ルイルイ(貴志視点)

「貴志くん、ルイルイって言われて何が思い浮かぶ?」


「……死屍累々ししるいるい?」


「ブッブーッ! 違いまーす! うふふ、そう言われてもわかんないよねえ」


 妙にテンションの高い葵ちゃんが、メモ帳にLui-Luiと書いた。


「これならわかるでしょ」


「Web小説サイトでいつも応援してくれてるひとだと思うけど……」


「そう! なんと、このルイルイ、うちの料理部の後輩だったの!」


「ええっ! そんなことある⁉」


「それがあったんですよー。ふふふ」


「ほんとに? 凄い偶然だなあ。どうしてわかったの?」


「その子、藤田瑠偉るいくんっていうんだけど、わたしが小説家の麦野案山子と付き合ってるって誰かから聞いたみたい。『僕、麦野先生の大ファンなんです!』って本人に言われたの。それで、よくコメントやレビューも書いてるって言うし、名まえが瑠偉でしょ。もしやと思って訊いてみたら当たってた!」


「大ファン……」

(やばい。思わず顔がにやける)


「うんうん、嬉しいよねえ。わたしもすっごく嬉しいもん。長年、麦野案山子を応援してきた同志に会えるなんて。それでね! 貴志くんさえ良ければ、一度ルイルイに会ってみない? 絶対喜ぶと思うんだ」


「それはいいけど……ガッカリされないかな。イメージと違うって」


「そんなわけないよ。ルイルイの愛を疑わないで! 心配だったら、前もって麦野案山子の実態を事細かに伝えておくから」


「それはそれでなんか……まあ、いいいか。じゃあ、そうしてもらおうかな」



 ***

 

 数日後、庭のベンチに座って待っていると、葵ちゃんに連れられてルイルイがやってきた。小柄できゅるんとした、小動物を思わせるような子だ。


「は、はは、初めまして! ルイルイこと藤田瑠偉です」


「初めまして。麦野案山子です」

  

「おおお、お会いできて光栄です!」


「こちらこそ、長いあいだ応援してくれてありがとう。きみのコメントやレビューには、いつも励ましてもらってたんだ」


「僕こそ、麦野先生の小説にいつも勇気をもらってました!」


「良かったら、うちでお茶でもどうかな?」


「そんな! ファンを部屋に入れたりしちゃダメですよ。何か盗まれたらどうするんですか!?」


「もうっ、何言ってんの。瑠偉くんは盗んだりしないでしょ」


「そっ、それはそうですけど」


 遠慮するルイルイを葵ちゃんが後ろからグイグイと押す。


「さあ、入って入って」


「じゃ、じゃあ、遠慮なく……」


 部屋に足を踏み入れた瞬間、ルイルイが叫んだ。


「ここが麦野先生の書斎!」 


「書斎っていうか、ひと部屋しかないんだけどね」


「ああっ、このパソコンで名作の数々が!」


「落ち着いて瑠偉くん! 気持ちはわかるけど」


 葵ちゃんがルイルイを必死になだめている。見ている分には面白いが、ふたりして僕のファンというのが面映おもはゆい。


「落ち着いたらそこに座って。ルイル……瑠偉くんはジュースでいいかな?」

「……」

「瑠偉くん?」


 見ると、彼は目を皿のようにして部屋の中を見回している。僕と目が合うと、小さな身体をもっと小さくして謝った。


「すみません! じろじろ見て不躾ぶしつけでしたね」


「いや。べつに見られて困るものはないから気にしなくていいよ」


「ありがとうございます。麦野先生って優しいんですね。コメントの返信も、いつも丁寧で優しさが溢れてましたけど」


「そうでしょう? ちゃんとファンの気持ちを汲み取ってくれるんだよね!」

 葵ちゃんが嬉しそうに相槌を打つ。


「はい! 返信をもらうたびに嬉しくなって、また書いちゃうんですよね!」


「わかるぅ!」

 

 ふたりしてキャッキャとはしゃいでいるが、自分のことなのでかなり恥ずかしい。


「あ、お土産持ってきたの忘れてました。先生、これお好きでしたよね」


「お、フルーツ大福だ。確かに好きだけど、そんなこと書いたっけ?」


「はい! 去年、近況ノートに書かれてました」


「そ、そう。記憶力良いんだね」


「苺とみかんとキウイが2個ずつ入ってます。僕はいいので、後で葵先輩と一緒に召し上がってください」


「じゃあ、ありがたく頂きます」

 葵ちゃんに渡すと、袋の中をのぞいて目を輝かせた。

「ここのフルーツ大福高いのに! ありがとう瑠偉くん」


「いえ、僕はこちらに招待していただけただけで胸がいっぱいで……僕は見た目がこんなだから、女みたいだって揶揄からかわれたり、外国人のくせに英語も話せないのかってバカにされたりしてたんです。

 でも、『勇者であることをひた隠して、田舎でスローライフ』を読んで、僕もジェレミーみたいに、人の言うことを気にせず、自分らしい生き方をしたいと思うようになりました」


「ルイルイ……」

「瑠偉くん……」


「だから、料理部にも堂々と入部することができたんです。男のくせに料理なんてって言う人もいるけど、僕は好きなんだからいいんだって。麦野先生のおかげです。本当にありがとうございました! あれ? どうしたんですか、麦野先生。葵先輩も」


「いや……こちらこそ、ありがとう」

「瑠偉くんは、ほんと……いい子だねえ」


 必死に涙をこらえる僕たちを、ルイルイはキョトンとした目で見つめていた。



 ―――――――――――――

 いつも読んでいただき、ありがとうございます!

 次回は久々に貴志の弟が登場します。

 

 宣伝ですが「海辺の探し物」という短いお話を書いたので、興味のある方は読みに来てください。

「海辺の探し物」

https://kakuyomu.jp/works/16817330668513283527


 



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