな)
「高校に行きながら声優の勉強も頑張ってるし、素敵な彼氏がいて夢まで見つけるなんて、ほんと凄いよね。あたしなんかとは大違い」
(なんだそりゃ)
俺は茉莉花の頬を両手でぶにっと引っ張った。
「にゃにすんのよ」
「香坂がどんなに綺麗になろうが、凄い声優になろうが、俺は何とも思わないからな。じゃなきゃ、おまえと付き合ったりしねえよ」
俺が手を離すと、茉莉花は頬をさすりながら呟いた。
「でも、小太郎はあたしのことが好きで付き合ってるわけじゃないじゃん」
「そんなこと――そりゃ、最初はそうだったかもしれないけど、今はちゃんと好きだぞ。だいたい、好きでもない女にキスするわけないだろ」
茉莉花の顔がトマトみたいに真っ赤になった。
「そんなの、初めて聞いたし」
「言わなくてもわかると思ってたんだ。それに、俺だって言われたことないぞ」
「そ、それはそうだけど……」
茉莉花が困ったような表情を浮かべる。
不器用なやつだ。
抱きしめたいのを我慢して手を握ると、小さな手で強く握り返してきた。
手を繋いで歩く俺たちを、すれ違うやつらがチラチラと見ている。
「手芸部ではなんか買ってよね」
「俺が買うようなもんあるのか?」
「可愛いアクセサリーがあるよ」
「おまえのかよ!」
「いいじゃん。両想いだってわかった記念に」
「へえ、両想いなんだ」
ニヤニヤする俺に茉莉花がツンとして言う。
「そうよ。好きでもない男とキスするわけないでしょ」
意地っ張りで、気が強くて、意外と寂しがり屋の俺の彼女。
茉莉花を愛おしいと思う気持ちが溢れてくる。
いつのまにか、こんなに好きになってたんだな。
――――――――――――――
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
重松と茉莉花のお話はこれでお終い。
次回は、貴志と葵のクリスマスデートです♡
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