料理部の後輩
2年生になり、わたしにも部活の後輩ができた。
新入生で料理部に入部してきたのは、女子2人と男子1人。
男子が珍しいということもあるが、藤田
真っ白な肌、うす茶色の髪、少しグリーンがかったヘーゼルアイ、ぷくぷくしたほっぺ。
小柄なことも相まって、わたしでさえ母性本能をくすぐられるほど可愛いのだ。
自己紹介で、瑠偉くんは日本人の父親とイギリス人の母親とのミックスだと教えてくれた。
「だからそんなにカワ、いや、カッコいいんだね!」
「じゃあ英語も話せるんだ!?」
皆の目が期待で輝く。
「……すみません。家では日本語で会話してるので、僕、英語は全然話せないんです」
しょんぼりしてしまった瑠偉くんを皆が慌てて慰める。
「いやあ、いいと思うよ。意外性があって! ねえ?」
「そ、そうよ! いくら英語が話せても、日本語が出来ないと就職も大変だっていうし」
「顔がいいんだから大丈夫よ!」
「そんな雑な。でも、確かにその顔は武器になると思う!」
「お母さんに頼んでみたら? 英語教えてって」
「そうそう。日本語をきちんと話せるようにしたかったんだろうから、今ならきっと教えてくれるよ」
「ありがとうございます。僕、頑張ってみますね」
天使のような笑顔を浮かべる瑠偉くんを見て、膝から崩れ落ちそうになる先輩女子たち。まあ、そのうち慣れるでしょう。
女子の新入部員は、
「一緒の高校に行きたかったから頑張りました!」
「二人とも料理に興味があったので、この高校に決めたんです」
元気の良い蘭ちゃんとおとなしめの未希ちゃん。新入部員が増えて、料理部もますます楽しくなりそうだ。
そんなある日のこと。
教室で何人かの友だちと話していると、「ドアのところでちょこまかしてるの、葵の後輩じゃない?」と言われた。
見ると、大きめの制服に身を包んだ瑠偉くんが、教室の入口からひょこひょこと顔を出したり引っ込めたりしている。
「あら可愛い」
「おいでおいで。お菓子あげるから」
「怖くないよ~」
みんなが面白がって声をかけると、瑠偉くんはピュンと逃げていった。
「あーあ、逃げちゃった」
「葵ったら年上だけじゃ飽き足らず、後輩まで
「いや、何もしてないから!」
部活で会ったときに何か言われるかと思ったが、瑠偉くんはわたしをチラチラ見ているだけで一向に話しかけてこない。
「わたし、何かしたかなあ」
頭を悩ませていると、「あたしにまかせて」と茉莉花が話を聞きにいってくれた。
少し離れて二人の様子を見ていると、なぜか茉莉花が爆笑している。
不思議に思ってると、茉莉花が瑠偉くんを強引に引っ張ってきた。
「ちょっと、そんな無理やり――」
「いいのいいの。葵が聞いたら絶対喜ぶと思うよ。ほら、瑠偉くん!」
「はい。あの……えっと……葵先輩の彼氏って、小説家の
「あ、うん。そうだけど……」
「うわーっ! やっぱりホントだったんだあ!」
スゴイスゴイとはしゃぐ瑠偉くん。
予想外の反応に戸惑う。
茉莉花を見ると、ニヤニヤしながらこの状況を楽しんでいる。
「ちょっと、茉莉花。どういうことなの?」
「うふふ、本人から聞きなよ」
「実は僕、麦野先生の大ファンなんです!」
「えっ、そうなの!?」
「はい! 麦野先生がネットに投稿し始めたときからずっと読んでて、いつもコメントやレビューを書いて応援してました。出版された本も全部買ってます!」
「ほんとに!? 嬉しい! 貴志くんのファンなんて初めて会った……ん? ちょっと待って」
そういえば、毎回わたしと同じように熱いコメントを書いてるひとがいた。確かそのひとのIDが――
「まさか、〈
「え、なんで僕のID知ってるんですか?」
「わたし、〈
「ホリー……」
ピンとこないようなので、〈hollyhock〉と紙に書いてみせた。
「あっ! 知ってます! 麦野先生の作品で、よくコメントやレビュー書いてましたよね。そっかあ、あれ葵先輩だったんだ。あれ? でも『勇者であることをひた隠して、田舎でスローライフ』の頃って、葵先輩まだ中学生ですよね……まさか麦野先生、いたいけなファンに手を出し――」
「違います!」
せっかく出会えた同志に妙な誤解をされてはたまらない。
わたしは貴志くんと出会ったときから今に至るまでの話をした。
話を聞き終わると、瑠偉くんは目をキラキラさせて言った。
「なるほど! 年齢を越えた葵先輩の愛が、麦野先生をずっと支えてきたんですね!」
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