クリスマス 2

 クリスマスイブの日。

 暗くなる前に家を出て、クリスマスマーケットの会場に向かった。


 ときどき雪が舞うような寒さで、わたしも貴志くんもモコモコになるほど厚着をしている。

 これだけ着込んでたら大丈夫だと思うけど、電車や建物の中では汗をかくから、風邪を引かないように気をつけなきゃ。


 わたしの身長はかなり伸びていて、今では貴志くんとの身長差がおよそ15センチ!

 ムフフ。まさか本当に理想の身長差になるとは。

 最近は、これ以上伸びないでと身体に言い聞かせている。


 これなら並んで歩いてもおかしくない。それどころか、お似合いのカップルに見えるはず!


 長年の夢がやっと叶ったのだ。こうして外に出て見せびらかすのが嬉しくてたまらない。まあ、他のカップルの目には入らないだろうけど。


 地下鉄を降りて地上に出ると、すでに外は暗くなっていて、会場までのケヤキ通りは白と青のイルミネーションで光り輝いていた。


 手袋をしたまま手を繋ぎ、寒空の下をゆっくりと歩いていく。

 寒すぎて手袋を外せないのは残念だけど、二人とも黒のダウンジャケットを着てるから、お揃いみたいでちょっと嬉しい。


 5分くらい歩くと会場に着いた。

 広場にはきらびやかなクリスマスツリーが飾られていて、皆が足を止めて写真を撮っている。わたしと貴志くんもツリーをバックに何枚か自撮りした。


 シュトゥットガルトのクリスマスマーケットの雰囲気を再現しているという会場には、ドイツオリジナルのクリスマス雑貨や、グリューワイン、ドイツ料理などの店舗が並んでいる。


 雑貨屋には、煙出し人形、くるみ割人形、鳩時計といった、あまり見ることのないドイツの工芸品や、手作り風のクリスマスオーナメント、アドベントカレンダーなどのクリスマス雑貨が勢揃いだ。


 素朴で落ち着いた色合いのドイツ雑貨は、どこか懐かしいようなほっこりとした気持ちにさせる。


 どれも安い値段ではないので迷っていると、貴志くんがコマドリと柊の模様のオーナメントボールを買ってくれた。


「ありがとう! すごく綺麗だよね。帰ったらさっそくツリーに飾らなきゃ。お母さんも喜ぶだろうな」


「そうだね。そろそろ何か食べる? お腹空いたでしょ」


「うん! 貴志くん、なに食べたい?」


「あっちの店のメニュー見てみようか」


 店頭に貼ってあるメニューには、フランクフルトソーセージやグーラッシュの他に、甘そうなワッフルやプレッツェルもあった。


 わたしたちは、牛肉のグーラッシュを2つとニュンベルガーというソーセージを1皿、それにワッフルとプレッツェルを1つずつ頼んだ。


「飲み物はどうする?」

「貴志くんホットワイン飲む?」

「今日はデートだからいいや」

「えへっ」

「なんで喜んでるの? デートでしょ?」

「そうだけど、言葉にしてもらうと嬉しいの!」

「ふうん」

「乙女心がわかってないなあ」

「……すみません」


 結局、貴志くんはホットコーヒー、わたしはホットチョコレートにした。


 テーブルの上に全部並べると、なかなか豪華に見える。

 吹きっさらしの場所で食べるので、とにかく温かい物が嬉しい。

 まずはドイツのシチューだというグーラッシュをひと口。


「あふっ。熱いけど美味しい」

 ハフハフしながら食べると、身体の震えが次第に収まっていく。

「肉がゴロゴロ入ってるね。普通のビーフシチューみたいだけど」

「ね。なにが違うのかな」


 ときどきプレッツェルをかじりながら、二人してあっという間にグーラッシュを平らげた。

 次にソーセージに手を伸ばす。

 ひと口食べると、パリッとした歯ごたえのある食感。ジューシーな肉汁とハーブが口の中に広がる。

「うまっ」

 と貴志くんが声を上げた。

「おいひい」

 ザワークラウトというキャベツの酸っぱい漬物がよく合う。もちろんプレッツェルも。


 結構食べたけど、まだワッフルが残っている。キャラメルのかかったワッフルをふたりで分け合って食べた。

 外はカリッと、中はもちもちしてて、キャラメルの甘さがしみる。


「葵ちゃんも結構食べたね」

「デザートは別腹だもん。ああ、美味しかった! さすがにお腹いっぱい」


 テーブルが空くのを待っているひともいるので、さっさと片付けた。寒いから長居できないというのもある。


 ここは都心の一等地で、会場のそばにある大型複合施設のテナントも高級品を扱う店が多い。トイレに行ってから店内を見て回ったけど、価格も高いしそれほど欲しい物もなかった。


「身体も温まってきたし、そろそろ帰ろうか」

「うん。帰ったらプレゼントの交換しようね」


 底冷えする寒さのなか、時折ふわりと雪が舞う。

 

「来年のクリスマスもまた来ようか?」

 

「毎年違う場所に行くのもいいかもよ」

 

「そうだね。次は洒落たレストランでも予約しておこうかな」


「クリスマスなんて、人気のある店はよっぽど前から予約しないと無理だよ」


「そ、そうなんだ。よしっ、今からでも」


 慌ててスマホを取り出す貴志くんを止める。


「べつにいいよ。今日みたいに外で食べるのも楽しいし」


「そうだね。楽しかったね」


 当たり前のように貴志くんが来年の話をするのが嬉しかった。

 この先もずっと一緒にいると言われてるみたいで。




 ――――――――――――――

 せっかくなのでクリスマスイブに合わせました。

 メリークリスマス!

 自分は引きこもってますけどね。

 (ΦωΦ)フフフ…






 

 


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